中国、H20批判の裏でHBM規制緩和を要求 米中首脳会談を前に駆け引き

イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」が8月10日に報じた記事が、国際世論の大きな注目を集めています。多くの主要国際メディアが、この日のフィナンシャル・タイムズの報道を引用または転載しました。

フィナンシャル・タイムズによると、中国は米中首脳会談の開催に先立ち、人工知能(AI)にとって極めて重要な半導体の輸出規制を緩和するよう米国に求めており、それを貿易協定の一部とする意向だといいます。

注目すべきは、最近、中国の国営メディアがNVIDIA(エヌビディア)のH20チップについて、中国にとって安全保障上の脅威であると報じたことです。北京当局は以前から、こうしたチップに「バックドア」が存在する可能性に懸念を示しており、中央テレビ(CCTV)傘下の公式アカウント「玉淵潭天」は記事の中で、H20は技術的に先進的でもなく、環境負荷も大きく、安全でもないと述べています。

こうした報道からは、中国当局の態度の変化が見て取れます。一方では「H20は必要ない」というメッセージを発しつつ、もう一方ではフィナンシャル・タイムズを通じて「欲しいのはHBMだ」という交渉のサインを送っているのです。

フィナンシャル・タイムズは、事情に詳しい関係者の話として、中国がトランプ大統領と習近平国家主席の会談が行われる可能性のある前に、高帯域幅メモリー(HBM)チップの輸出制限を緩和するよう米国に求めていると伝えています。これは双方の貿易協定の一部として提示されているとのことです。HBMは大量のデータを高速で処理でき、特にGPU(画像処理装置)との組み合わせでディープラーニングなど高度なAI開発に不可欠とされています。

現在、NVIDIAをはじめとする米国企業がこの技術の主要な供給元です。報道では、HBMはAIがデータ集約型のタスクを実行する上で極めて重要であり、多くの場合NVIDIA製AI GPUに搭載されるため、投資家からの関心も高いとされています。中国側は、HBMの輸出規制が中国企業のAIチップ自社開発能力や開発進度を阻害すると懸念しています。

歴代の米政権は、中国のAIや軍事分野での発展を抑制するため、先端半導体の輸出を制限してきました。こうした規制は、米企業が中国市場の需要を満たす能力にも影響を与えていますが、中国は依然として世界最大級の半導体市場であり、米国の半導体メーカーにとって重要な収益源となっています。

報道によれば、中国がHBMチップを名指しで要求したことはワシントンに警戒感を与えています。トランプ大統領が習主席との首脳会談を実現するために輸出規制の緩和に応じる可能性もあるとの見方があり、これについて米戦略国際問題研究所(CSIS)のAI専門家は、HBMは先端AIチップ製造の要であり、チップの価値の半分を占めると指摘しています。

同専門家は、中国に先進的なHBMを販売することは「ファーウェイがNVIDIAに取って代わる高性能AIチップを作る手助けをすることと同じだ」と述べ、強く反対しています。HBM規制の議論に詳しい関係者によれば、HBMの輸出制限は、中国がAIチップを大規模に生産する上での唯一かつ最大の障壁であり、これを緩和することはファーウェイやSMIC(中芯国際)への「贈り物」になるといいます。そうなれば、中国は1年以内に数百万個のAIチップを生産できるようになり、米国市場向けに供給されるはずの希少なHBMも中国に流れる可能性があり、これこそが米国側が交渉材料にすべきでない理由だとしています。

別の関係者は、中国はAIチップの演算コア技術を入手できる場合があり(米国法に違反して台湾TSMCから入手している可能性もある)、しかしHBMがなければ完全なAIチップとして組み立てることができないため、HBMの輸出規制は中国にとって大きなボトルネックだと説明しています。

もちろん、中国もH20を巡る圧力だけでHBMの輸出規制緩和を米国から引き出せるとは過度に期待していません。しかし、中国政府は国内でH20の需要が大きい一方、国産半導体産業の発展が停滞することを懸念しています。そのため、安全保障問題を取り上げてH20の市場価値を下げ、性能面で劣る国産チップの注文を確保しようとしている節があります。これは、米国の輸出規制圧力の下で国産半導体の代替と技術自立を加速するという中国の大方針にも合致します。さらに、このタイミングでの動きは、米中貿易交渉における中国の交渉力を高める狙いも含まれているのです。

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