NVIDIA H20チップに再び疑念 中国当局の事情聴取、米中交渉カードの様相も

7月31日、中国国家インターネット情報弁公室(網信弁)は、米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)に対して正式に事情聴取を行い、中国向けに販売されているH20演算チップに関して、「バックドアの脆弱性」や「遠隔監視機能」について説明を求めるとともに、関連する技術資料の提出を指示しました。この対応は、中米間のテクノロジー覇権争いの一環として広く受け止められています。
争点:位置追跡と遠隔遮断機能
今回の騒動の発端は、H20チップに「位置追跡」や「遠隔シャットダウン」機能が搭載されている可能性があると報じられたことにあります。すでに2025年5月、半導体分野に詳しい米国議員のビル・フォスター氏は、中国へ輸出される高性能チップには監視機能やリモート電源遮断機能の搭載を義務づけるべきだと提案していました。AI専門家も、NVIDIAのH20チップがすでにこのような機能を備えており、デフォルトでデータをシンガポールのサーバーへ送信している可能性があると指摘しています。これにより、米国商務省が中国企業のデータに間接的にアクセスできる構図となっており、中国当局は強い警戒感を示しています。
中国メディアによると、今回の「事情聴取」は、「サイバーセキュリティ法」「データセキュリティ法」「個人情報保護法」といった関連法規に基づき、データ主権および国家安全の確保を目的とした措置です。
NVIDIAの「板挟み」状況
H20チップは、2023年末にNVIDIAが米国の対中輸出規制に対応する形で、中国市場向けに特別に開発した特別仕様のAI演算チップです。フラッグシップ製品であるH100に比べて性能は大きく制限されていますが、輸出規制を順守したうえで中国市場で入手可能な最高レベルの演算性能を提供しており、テンセントやバイトダンスといった中国の大手IT企業が調達対象としていました。2024年には、両社あわせて約23万個のチップを購入しています。
しかし、2025年4月に米国政府は再びH20を輸出規制の対象に追加し、NVIDIAは55億ドル相当の在庫を償却、最大150億ドル規模の販売損失が見込まれる事態となりました。7月中旬には、創業者兼CEOの黄仁勲(ジェンスン・ファン)氏が訪中し、H20の販売再開を発表したばかりでしたが、わずか2週間後に中国当局から事情聴取を受け、市場に衝撃を与えました。
中国で祝杯をあげていた黄氏が、一転して規制の波に巻き込まれるというこの展開。頻繁に米中間を往復するその姿から、「中米テック外交の空中ブローカー」と揶揄されることもあります。
世論:交渉カードとしての事情聴取、続く地政学的テック戦争
世論の反応は分かれています。H20の再販はすでに中米間で基本的な合意がなされており、今回の事情聴取は形式的なパフォーマンスに過ぎないとする声も多くあります。一部では、「実際、国内の大手IT企業はすでにIDC(インターネット・データセンター)の入札を再開しており、この事情聴取によって再び中断されるようなことはない」との見方もあります。
あるコメンテーターは、「問題があるなら法に基づいて処理すればよい。問題がないなら、なぜ事情聴取をするのか。結局のところ、価格交渉や条件調整のためのカードに過ぎない」と辛辣に語っています。また、「十万元もするチップですらバックドアがあるなら、私たちのスマートフォンは大丈夫なのか」と個人情報保護に不安を示すネットユーザーも少なくありません。
今回のNVIDIAに対する事情聴取は、高性能チップが単なるテクノロジー製品ではなく、国家戦略に関わる「戦略物資」であることを改めて浮き彫りにしました。
とはいえ、専門家の中には「真に重要なのはレアアースの輸出やインフラ供給網であり、NVIDIAのH20は交渉テーブル上の材料にすぎない」と指摘する声もあります。NVIDIAは単なる駒にすぎません。本当の本丸は、中米間での『レアアースと技術の交換』という根本的な取引なのです。