死亡事故で露呈、スマート運転の現実:元ファーウェイ幹部が語る業界の核心問題

最近、シャオミSU7のスマート運転によって引き起こされた死亡事故が、ネット上で大きな議論を呼んでいます。これについて、4月2日、中国国営テレビのCCTVネット論評は「スマート運転でも、ハンドルはしっかり握って」と警鐘を鳴らしました。
CCTVは、一部の自動車メーカーがマーケティング上の表現によって「スマート運転」の技術的境界を曖昧にし、「アルゴリズムは万能だ」と誤解させることで、消費者が技術の限界やリスクを軽視するようになっていると指摘。また、車両の引き渡し時にスマート運転機能の説明やトレーニングを行わず、ユーザーに自己学習を促し、それを「誰でも簡単に使える」と装うようなメーカーも存在していると批判しました。
誇大宣伝があふれる自動運転業界
現在の自動運転業界には、以下のような過度な宣伝が目立ちます:
- 各社が競って「都市NOA(注)」「マップレス(高精度地図不要)のスマート運転」などのコンセプトを打ち出しているが、実際の導入レベルには大きな差がある。
- 一部メーカーは「データ駆動型」「エンドツーエンドAI」などの用語で技術を飾り立てるが、消費者が体感できる進化には乏しい。
- 資本市場はトレンドを追い、結果としてリソースがマーケティングに偏り、基礎技術の研究開発が軽視されている。
こうした雰囲気の中で、シャオミSU7による死亡事故は業界全体に冷や水を浴びせる出来事となり、人々に「現在のスマート運転は一体どこまで進化しているのか?」という根本的な問いを投げかけています。この点について、専門家の中には核心を突く発言をする人物もいます。
Horizon Robotics副総裁・蘇菁氏の見解:自動運転は予想以上に困難
2025年1月、Horizon Roboticsの副総裁兼チーフアーキテクトであり、かつてファーウェイの自動運転部門を率いた蘇菁(スー・ジン)氏は、「Horizon Roboticsスマートドライビング・テクノロジー・ビジョンデー」にて、自動運転の進展が予想以上に難航していると率直に語りました。10年以上の研究と投資を重ねても、業界はいまだに真のブレイクスルーを迎えておらず、彼自身「鬱になりそうだった」と明かしています。
自動運転の困難と課題
蘇氏によると、現在の世界の自動運転技術は、まだ転換点に達していません。巨額の資金や優秀な人材を投入しても、人間の運転能力を完全に超えるには至っていないのが現実です。彼はこう述べています:
「自動運転の本当の比較対象はライバル企業ではなく、人間そのものです。人間に勝てないうちは、単なるハイテク玩具でしかありません。人間を超えてこそ、真の価値が発揮されるのです。」
また、技術的な視点からは、テスラのFSD(完全自動運転システム)が依然として業界のベンチマークであり、「テスラは自動運転技術では世代を飛び越えたようなリードを見せている」と述べ、業界はその差を冷静に受け止め、そこから革新のヒントを学ぶべきだと語りました。
中国市場における特有の課題
蘇氏は、中国の自動運転が直面している三つの特有の課題を挙げています:
- 演算能力の制約:テスラのような高性能コンピューティングリソースの確保が困難。
- 道路環境の複雑さ:インフラ整備が不統一で、交通ルールの執行も緩い。
- インタラクションの複雑性:配達員や電動バイクなどによる不規則な運転行動が多数存在し、インタラクションに大きな課題をもたらしている。
業界の浮ついた雰囲気に警鐘
蘇氏は、業界内に蔓延するマーケティング偏重の風潮に対し、厳しい意見を述べています:
「市場の宣伝はどんなに派手でも、車に5分乗れば、そのシステムが信頼できるかどうか判断できます。」
企業は表面的な売り文句ではなく、技術の本質に立ち返り、実際の課題を解決すべきだと強調しました。
蘇菁氏の経歴と業界への洞察
蘇氏は、ファーウェイの「ダヴィンチAIチップアーキテクチャ」の開発を指揮し、同社のスマートドライビング製品部の部長も務めました。2021年には「テスラの自動運転は人を殺す可能性がある」との発言が物議を醸し、ファーウェイを退社。現在はHorizon Roboticsにて、引き続き実直な技術路線を貫いており、「自動運転のブレイクスルーは一発勝負ではなく、長期的な蓄積によって実現されるべきものだ」との考えを示しています。
注:都市NOA(Navigate on Autopilot)とは、先進運転支援システム(ADAS)の一種で、目的地を設定すると自動的に運転する機能であり、中国の自動車メーカーがテスラのFSD(Full Self-Driving)に倣って開発しており、都市道路では運転者がペダルから足を離して手放運転することができます。