米中クアラルンプール経済協議、実質は「現状復帰」──貿易戦から資源競争へ

10月25日、米国と中国の代表団はマレーシア・クアラルンプールで高官級の経済・貿易協議を行い、関税、輸出管理、フェンタニル取締り協力、農産物貿易などの重要課題について協議し、初期的な共通認識に達しました。9月以降、再び緊張が高まっていた米中貿易摩擦の緩和に向けた重要な動きとみられます。
中国側「建設的な協議だった」と強調、具体的成果は示さず
会談後、中国商務部の李成剛副部長は記者団に対し、双方が輸出管理、対等な関税の延期、フェンタニル関税や麻薬対策協力、二国間貿易拡大、米国による中国船舶への費用措置などをめぐって「率直かつ建設的な意見交換を行った」と述べました。
李氏はまた、「この1カ月間の米中経済関係の変動は中国の本意ではない」としたうえで、中国はジュネーブでの合意を誠実に履行してきたと強調しました。両国は互いの懸念に対処するための複数の案について基本的な共識を形成し、今後はそれぞれ国内手続きを進めるとしています。
さらに、国務院の何立峰副総理も新華社の報道で「相互尊重、平和共存、協力共栄の原則に基づき、平等な協議を通じて意見の違いを管理し、協力を拡大すべきだ」と発言しました。今回の成果は容易に得られたものではなく、双方の努力によって維持していく必要があると述べています。
米国側「極めて成功した合意枠組み」
米財務長官のベッセント氏は会談後、「非常に成功した合意の枠組みを構築できた」と述べ、両国首脳による最終承認に向けて詰めの作業を進める考えを示しました。協議では農産物の購入、フェンタニル、レアアース、TikTokの取引問題などが議題となり、今後予定される首脳会談の土台になったと説明しました。
同氏は米CBSのインタビューで、中国がレアアースに関する新規制の実施を1年間延期するほか、数週間以内に米国産大豆の大口購入を再開すると明らかにしました。また、TikTokの所有権移転についても詳細が固まり、取引は来週にも完了する見通しだと述べました。米国が検討していた対中輸入品への100%関税については、「継続する可能性は低い」としています。
双方の成果と実質的内容
複数の報道を総合すると、米国側の具体的成果は以下の通りです。
- 中国がレアアース輸出の新規制を1年間延期することに同意
- TikTokの取引を正式に承認
- 中国が米国産大豆の輸入を再開
一方、中国側が得た主な成果は、米国が中国のレアアース産業に対する懲罰的な100%関税の導入を当面見送ったことにとどまります。中国船舶への高額課徴金やフェンタニル関連の関税問題などでは、目立った進展は見られませんでした。
こうして比較してみると、米国は3つの「成果」を得たのに対し、中国は1つの「成果」を得たことになります。とはいえ、そのうち「レアアース輸出規制措置の12か月延期」は、もともと発生していなかったものです。つまり、中国は当初から12月に実施を予定していたため、実際には「自ら引き起こした貿易摩擦の火を、自ら消した」にすぎません。さらに、TikTokの取引についても中国側がすでに承認していた案件であり、最終的に米国が新たに得た実質的な成果は「大豆の購入」だけだったといえます。
そのため、今回の交渉の実質は、中国が発表したレアアース新規制以前の状態に戻すことであり、ほぼ当初の予想どおりの展開となっています。
「貿易戦争」から「資源競争」へ
一時的な合意が得られたものの、米中の構造的な経済摩擦が解消されたわけではありません。英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、中国がレアアース新規制を延期したのは「時間稼ぎのカード」に過ぎず、レアアース資源が新たな地政学的ツールとなりつつあると論じています。
また、今回の動きは、欧米諸国が自国でのレアアース精製・加工能力の構築を急ぐ契機となり、長期的には中国のサプライチェーン支配力と交渉力を弱める可能性があるとの見方も広がっています。
専門家の間では、今回のクアラルンプール協議は表面的には緊張緩和を演出したものの、米中の対立軸はすでに「貿易戦」から「資源・サプライチェーンをめぐる主導権争い」へと移りつつあるとの分析が出ています。