中国では、セルラーV2X(C-V2X)の搭載を義務付ける強制国家標準の策定が進められています。将来的には、新車へのC-V2X通信機器の標準搭載が義務付けられる可能性があり、まずは事業用車両から導入される見通しです。
中国メディア「毎日経済新聞」の10月26日付の報道によると、匿名のC-V2X業界関係者は、関係当局が車両へのC-V2X搭載を義務付ける強制国家標準の策定に着手したことを明らかにしました。すでに作業部会が設立され、数十の企業・機関が参加しているといいます。ただし、義務化の対象がどこまで拡大されるのか、具体的な技術要件や実施時期については、まだ明らかになっていません。
事業用車両から先行、標準搭載の義務化に向けた制度整備が進む
2026年6月末、中国の交通運輸部は、強制国家標準「事業用車両の運行安全に関する技術・管理要求」(計画番号:20254333-Q-348)の意見募集案を公表しました。同案では、事業用車両にLTE-V2Xの直接通信機能を備えた車載情報通信システムの搭載を求めています。
草案によると、同標準は公布から12カ月後に施行され、施行から25カ月が経過した時点で、新たに生産される事業用バス、トラック、トラクター・トレーラーなどへの関連通信端末の搭載を義務付ける計画です。
この規定が正式に導入されれば、C-V2X通信端末の工場出荷時の搭載が、初めて強制国家標準によって義務付けられることになります。ただし、現段階では標準はまだ策定中であり、関連要件は施行されていません。
これまで中国のC-V2X関連国家標準は主に推奨標準にとどまり、新車の市場参入に必要な強制要件には含まれていませんでした。そのため、自動車メーカーが自主的に搭載を進める動きは限定的でした。
C-V2Xとは?既存の運転支援システムとの違い
C-V2Xは、携帯電話の通信技術を基盤とする車車間・路車間通信技術で、LTE-V2Xと5G NR-V2Xという2つの技術段階があります。車両同士(V2V)、車両と道路インフラ(V2I)、車両と歩行者(V2P)、車両とネットワーク(V2N)の間で情報をやり取りする仕組みです。
カメラやミリ波レーダー、LiDAR(レーザーレーダー)などを使って周囲の状況を認識する既存の運転支援システムとは異なり、C-V2Xは無線通信を通じて他の車両や道路設備から情報を取得します。これにより、一定の条件下では、車載センサーの死角にある潜在的な危険を事前に把握することができます。
例えば、交差点で建物の陰から接近する車両を直接検知できない場合でも、C-V2X通信によって衝突の危険を事前に知らせることが可能になります。このほか、高速道路での追突警報、事故車両や危険車両に関する注意喚起、信号機情報の通知などにも活用できます。
つまり、C-V2Xは既存の車載センサーに代わるものではなく、周辺環境の認識能力や予防安全機能を補完し、複雑な交通環境への対応能力を高める技術です。
政策支援が続く一方、乗用車の標準搭載率はわずか4%
中国政府は近年、C-V2Xと「車路雲一体化」(車両・道路・クラウドの連携)の普及を積極的に推進しています。
2024年7月、工業情報化部など5部門は、車路雲一体化の第1弾となる実証都市20都市を発表し、道路側の通信インフラ整備や車両のネットワーク連携機能の導入を進めてきました。
2026年8月には、工業情報化部が「情報通信産業発展第15次5カ年計画」を公表し、都市部の交差点や高速道路の出入口などの重点区域にC-V2X通信設備を整備するとともに、都市道路や高速道路沿線の5Gネットワークのカバー範囲を拡大する方針を示しました。
同年9月には、工業情報化部など9部門が「インテリジェント・コネクテッド新エネルギー車産業発展第15次5カ年計画」を発表し、C-V2Xの直接通信に対応する路側設備の整備と、車両側の5G/5G-AおよびC-V2X通信機能の普及率向上を打ち出しました。
安全評価の面でも、中国の新車安全評価プログラム「C-NCAP 2027年版」はC-V2X関連の試験を強化し、車両の衝突リスクに関する警告、事故車両の通知、交通信号情報の提供などを評価対象に盛り込んでいます。
しかし、こうした政策支援にもかかわらず、中国の乗用車市場におけるC-V2Xの普及は依然として限定的です。
高工智能汽車研究院のデータによると、2026年上半期の中国国内市場(輸出入を除く)では、C-V2Xを工場出荷時から標準搭載した乗用車の納車台数は34万4,000台となり、前年同期比13.63%増加したものの、標準搭載率はわずか4.03%にとどまりました。
一方、2026年初めまでに、中国全土では1万1,000基以上のスマート路側ユニットが設置されました。このうち、北京市の亦荘地区では約60平方キロメートルのエリアをカバーし、累計テスト走行距離は1,300万キロメートルを超えています。
現在、一汽、上汽、BYD、NIO(蔚来)などのメーカーがC-V2Xを搭載した量産車を投入していますが、市場全体ではまだ普及の初期段階にあります。
搭載義務化は車路協調の普及を後押しするか
C-V2Xの普及を巡っては、車両への搭載率と道路インフラの整備状況が互いに制約し合うという課題が長年指摘されてきました。
道路側の通信設備が十分に整備されていなければ、自動車メーカーはC-V2Xの機能を十分に活用できません。一方、C-V2X搭載車が少なければ、地方政府や道路運営事業者にとっても、通信インフラへの追加投資を進めにくくなります。
今回の強制国家標準の策定が進めば、C-V2Xはこれまでの政策主導による実証事業から、量産車への本格的な普及段階へと移行する可能性があります。
ただし、C-V2Xが広く普及するかどうかは、通信端末の搭載義務化だけでなく、道路側の通信インフラの整備状況、メーカー間の通信互換性、さらに関連する安全機能が実際にどの程度有効に働くかにも左右されます。これらの課題が今後どれほどの期間で、どの程度解決されるかは、依然として不透明です。
しかし、より根本的な問題は、路側ユニットの設置・維持管理にかかる費用を、最終的に誰が負担するのかという点です。自動車ユーザーに有料のサブスクリプション方式で費用負担を求めても、十分な利用者を確保するのは難しいと考えられます。一方、利用者に費用負担を義務付けることが現実的に可能なのかという問題もあります。こうした費用負担の仕組みを確立できるかどうかが、車両・道路・クラウドの連携システムの将来を左右する重要な課題となりそうです。
