中国、エヌビディアへの独占禁止法調査開始 ー 対米交渉の材料としての意図は?
12月9日、中国国家市場監督管理総局の公式発表によると、エヌビディア(NVIDIA)社が「中華人民共和国独占禁止法」および「市場監督管理総局による制限条件付きでのエヌビディア社によるメラノックス・テクノロジーズ社株式取得案件の独占禁止審査決定公告」(市場監督管理総局公告〔2020〕第16号)に違反した疑いがあるとして、市場監督管理総局が法に基づきエヌビディア社に対する立件調査を開始しました。
メラノックス買収とその戦略的意義
2019年、エヌビディアはマイクロソフト、ザイリンクス(Xilinx)、インテルを抑え、69億ドルを投じてイスラエルのチップメーカーであるメラノックス(Mellanox)を買収しました。メラノックスは1999年にイスラエルで設立され、本社はシリコンバレーのサンタクララとイスラエルのヨクネアムにあります。
同社は高帯域ネットワーク伝送技術に特化しており、現在エヌビディアのInfiniBand技術は同社の技術に基づいています。同社の製品にはスイッチアダプタ、ルーター、ゲートウェイプロトコル、ネットワーク管理ソフトウェアなどが含まれ、大規模なGPU計算クラスターや次世代データセンターの基盤を支える重要な技術となっています。
2020年の中国当局による条件付き承認
2020年4月16日、中国市場監督管理総局はこの買収を条件付きで承認しました。当時の公告には7つの条項が含まれ、エヌビディアおよびメラノックス、さらには合併後の企業体に対し、関連する義務の履行が求められました。主な内容は以下の通りです。
- 公平・合理・非差別の原則に基づき、エヌビディア製品およびメラノックスの高速ネットワーク機器を中国市場に供給すること。
- エヌビディアGPUとメラノックスの機器が第三者アクセラレーターと相互運用性を維持すること。
- メラノックスの通信ソフトウェアに関するオープンソースの継続を保証すること。
不透明な調査の行方:不可抗力条項の論点
しかし、米国による対中半導体輸出規制が強化される中、これらの条件を満たすことは難しくなっており、中国市場監督管理総局がエヌビディアへの調査を開始したことは合理的な判断といえます。
一方、今年4月にはメラノックス中国法人および関連企業がすべて登記抹消されており、今後の調査がどのように進むのかは不透明です。また、米国政府の対中半導体輸出規制が「不可抗力」に当たるかどうかも焦点となっており、調査終了後の処分の行方が注目されています。
中国市場におけるエヌビディアの重要性
エヌビディアが中国市場にとってどれほど重要かは、一部のメディアがまとめた中国企業のGPU購入量からも明らかです。
- テンセント:5万個のH100 GPUを購入し、ゲーム、SNS、クラウド分野で利用。
- バイドゥ(百度):4万個を購入し、検索エンジン、自動運転、AI分野で活用。
- アリババ:2.5万個を購入し、データセンターやAIアプリケーションに使用。
- バイトダンス:2万個を購入し、TikTokやToutiao(頭条)で高度な計算リソースを必要としています。
通信大手のチャイナモバイルやチャイナユニコムも、データーセンターの構築にエヌビディア製品を大量に購入しており、中国企業全体での依存度が高まっています。
最後に:米中チップ戦争の行方
2025年1月20日には、ドナルド・トランプ氏が新たな米国大統領に就任します。一部のメディアは、中国当局の調査が米国に対する交渉材料としての意図があると指摘しています。米中間の「チップ戦争」が対話と交渉を通じて適切に解決されるかどうか、今後の展開が注目されます。