中国車メーカーで進む「脱CATL」 電池調達の多元化が加速、サプライチェーン再編へ

 中国の新エネルギー車(NEV)市場で、自動車メーカーによる車載電池の調達先見直しが加速しています。これまで「最も確実な選択肢」とされてきた寧徳時代(CATL)への依存度を引き下げ、複数の電池メーカーから調達する動きが広がっています。

 2026年に入ってから、理想汽車(Li Auto)、シャオミ汽車(Xiaomi Auto)、ファーウェイ系鴻蒙智行(Harmony Intelligent Mobility)、小鵬汽車(XPeng)、零跑汽車(Leapmotor)などが相次いで車載電池の調達体制を見直し、欣旺達(Sunwoda)、中創新航(CALB)、国軒高科(Gotion High-tech)などを新たな供給先として採用しています。

 一部のメーカーでは、自社開発・自社生産への取り組みも本格化しています。いわゆる「脱CATL」は以前からみられた動きですが、2026年に入り、その流れが一段と鮮明になっています。

独占供給から「複数社調達」へ

 最近の代表例が理想汽車です。

 同社は9月7日、新世代「理想MEGA」の初回生産分にはCATL製の5C三元系リチウムイオン電池を搭載する一方、自社開発電池の量産準備が整い次第、その後の車両を自社開発の5C三元系電池へ順次切り替える方針を明らかにしました。

 これに先立って発売された新型「理想L8」でも、電池セルの供給元を欣旺達に変更しており、CATLは同モデルのセル供給から外れています。

 シャオミ汽車も調達先の拡大を進めています。「SU7」や「YU7」では、これまでCATLとBYD傘下の弗迪電池(FinDreams Battery)を主な供給元としており、CATLが大きな比率を占めてきました。

 しかし9月には、中創新航との「龍甲電池」に関する戦略提携を発表し、特定の電池メーカーへの依存をさらに引き下げる方針を打ち出しました。

 鴻蒙智行でも、従来のCATLとの強い関係を維持しつつ、供給元の多元化が進んでいます。「問界(AITO)」「智界(LUXEED)」「尚界」などでは、国軒高科や欣旺達などの採用が始まっています。

 一方、小鵬汽車や零跑汽車などは、同一仕様の電池について複数のセルメーカーを採用する、より典型的な「マルチサプライヤー戦略」を採っています。性能、価格、生産能力、供給リスクなどを総合的に比較し、調達先を分散する考え方です。

 つまり、「脱CATL」はCATL製電池を全面的に排除する動きではありません。従来の「CATLへの高い依存」や「独占供給」から、「CATL+第2、第3のサプライヤー」という複数社調達へ移行することが、その実態といえます。

背景に収益悪化とコスト削減圧力

 自動車メーカーが単一サプライヤーへの依存を見直す最大の理由は、コストと収益性です。

 車載電池は一般にNEVの車両材料費の約30%を占め、一部の車種ではさらに高い比率に達します。一方、中国の自動車市場では数年にわたって価格競争が続き、完成車メーカーの利益率は低下しています。

 これに対し、電池最大手のCATLは高い収益力を維持しています。2026年上半期の売上高は2,769億2,000万元、親会社株主に帰属する純利益は432億8,000万元で、純利益は前年同期比42%増加しました。

 多くの自動車メーカーが低収益、あるいは赤字経営を続けるなか、電池調達コストを引き下げる重要性はこれまで以上に高まっています。

 CATLは技術力、生産規模、ブランド力を背景に高い価格交渉力を持ってきました。しかし、欣旺達、中創新航、国軒高科、億緯鋰能(EVE Energy)などの製品性能が向上し、CATLとの差が縮小するにつれ、自動車メーカー側には調達先を増やす余地が広がっています。

 複数社を競わせることで、調達価格を抑えるとともに、完成車メーカー側の交渉力を高める狙いがあります。

供給リスクの分散も重要に

 第2の理由は、サプライチェーンの安定性です。

 主力モデルの電池を1社だけに依存した場合、価格だけでなく、生産能力や供給スケジュールにもサプライヤーの影響を受けやすくなります。電池の供給不足が発生すれば、完成車の生産や納車にも直接影響しかねません。

 2社、あるいは3社から調達できる体制を構築すれば、特定サプライヤーの生産トラブルや需給ひっ迫による影響を抑えることができます。

 価格交渉、生産能力の配分、新技術の採用といった面でも、完成車メーカー側の選択肢は広がります。

車両の「製品定義」を取り戻す狙い

 もう一つの重要な背景が、完成車メーカーによる製品主導権の確保です。

 近年は消費者が電池ブランド、航続距離、急速充電性能、電池の化学系などを意識して車を選ぶようになり、電池メーカーの存在感が急速に高まっています。

 中でもCATLは、従来のBtoB型部品メーカーの枠を越え、一般消費者にも広く認知されるブランドとなりました。「CATL製電池を搭載していること」自体が、一部車種では販売上の訴求材料にもなっています。

 ただし、完成車メーカーにとっては、搭載する電池ブランドによって車両の価値や「高級かどうか」まで判断される状況は、必ずしも望ましいものではありません。

 車両の性能やブランド価値を最終的に定義する主体は、あくまで完成車メーカーでありたいからです。

そのため理想汽車、吉利汽車、広汽集団、長城汽車、BYDなどは、自社開発電池への投資や電池メーカーとの合弁、自前の電池事業構築などを進めています。

 電池を単なる外部調達部品ではなく、車両開発の中核技術として自社の技術体系に取り込もうとする動きです。

「脱CATL」で第2グループに商機

 もっとも、市場シェアを見る限り、CATLが短期間で主導的な地位を失う可能性は低いとみられます。

 2026年1~7月の中国国内におけるCATLの車載電池搭載シェアは47.8%に達し、市場のほぼ半分を占めました。2位のBYDは17.7%で、中創新航が6.4%、国軒高科が6.3%、億緯鋰能が5.3%と続いています。

 ただし、供給構造は着実に変わり始めています。

 恩恵を受けるのは、中創新航、欣旺達、国軒高科、億緯鋰能など第2グループの電池メーカーです。

 これまで、こうした企業にとって大きな壁となっていたのは、製品そのものの有無ではなく、大手自動車メーカーの主力車種に採用される機会が限られていたことでした。

 完成車メーカーが第2、第3の供給先を積極的に育成するようになったことで、これらの電池メーカーが主要モデルへ参入する機会は増えています。

 同時に、自動車メーカーによる電池の自社開発も今後の重要な流れとなりそうです。

 BYDはすでに弗迪電池を通じて自社内で完結する供給体制を構築しています。長城汽車、吉利汽車、広汽集団なども独自の電池事業を展開しており、理想汽車も自社開発電池の量産化を進めています。

 車載電池は、単に外部から購入する部品から、完成車メーカー自身が掌握すべき中核技術へと位置づけが変わりつつあります。

CATLが「外される」可能性は低い

 一方、現在の「脱CATL」の動きを、CATL離れそのものと捉えるのは適切ではありません。

 車載電池は巨額の設備投資、高度な技術力、安定した量産能力が必要な産業です。また、サプライヤーを変更する場合、単純に電池を載せ替えるだけでは済みません。

 BMS(バッテリーマネジメントシステム)、電池パック構造、熱管理、車台、車両制御などとの適合を改めて行う必要があり、安全性や耐久性についても多くの検証が求められます。

 特に高倍率急速充電、高エネルギー密度、高性能な三元系リチウムイオン電池などの分野では、CATLは依然として高い競争力を持っています。

 そのため、多くの自動車メーカーの狙いは「CATLを使わないこと」ではなく、「CATLしか選べない状態から脱すること」にあるとみられます。

 今後は、高級車や高性能グレードではCATLなど大手メーカーの電池を引き続き採用する一方、中価格帯や量販モデルでは中創新航、欣旺達、国軒高科などの採用が拡大すると考えられます。

 さらに、完成車メーカー自身も自社開発・自社生産の比率を徐々に高めていくでしょう。

 中国の車載電池市場は、これまでの「1社への集中」から、CATLなどの大手電池メーカー、複数の第2グループ企業、そして完成車メーカー自身の電池事業が併存する構造へと移行しつつあります。

 「脱CATL」はCATLの排除ではなく、中国のNEV産業が成長期から成熟期へ移るなかで進む、サプライチェーンの再編と主導権の再配分とみるべきでしょう。