タイ、2027年から輸入EVの物品税を35%に引き上げ、中国メーカーに現地生産の拡大迫る

 タイ政府は11月3日の閣議で、輸入電気自動車(EV)に対する物品税(Excise Tax)の引き上げを承認しました。2027年1月1日から、一部の輸入バッテリー式電気自動車(BEV)の税率を現行の10%から35%に、レンジエクステンダー式EV(REEV)についても15%から35%に引き上げます。今回の措置は、自動車メーカーによるタイ国内への投資と現地生産を促進し、国内の自動車産業や雇用を守ることを目的としています。

 一方、一定の条件を満たすタイ国内生産のBEVには、引き続き2%の優遇税率が適用されるため、輸入車との税率差は33ポイントに広がります。ただし、すでにタイに工場を持つメーカーの輸入車が優遇税率の対象となるかどうかや、輸入枠、現地調達部品の要件などについては、今後の詳細な規定を待つ必要があります。

 今回の税率引き上げは、中国の自動車メーカーに大きな影響を及ぼすとみられます。 タイ電気自動車協会(EVAT)によると、2026年1~9月にタイで販売された約19万台のEVのうち、輸入車が70%を占め、現地生産車は30%にとどまりました。また、タイのBEV乗用車市場では、中国ブランドが約90%のシェアを占めています。タイ政府の統計によると、今年1~9月の電動乗用車の輸入額は23億7,000万ドルに達し、その約96%が中国からの輸入でした。

 輸入車については、税率引き上げによるコスト増加が避けられません。 例えば、物品税の課税標準が100万バーツのBEVの場合、税率が10%から35%に引き上げられることで、税額は25万バーツ増加します。ただし、その分がそのまま販売価格に転嫁されるわけではありません。タイメディアは、中国メーカー幹部の試算として、一部の輸入車の販売価格が最大約10%上昇する可能性があると報じています。実際の値上げ幅は、メーカーがどの程度の税負担を吸収するかや、市場競争の状況によって異なります。

 すでにタイに工場を持つ中国メーカーにとって、今回の措置は現地生産車の競争力を高める方向に働くとみられますが、影響はメーカーや車種によって異なります。

 BYD、上汽MG、長城汽車(GWM)、長安汽車(Changan)、広汽埃安(AION)、奇瑞汽車(Chery)などは、すでにタイに完成車の生産拠点を構えています。

 このうち、BYDのラヨーン工場では、DolphinやATTO 3などの主力車種を生産しています。今年1~10月の両モデルのタイ国内登録台数は合計約2万1,300台で、現地工場からの供給が可能です。一方、輸入に依存するDENZAなどの車種は、値上げ圧力に直面する可能性があります。BYDのタイ販売代理店Rêverは以前、DENZAの全モデルと一部のBYD車種が価格面で影響を受けるとの見方を示していました。

 奇瑞汽車も、今回の税制改正による恩恵を受ける可能性があるメーカーの一つです。同社は今年4月にラヨーン工場を稼働させ、JAECOO 5 EVなどを生産しています。今年1~10月のJAECOO 5 EVの登録台数は2万118台に達し、タイ市場における同社の主力モデルとなっています。現地生産によって、新税制の下でも価格競争力を維持しやすくなるとみられます。

 上汽MG、長城汽車、長安汽車、広汽埃安も現地生産体制を整えています。このうち、広汽埃安の今年1~9月のBEV乗用車登録台数は1万6,888台、長安汽車傘下のブランドは1万6,151台でした。輸入車の税負担が増えることで、主力モデルを現地生産しているメーカーは、市場シェアをさらに拡大する可能性があります。ただし、工場を保有しているからといって、すべての輸入車に自動的に低税率が適用されるわけではなく、今後定められる現地生産・調達要件を満たす必要があります。

 これに対し、完成車輸入を中心に事業を展開する吉利汽車(Geely)、極氪(ZEEKR)、小鵬汽車(XPENG)などは、より直接的な影響を受けるとみられます。

 今年1~10月の吉利、ZEEKR、RIDDARAの3ブランドのタイ国内登録台数は合計2万2,440台に達しましたが、現地にはまだ完成車工場がありません。これらの輸入モデルが税制上の優遇措置を受けられない場合、価格競争力が低下する可能性があります。

 小鵬汽車も同様の課題を抱えています。今年1~10月のタイ国内登録台数は5,443台で、このうちG6が3,218台、X9が2,225台を占め、いずれも輸入車です。同社は現地パートナーとタイ国内での組立生産を検討していますが、具体的な生産開始時期は明らかにしていません。

 そのほか、新たにタイ市場に参入した中国メーカーも投資計画の見直しを進めています。零跑汽車(Leapmotor)は、タイでのCKD(完全ノックダウン)方式による組立生産を検討しており、年間6万~8万台規模の生産能力を想定しています。また、東風汽車傘下の嵐図汽車(VOYAH)は、現地パートナーと合弁工場の設立や既存工場への生産委託について協議しています。いずれも計画は確定していませんが、輸入車への課税強化が中国メーカーの現地生産への動きを加速させていることを示しています。

 中長期的には、今回の税制改正が中国からタイへの自動車輸出の構造を変える可能性もあります。 中国の輸出統計によると、今年1~9月のタイ向けBEV乗用車輸出台数は約15万9,900台、輸出額は約171億1,000万元に達しました。今後、タイ国内での生産が拡大すれば、中国からの完成車輸出の一部が現地組立・生産に置き換わり、自動車部品やノックダウン部品の輸出が増加する可能性があります。

 今回の税制改正は、タイのEV政策が普及促進から国内製造業の育成へと重点を移しつつあることを示しています。中国メーカー間の競争にも変化をもたらし、主力モデルの現地生産を実現しているメーカーが優位に立つ一方、輸入車への依存度が高いメーカーは、販売価格の引き上げ、利益率の圧縮、現地生産への投資という選択を迫られることになります。