長江デルタのディーラー団体、連名で異例の書簡──過当競争の痛みをメーカーと「共に背負う」よう要請

6月30日、長江デルタ地域(上海、江蘇、浙江、安徽)の4つの自動車ディーラー団体──上海市自動車販売業協会、江蘇省工商連自動車販売商会、浙江省自動車流通協会、安徽省自動車ディーラー商会──が連名で発表した「長江デルタ地域の自動車ディーラーの経営困難改善を主機メーカーに要請する書簡」が、自動車業界で大きな注目を集めています。この「長江デルタ車聯発(2025)1号文書」と題された書簡は、現在の自動車市場における「内輪競争(内巻)」(注)の深刻さと、それに伴う構造的リスクを浮き彫りにしています。

車両価格の「逆ザヤ」が常態化──ディーラーが直面する多重苦

書簡では、長江デルタ地域の自動車ディーラーが現在、過剰在庫による圧力、キャッシュフローの危機、販売台数の急減、コストおよび評価指標による重い負担など、複数の困難に直面していることが、調査を通じて明らかになったと報告されています。

具体的には、高級車ブランドでは在庫係数が1.8を超えるケースが多く、特定ブランドでは2.7を超える場合もあります。国産ブランドの多くは2.0以上、特定ブランドでは4.0を超えており、合弁ブランドでも多くが1.5を超え、特定ブランドでは2.0以上に達しています。資金の占用率は警戒ラインに迫り、メーカーによる在庫押し込みが続く中、車両価格の逆ザヤ(仕入れ価格よりも安い販売価格)が常態化しています。

また、多くのディーラーが原価割れでの販売を強いられ、巨額の損失を被っており、これはすでに「不正競争防止法」に抵触する可能性があると指摘されています。

さらに深刻なのは、銀行による販売奨励金政策も急激に縮小され、最大で11%の減額となりました。6月以降、長江デルタ地域の多くの銀行が自動車ローン業務を一時停止したことで、多くのローン顧客が納車できず、注文キャンセルが相次いでいる点です。これにより消費者の様子見姿勢が強まり、店舗への来店客数は激減し、成約率も30%以上低下するなど、悪循環が加速しています。

こうした中でも、自動車メーカーは依然として販売台数の拡大を最優先に掲げ、ディーラーに対して過大な販売ノルマを課しています。さらに、複雑なリベート制度や過剰な評価基準(試乗車の強制入れ替え、部品の抱き合わせ販売など)を押し付けることで、ディーラーの経営負担が一層増大しています。

加えて、地域ごとの補助金政策の差異により、消費者の様子見ムードが強まり、1日あたりの来店客数が急減、成約率は30%以上低下し、販売台数の急減はディーラーの在庫圧力をさらに悪化させています。

「共創・共担」の新しい協働体制の構築を呼びかけ

こうした状況の改善に向けて、4団体は書簡の中で、以下の4点について自動車メーカーに強く協力を求めています。

  1. 生産販売協調メカニズムの構築
    「一律」の販売目標の撤廃、地域市場の需要容量に応じた動的な出荷計画の調整を行い、ディーラーが自ら適正な在庫上限を申請できるようにすること(在庫係数1.5以下を推奨)。また、試乗車や業務車両の頻繁な強制交換を停止し、ディーラーの負担を軽減。不合理なバンドル販売・部品セット販売などの評価指標も中止し、ディーラーの経営の自由度を確保するよう求めています。
  2. リベート・価格政策の最適化
    リベート制度の簡素化、固定でないリベートの算出基準の明確化、リベート明細の公開、リベート支払サイクルを30日以内に短縮することを要望。また、価格アラートメカニズムを構築し、地域を越えた過度な値引きや横流し行為を禁止し、価格逆転が生じている車種には特別補助を提供するよう求めています。
  3. リスク共担意識の強化
    出荷ペースの調整を図り、ディーラーによる滞留在庫の処理を支援し、代替補助金や金融利子補助などの支援を提供すること。市場情報の共有プラットフォームを構築し、販売データをタイムリーに同期して需給ミスマッチを防ぐよう提案しています。
  4. 健全な業界エコシステムの構築
    メーカーによる直営ブランドへの政策的優遇を撤廃し、従来のディーラーとの公平な競争環境を確保すること。具体的には、困難を抱えるディーラーに対して返済猶予や利息補助などの支援策を講じ、メーカーとしての社会的責任を果たすよう求めています。

団体側は、長江デルタ地域が中国で最も経済的に活発で、イノベーション能力の高い地域の一つであることに言及し、ディーラー網の健全な発展は、産業チェーン全体の安定性と持続可能性を高めるうえで極めて重要であると強調しています。

危機は長江デルタに限らず──全国のディーラーが構造的圧力に直面

こうした問題は長江デルタ地域にとどまりません。たとえば、同地域の協会が書簡を発出する以前、河南省汽車業界商会は2025年6月20日にいち早く緊急提言を発表していました。この提言では、河南省内における二つの重大な政策変更──すなわち6月1日の銀行による高利息・高販売奨励金の自動車ローン政策の停止、および6月18日の自動車買い替え補助金の停止──が、市場の急激な冷え込みを招いたと指摘しています。

また、自動車メーカーが上半期の販売目標達成を急ぐあまり、河南のディーラーに対して市場の許容範囲をはるかに超える納車ノルマを課しており、さらに販売インセンティブの精算周期が長期化していること、一部ディーラーが深刻な「逆ザヤ」価格政策を強いられていることなどが重なり、「売れば売るほど損をする」という悪循環に陥っていると報告されています。

これを受け、河南省汽車業界商会は、省内の特殊な市場環境を考慮し、各自動車メーカーに対し、直ちに在庫目標の調整、インセンティブ精算の迅速化、「逆ザヤ」販売の厳禁を求め、「メーカーと販売網は共存共栄の関係にあり、流通網が崩れれば市場も崩壊する」と強調しています。

過剰生産能力の構造問題──政府や業界団体の呼びかけだけでは不十分

2024年の統計によれば、長江デルタ地域は全国の自動車販売の約23%を占めており、中国市場全体の重要なバロメーターでもあります。この地域でディーラー危機が顕在化したことは、業界全体が深い調整局面にあることを示しています。

今回のニュースは、中国の自動車業界における「内巻」がいまだ抑えられていないことを強く印象づけています。工業情報化省が会合を開き、中国自動車工業協会(CAAM)や商務部が声明を出したにもかかわらず、現場のディーラーの声を見る限りでは、メーカーによる過剰な競争行為は一向に止まっていないようです。

その背景には、中国自動車業界が抱える深刻な過剰生産能力の問題があります。中国には100社を超える自動車メーカーが存在し、中国自動車工業協会(CAAM)の統計に掲載されている完成車メーカーだけでも76社に上ります。多くのメーカーがすでに厳しい経営環境に置かれており、たとえ政府や業界団体が呼びかけを強めたとしても、こうした企業が市場から淘汰されるまで、本質的な改善は見込めないという厳しい現実があります。

注:中国語の「内卷」(nèijuǎn)は、日本語では国内企業同士の「過当競争」や「過剰競争」を意味します。

 

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