中国製ADASチップの海外展開に新潮流 ホライゾン、ボッシュなどTier1経由で世界市場へ

 8月19日、ホライゾン・ロボティクス(Horizon Robotics、中国語名:地平線)は、同社の車載向けAIチップ「Journey 6B」を採用してボッシュが開発した第4世代多機能カメラ「MPC4」が、大規模な量産プロジェクトを獲得したと発表しました。現時点で採用予定車種は40車種を超え、受注規模は累計1,000万台分に達しています。最初の採用プロジェクトは2026年第3四半期に量産を開始する予定です。中国製ADASチップの海外展開が、新たな段階に入りつつあることを示す動きです。

 これまで、中国製ADASチップの海外展開は、中国のNEV(新エネルギー車)の輸出に大きく依存してきました。まず中国国内向け車種に採用され、その車両が東南アジアや欧州、中東などへ輸出されることで、チップも海外市場に入っていくという形です。

 しかし現在は、新たな海外展開ルートが形成されつつあります。中国のADASチップメーカーが、ボッシュ、コンチネンタル、Aptiv、デンソーなど世界大手のTier1サプライヤーと提携し、中国側が中核となるチップやコンピューティングプラットフォームを提供し、Tier1側がシステム統合、各国・地域の法規対応、車両適合、量産導入などを担う方式です。そのうえで、中国製チップを搭載したADASシステムとして、世界の自動車メーカーに供給します。

 これは、中国車の輸出に付随して海外に出る従来型モデルから一歩進み、中国製ADASチップがグローバルな自動車サプライチェーンそのものに入り始めたことを意味します。

 現在、こうした取り組みはホライゾン・ロボティクスだけではありません。Axera(愛芯元智)やBlack Sesame Technologies(黒芝麻智能)など、中国の主要ADASチップメーカーもすでに海外向けプロジェクトを進めています。

 Axeraは「M57」を使った前方監視ADASシステムをAptivと共同開発し、中国大手NEVメーカーの欧州向け輸出車で採用が決まっています。Black Sesame Technologiesは「C1200」「A1000」シリーズをベースに、コンチネンタルやAptivとコックピット・ADAS統合システムを開発し、吉利汽車(Geely)の「Galaxy(銀河)」シリーズや東風汽車(Dongfeng)などの輸出車向けに供給しています。2025年からは海外向けの量産出荷も始まっています。

 なかでもホライゾン・ロボティクスは、この動きで一歩先行しています。同社は複数のグローバルTier1との関係を深め、それぞれの製品や顧客基盤を通じて海外展開を進めています。

 比較的高度なADAS分野では、「Journey 6M」を軸にボッシュと協業しています。ボッシュはJourney 6Mをベースに中級ADASシステムを開発しており、このシステムは極氪(Zeekr)「7GT」の海外仕様車に採用され、同モデルとともに欧州16カ国へ展開されています。

 一方、量販車向けでは「Journey 6B」の展開が本格化しています。Journey 6Bは、低消費電力と低コストを重視したL2クラスのADASチップで、AI演算性能は18TOPSです。高度な自動運転機能よりも、幅広い量販車にADASを普及させることを主眼としています。

 ボッシュはJourney 6Bを中核に、カメラ、認識アルゴリズム、関連ソフトウェアを統合し、第4世代多機能カメラ「MPC4」として製品化しました。MPC4はすでに40車種以上で採用が決まり、世界全体の受注規模は1,000万台分に達しています。対象地域は中国、欧州、豪州・ニュージーランド、中南米、中東、アジア太平洋地域などに広がっており、最初のプロジェクトは2026年第3四半期に量産を開始する予定です。

 チップメーカーが単独で海外市場を開拓する場合と比べ、この方式には大きな利点があります。

 車載チップを海外で量産車に搭載するには、単に性能要件を満たすだけでは不十分です。センサーとの適合、ソフトウェア開発、機能安全、サイバーセキュリティ、データ規制への対応、各国・地域の法規認証など、多くの工程をクリアする必要があります。

 ボッシュやデンソー、コンチネンタルなどの大手Tier1は、世界の自動車メーカーとの長年にわたる取引実績に加え、各地域での開発、認証、量産支援の体制をすでに整えています。中国製チップがこうしたTier1の標準製品に組み込まれれば、その販売網や技術基盤を活用し、複数メーカー、複数車種、複数地域への横展開が可能になります。中国のチップメーカーにとって、海外参入のハードルを大きく下げることができます。

 ホライゾン・ロボティクスは、ボッシュやデンソーなどグローバルTier1との協業を通じて、日系自動車メーカーへの採用も広げています。Journey 6BをベースとするADASシステムは、デンソー経由でトヨタ、ボッシュ経由でスズキの海外向け車種に採用が決まっています。これらのプロジェクトでは、ライフサイクル全体で累計750万台の供給が見込まれており、トヨタ向けは2028~2029年ごろから本格量産に入る見通しです。

 また、ホライゾン・ロボティクスはフォルクスワーゲン(VW)とも合弁会社「CARIZON(酷睿程)」を設立しています。協業範囲はチップ供給にとどまらず、ADAS向けコンピューティングプラットフォーム、基盤ソフトウェア、AI技術へと広がっています。

 グローバルTier1や海外自動車メーカーが中国製ADASチップを採用し始めている背景には、NVIDIAやQualcommなどの高性能車載チップとは異なる、中国勢ならではの競争力があります。

 現在、L2クラスのADASは10万~20万元級の量販車にも急速に広がっています。自動車メーカーはADAS機能の充実を図る一方で、車両コストも厳しく抑える必要があります。そのため、高性能ではあるもののコストも高い従来の欧米系ソリューションだけでは、量販車への展開が難しいケースが増えています。

 コスト面について、ホライゾン・ロボティクスは、同等のADAS性能を前提とした場合、同社のシステム全体のコストは海外競合製品に比べ25~27%低減できるとしています。

 開発スピードも強みです。ボッシュはこれまでに、Journey 6Mをベースとした中級ADASシステムについて、フルスタックでの開発期間が10~11カ月だったと説明しています。

 もっとも、中国製ADASチップの本格的な海外展開には、依然として課題も残ります。欧州の厳格なデータ保護規制への対応に加え、自動車業界が求める高い機能安全性や信頼性、長期にわたる安定供給体制の構築も欠かせません。

 こうした点を踏まえると、現段階では、中国企業が中核となるチップやコンピューティング基盤を提供し、グローバルTier1がシステム統合や法規対応、量産展開を担う「中国製チップ+グローバルTier1」という協業モデルが、最も現実的で効率の高いグローバル展開の手法になりつつあります。