BYD軽EV「RACCO」、日本市場で狙う戦略──同社が想定する「電動化初期段階」での先行者利益

10月30日、東京で開幕された「ジャパン・モビリティ・ショー」で、BYDは日本市場向けに開発した初の軽自動車規格の電気自動車「BYD RACCO」を正式に発表しました。同社が日本専用モデルを投入するのは初めてであり、日本の自動車市場における電動化戦略の転換点として注目されています。
BYDが日本市場に進出したのは、すべてのリソースを投入して市場発展初期の「先行者利益」を確実につかもうとする、中国市場での成功経験に基づいていると考えられています。現在、日本の新車販売における電気自動車の比率は3%程度で、依然としてガソリン車(日本で広く普及しているハイブリッド車は、中国の分類ではガソリン車に分類されている)が主流を占めています。BYDにとって、日本市場はまさにこの「電動化導入期」にあたると考えられており、消費者のEVへの理解と受容を広げるために、まずは魅力的な商品を投入して認知度を高めることを目指しています。
2022年からBYDは「ATTO 3」、2023年には「Dolphin(ドルフィン)」などで日本市場に参入しましたが、いずれもコンパクトSUVや小型車が中心であり、月間販売台数は平均200台程度の低い水準で推移しています。今年6月までの累計販売台数は5000台にとどまっています。
こうした背景を踏まえ、同社は今回、市場規模が大きく価格競争力を発揮しやすい軽自動車セグメントに焦点を定めました。
日本では軽自動車が新車販売全体の35%以上を占めており、軽自動車には税制優遇や駐車場確保義務の免除といった制度上の利点があります。さらに、政府は電動軽自動車への補助金を2026年までに最大30万円支給する方針を示しており、導入障壁の低さもBYDの参入判断を後押ししたとみられます。
2024年上半期の日本軽自動車市場は、スズキ、ダイハツ、ホンダなど国内メーカーがほぼ独占しており、海外ブランドのシェアはほぼゼロに等しい状況です。BYDはこの「閉じた市場」に初めて電動車で挑む形となります。
スズキの鈴木俊宏社長は「日経中文网」の取材に対し、「世界には多様な小型車規格がある中で、BYDが日本の軽自動車規格を選んだことは歓迎します。新たな競争が始まるでしょう」とコメントした一方で、「日本人の中で中国製品への心理的な壁が低くなっており、BYDは大きな脅威になる」とも語りました。
今回の「BYD RACCO」は、日本市場向けに完全新設計されたモデルであり、BYDが独自に開発を進めたとされています。開発過程では、かつて日産で「Sakura」や「Dayz」、第2世代「Roox」などの軽自動車開発を担当していた田川博英氏がBYDに移籍しましたが、その後わずか2カ月で退職しています。同氏はメディアの取材に対し、「BYDがなぜ日本市場専用の軽自動車を企画したのか、あるいはスライドドア構造をどのように実現したのかといった技術的な詳細については一切共有されなかった」と述べています。
この発言は、BYDが日本市場への「電撃的な投入」を意図して、今回の軽自動車開発を完全に社内で完結させ、外部技術者を極力関与させなかったことを示唆しています。開発段階において、一部の情報はメディアに漏れていますが、それでも同社が開発技術の保護や情報管理に非常に慎重な姿勢を取っていることがうかがえます。
「ジャパン・モビリティ・ショー」での「RACCO」発表は、単なる新車投入にとどまらず、中国メーカーが自動車先進国・日本の軽自動車市場に直接挑戦するという象徴的な動きとなりました。BYDの参入は、日本の電動化政策と軽自動車産業構造の双方に新たな刺激を与えることになりそうです。