9月23日、上海汽車集団(SAIC)傘下の智己汽車(IM Motors)は、新型「LS6」の発表会と報道陣向け説明会を開きました。19万7,900元からという思い切った価格設定が市場の注目を集めましたが、さらに話題となったのが、ワイヤー制御シャシーを全車に標準装備したことです。これまで主に高価格帯の車種に採用されてきた技術が、20万元台に広がりました。IM Motorsの項嬌CTOは説明会で、2026年にはワイヤー制御シャシーを採用する量産車が相次ぐとの見方を示しました。
この見方の背景には、制度の変更があります。2026年7月1日、中国の国家標準「自動車の操舵装置に関する基本要求(自動車のステアリング系の基本要件)」(GB 17675—2025)が施行されました。新基準では、操舵装置に機械的な接続を残すことを義務付ける規定が削除され、機械的なバックアップを持たないステアバイワイヤ車の量産申請に向けた制度上の障壁が取り除かれました。基準の策定には、蔚来汽車(NIO)、理想汽車(Li Auto)、小鵬汽車(XPeng)、BYDなど、中国の主要メーカーが参加しています。
ワイヤー制御シャシーが注目される理由
従来の操舵装置は、ステアリングホイールと車輪を機械的につないでいます。ステアバイワイヤはこの接続をなくし、運転者や自動運転システムの操舵指令を電気信号で伝えます。ブレーキのワイヤー制御なども、シャシーの各装置を電子的に制御できるようにする技術です。
自動運転にとっては、操舵、制動、車両姿勢をより直接的に協調制御できる点に意味があります。各装置の応答速度や精度、信頼性についても、システム全体で管理しやすくなります。また、運転者と運転支援システムが共同で車両を制御する際、機械的な接続があると、ステアリングホイールの操作を「取り合う」ような感覚が生じることがあります。ステアバイワイヤには、操作を引き継ぐ際の違和感を軽減する効果も期待されています。こうした理由から、メーカー各社は、より高度な自動運転を支えるハードウェア基盤と位置付けています。IM Motorsは2027年に、レベル3の自動運転に対応できる第2世代のワイヤー制御シャシーを投入する計画です。
その効果は日常の運転にも表れます。IM Motorsによると、LS6の操舵応答時間は20ミリ秒で、後輪操舵と組み合わせた場合の最小回転半径は4.49メートルです。大型SUVでも、狭い道路での転回や駐車がしやすくなるとしています。ただし、実際の運転感覚は車両全体の調整にも左右されるため、ワイヤー制御技術の有無だけでは判断できません。
コストを抑えられた背景
コストは、ワイヤー制御シャシーの普及を妨げてきた主な要因です。Li Autoの李想CEOは、ステアバイワイヤと後輪操舵は40万元級の電動SUVでも珍しく、その理由はコストの高さにあると述べています。ワイヤー制御システムには、操舵や制動の装置だけでなく、故障に備えた電源、通信、ハードウェアのバックアップも必要です。
項CTOによると、IM Motorsが20万元台の車種にワイヤー制御シャシーを採用できた主な理由は、SAICの自社開発とサプライチェーンにあります。中核部品や開発内容を自社で把握することで、内部仕様が見えない外部の「ブラックボックス」型システムを調達する際に生じるコストを抑え、調達規模を生かして部品価格も管理できるという説明です。これはIM Motorsが説明する自社のコスト面での強みであり、業界全体で同じ水準までコストが下がったことを意味するものではありません。
中国汽車工程学会の「電気自動車スマートシャシー技術ロードマップ」では、ステアバイワイヤの2025年の目標コストを4,000元未満とし、2030年には2,500~3,000元まで下がり、普及率が30%に達すると予測しています。レベル3以上の自動運転を支えられる量産コスト水準に達するものとして期待されています。
他社の動向と安全上の課題
9月16日に発売されたLi Autoの「i9」は、ステアバイワイヤと後輪操舵を標準装備し、価格は36万9,800元です。XPengが39万9,800元で予約販売中の「GX Ultra」最上位モデルも、ワイヤー制御シャシーを標準装備としています。NIOの「ET9」は2025年第1四半期に納車が始まり、中国でステアバイワイヤを採用した量産車の早期事例の一つとなりました。各社は異なる価格帯で採用を進めていますが、装備の範囲には違いがあります。ステアバイワイヤの採用が、そのままシャシー全体のワイヤー制御を意味するわけではありません。
機械的な接続をなくすと、電子システムの故障への備えが一段と重要になります。IM Motorsは、LS6の電源、通信、制御装置に冗長構成を設け、一部のシステムが故障しても基本的な操舵・制動能力を維持できると説明しています。安全性能や量産後の長期的な信頼性については、今後の実際の使用を通じた検証が必要です。制度上の障壁が取り除かれ、各社が採用車種を広げるなか、コスト管理と安全性の確認が、さらなる普及を左右しそうです。
IM Motors 新型「LS6」

写真:IM Motors
