AITO(問界) M9が衝突後に急速炎上、運転者死亡 公式声明は死者に言及せず、安全性と危機対応に再び疑問

 10月17日夜、中国陝西省楡林市神木市で、ファーウェイ系のAITO(問界)の車両による重大な交通事故が発生しました。ネット上で「AITO M9」と指摘されているレンジエクステンダー式SUVが交差点で信号機の支柱に衝突した直後、車両前部から急速に出火し、あっという間に車両全体が炎に包まれました。10月21日、地元警察は単独事故であったことを確認し、車内には運転者1人が死亡したことを明らかにしました。

 事故現場の監視カメラ映像がインターネット上で拡散され、大きな注目を集めています。事故原因だけでなく、なぜ衝突直後に急速に炎上したのか、運転者に脱出する機会があったのか、さらにAITOの事故対応のあり方などが議論の焦点となっています。

AITOは事故から4日後に声明、運転者の大幅な速度超過を強調

 10月21日、AITOのユーザーサービス部門は事故に関する声明を発表しました。それによると、事故当時、車両は手動運転状態にあり、交差点を通過する際の速度は139.1km/hに達していました。一方、現場の制限速度は50km/hでした。車両は高速で信号機の支柱に衝突し、前部から出火したと説明しています。

 AITOは、激しい衝突によってエンジンルーム内の配線が短絡し、油液が漏れたことが出火原因とする初期分析を示しました。また、事故前に車両の異常は確認されておらず、衝突後には車載緊急通報システムが直ちに作動し、救援センターから警察の通報番号「122」に連絡したとしています。

 ネット上で広がっている「バッテリーの爆発・炎上」や「スマート運転による衝突」といった情報について、AITOは事実に反すると否定し、不確かな情報を信じたり拡散したりしないよう呼びかけました。最終的な事故原因については、当局の調査結果を待つ必要があります。

 注目すべきは、事故から4日後に公表された300字余りの声明が、車速、運転モード、出火原因、緊急通報システムについて詳しく説明する一方、運転者が死亡した事実には一切触れていなかったことです。この対応は、AITOの危機管理広報のあり方に対するメディアの批判も招いています。

ネットユーザーの疑問:速度超過だけですべての安全問題を説明できるのか

 中国のQ&Aサイト「知乎(Zhihu)」などでは、今回の事故をめぐって、いくつかの問題点が指摘されています。

 まず、AITOは小数点以下1桁までの正確な車速を公表したものの、そのデータの出所や衝突瞬間の速度、衝突の強さ、関連システムの完全な記録などは公開していません。

 このため、AITOが発表した車速に疑問を呈するネットユーザーも少なくありません。事故映像をコマ送りで分析して速度を推計したユーザーの中には、AITO M9が交差点に進入した際の速度は139.1km/hには到底達しておらず、実際にはその半分にも満たなかった可能性があると主張する人もいます。

 速度超過と、車両自体に十分な衝突後の安全防護性能が備わっているかどうかは、別の問題です。仮に事故が運転者の操作に起因するものであっても、それによって車両の出火メカニズムに関する調査が不要になるわけではありません。

 次に、現場映像では、車両が衝突直後に急速に炎上する様子が確認できます。ネットユーザーが関心を寄せているのは、出火箇所だけではありません。燃料配管、電気配線、高電圧システムなどの衝突防護が十分だったのか、また、衝突後に乗員が脱出するための時間を確保できる設計になっていたのかという点です。

 現時点では、今回の事故が車両の品質上の欠陥によって引き起こされたと断定できる十分な証拠はありません。しかし、AITOによる初期段階の説明が、最終的な技術鑑定に代わるものでもありません。

過去にも死亡事故、AITOの安全性アピールに繰り返される疑問

 AITOの衝突・炎上事故は今回が初めてではありません。

 2024年4月には、山西省運城市でAITO M7が道路維持作業車に追突した後に炎上し、車内の3人が死亡する事故が発生しました。当時、遺族や一般市民から、自動緊急ブレーキ(AEB)の作動状況、衝突後のドアの開閉、車両の防火性能などについて疑問の声が上がりました。

 この事故は、AITOのマーケティング手法をめぐる議論にも発展しました。中国の経済メディア「21世紀経済報道」は、自動車メーカーによるスマート運転や安全性能の過剰な宣伝を批判する記事を掲載しましたが、その後、記事が削除されました。これを受け、外部からの圧力によるものではないかとの憶測が広がりました。

 過去の事故から今回の神木市の事故に至るまで、繰り返し浮かび上がる問題があります。それは、メーカーが宣伝するスマート化、安全性、技術的優位性が、実際の重大事故において、どこまで乗員の生命を守ることができるのかという点です。

 多くの自動車メーカーは、「他社を圧倒的にリードしている(遥遥領先)」「絶対的な安全性」といった宣伝文句でブランドイメージを築くことに熱心な一方、スマート運転や安全技術の適用条件、物理的な限界については意図的に説明を控える傾向があります。こうした宣伝手法は、消費者に実際の性能を超える安全性への期待を抱かせるおそれがあります。

 さらに懸念されるのが、事故発生後の世論への対応です。企業には誤った情報を訂正する権利があります。しかし、議論の焦点を早急に運転者の責任へと転嫁したり、公開性と透明性のある技術調査の代わりに、情報の否定、記事の削除、議論の制限などによって事態を収束させようとしたりすれば、消費者や社会からの信頼をさらに損なうことになるでしょう。