ファーウェイは中国自動車メーカーの「必須の選択肢」ではなくなったのか

 中国の自動車業界では最近、ファーウェイが自動車メーカーにとっての「必須の選択肢」から、複数ある「選択肢の一つ」へと変わりつつあるとの見方が広がっています。

 8月8日、AVATR(阿維塔)科技の雍軍副総裁は、メディア向け説明会でファーウェイとの協業について、「この協業モデルが必ず必要だとは考えていない」と発言しました。この発言はすぐに、業界内で「AVATRがファーウェイへの依存度を下げようとしている」と受け止められました。

 AVATRはその後、両社の協業そのものを否定する発言ではないと説明しましたが、ファーウェイが今後も自動車メーカーにとってほぼ唯一の選択肢であり続けるのかという議論が広がるきっかけとなりました。

 現在の業界では、独自の開発力が十分でないメーカーが短期間で高度な運転支援機能を実現しようとする場合、ファーウェイのシステムは依然として有力な選択肢だとの見方があります。

 たとえば、VOYAH(嵐図)の邵明峰CBOは、現時点で優れた運転支援体験を求めるなら、ファーウェイのシステムは「必須の選択肢」だとの考えを示しています。啓境の劉嘉銘CEOも、ファーウェイ乾崑(Qiankun)との協業を継続する方針を明らかにしています。

 一方、自動車メーカー各社で技術の蓄積と開発力の向上が進むにつれ、長期的には特定のサプライヤーだけに依存する事業モデルを見直す動きも出ています。

転換点となったAITOとSERESの役割変更

 この議論の大きな転換点となったのが、2026年9月15日に発表されたAITO(問界)の協業体制の変更です。

 商品企画、ブランドマーケティング、販売チャネル、小売りなどの主導権はSERES(賽力斯)に移り、ファーウェイは支援する立場となりました。

 ただし、AITOは引き続き鴻蒙智行(HIMA)のメンバーです。また、智界、享界、尊界、尚界の4ブランドについては、ファーウェイが全工程を主導する従来の協業体制が維持されます。

 約5年半前、ファーウェイは自社のスマートカー向け技術を大規模に車両に搭載するため、鴻蒙智行の協業モデルを構築しました。SERESは、そのモデルを早期に採用した自動車メーカーです。

 それから約5年半を経て、AITOでは主導権がSERES側に移り、ファーウェイの役割は「全工程を主導する存在」から「技術や事業を支援する存在」へと変化しました。

なぜ「必須の選択肢」ではなくなりつつあるのか

 まず挙げられるのが、販売実績の変化です。

 AITOの2026年8月の販売台数は2万652台で、前年同月比49.68%減少しました。また、SERESは2026年上期の親会社株主に帰属する純損失が15億~18億元になるとの見通しを示しています。

 ファーウェイの技術を採用することが、必ずしも販売台数の増加に直接つながるとは限らない状況になっています。

 もう一つの変化が、ファーウェイ技術の普及です。

 ファーウェイ乾崑はすでに22ブランド、55車種に採用されています。採用メーカーが増えるほど、同じ技術を利用するブランド間で、商品をどのように差別化するかという課題が大きくなります。

 自動車メーカーにとっては、ファーウェイの技術を搭載すること自体ではなく、その技術を使いながら、自社ならではの商品価値をどのように構築するかが重要になっています。

コストも無視できない判断材料

 協業コストも重要な要素です。

 自動車メーカーからファーウェイ側への支払いには、ハードウェアの調達費用に加え、車両価格の2%に相当する技術ライセンス料、8%に相当する販売・マーケティングサービス料などが含まれ、合計では車両価格の約10%に相当するとされています。

 収益性への要求が高まるなか、自動車メーカーにとっては、こうした費用に見合う販売面での効果や商品競争力を得られるかどうかを、これまで以上に精査する必要があります。

海外展開では複数システムの準備も必要に

 海外市場への進出を目指す中国メーカーにとっては、別の課題もあります。

 ファーウェイが各国の規制や制裁の影響を受けていることから、市場によっては同社の技術を採用した車両の展開に制約が生じる可能性があります。

 海外市場への参入条件、データセキュリティ、各国の法規や技術基準、コスト、ブランドの差別化などを考慮し、ファーウェイ以外のシステムも用意する動きが広がっています。

ファーウェイも「専用技術」で差別化

 ファーウェイ側も協業モデルの変化に対応しています。

 2026年8月、余承東氏は鴻蒙智行の発表会で、途霊プラットフォーム、巨鯨バッテリー、ファーウェイ智擎などを含む7つの能力について、「ほかの協業モデルでは得られない」と説明しました。

 幅広いメーカーに共通技術を提供する一方、鴻蒙智行では専用技術を用意することで、協業モデルそのものの差別化を図る考えです。

 同時に、業界ではMomentaなどのサプライヤーも採用を拡大しています。Momentaはすでに130車種を超えるモデルへの採用が決まっており、自動車メーカーが選べる運転支援技術の選択肢は増えています。

「必須の選択肢」から有力な選択肢へ

 ファーウェイが自動車メーカーにとっての「必須の選択肢」から「有力な選択肢の一つ」へと変わりつつある背景には、同社の技術が一部メーカーだけのものではなくなり、業界全体に普及してきたことがあります。

 ファーウェイの技術は依然として高い競争力を持っています。一方で、自動車メーカーは販売台数だけでなく、収益性、ブランドの差別化、自社開発力、海外市場への対応まで含めて、協業の範囲を判断する必要があります。

 ファーウェイを採用するかどうかではなく、どの技術を、どの範囲で使うのか。

 「必須の選択肢」かどうかの答えは、最終的には各メーカーの事業採算と商品戦略によって異なるものになりそうです。