新車発表会の「小訂過万(小額先行予約が1万件超え)」は本物か虚像か──広告会社が操る「数字マジック」

近年、中国の新車発表会は一種の「奇妙な現象」に陥っているように見えます。開催されるたびに「小訂過万(少額先行予約が1万件超え)」というフレーズが飛び交い、話題をさらっています。たとえば、東風日産N7は発売からわずか1時間で1万138件の「小訂」を記録し、Lynk & Co 900は24時間で先行予約が1万4600件を突破しました。新車発表直後には「1時間で1万件突破」「24時間で数万件」といった派手な数字が並び立ちますが、その裏側に疑問の声も広がっています。
この現象に火をつけたのは、8月30日に自動車系の著名ブロガー・吴佩氏が投稿した内容でした。氏は、多くの「小訂過万」が広告会社によって数か月前から仕組まれたシナリオであり、消費者に「大ヒット車」と思い込ませると同時に、経営陣を満足させるためのものだと暴露しました。さらに「オオカミ少年は三度まで。数か月後に販売が伸び悩めば、すぐに化けの皮が剥がれる」と辛辣に指摘しています。
「小訂」データの「水増し」構造
華やかに見える「小訂過万」の裏側には仕掛けがあります。
- 小訂とは購入希望者が数百元、時には1元程度の意向金を支払うだけで成立し、自由に返金可能。
- 消費者は「先着特典」「優先納車」「限定割引」などの事前特典に惹かれ、購入意思が固まっていなくても気軽に予約できる。
- そのため小訂は実需を反映せず、最終成約への転換率は0〜30%にとどまる。
例えば「18時間で5万件の少額予約」を獲得した新車でも、実際の販売は1万台未満にとどまるケースは珍しくありません。
広告会社とメーカーの思惑
広告会社は新車発表前から「小訂過万」を演出するシナリオを準備し、SNS、広告、イベントを総動員して「争奪戦」の雰囲気を作り上げます。その背景には以下のような構造があります。
- 自動車メーカーがKPIとして発表直後の注文数を重視していること
- 経営陣が「数字=業績」と直結させて評価する傾向があること
広告会社にとっては次回契約や報酬に直結するため、実態以上に誇張されたデータづくりに走りやすいのです。
市場と消費者への影響
短期的には「大人気車」のイメージを作り出せても、実際の納車が始まれば数字との乖離が明らかになります。過去にはLi Autoが「週販1万台超」と発表したものの、同時期の登録台数は1000台余りにとどまり、消費者や市場の信頼を大きく損ねました。
こうした「数字マジック」は、
- 消費者の知る権利を損なう
- 市場競争を歪める
- 業界全体の健全性を損なう
といった副作用をもたらしています。
「小訂」と「大訂」の違い
業界では「小訂」と「大訂」が明確に区別されます。
- 小訂:少額の意向金による予約で返金可能。マーケティング指標にすぎない。
- 大訂:本格的な契約や高額の予約金を伴い、販売実績に直結する。
したがってメーカーが発表する「注文数」が小訂なのか大訂なのかによって、その意味合いは大きく変わります。
結論
「小訂過万」は今や自動車市場における恒例のイベントのようになりつつあります。しかし、その多くが広告会社とメーカーの思惑によって作られた虚像である以上、今後は消費者も市場も「数字の本当の意味」を見極める姿勢が求められています。