Autonavi、海外展開を本格始動――海外向け「AutoSDK」公開、HEREと連携し「現地化+グローバル同期」を目指す

11月3日、アリババ傘下のAutonavi(高徳地図)は、海外市場向けの「AutoSDK国際版」を公開し、位置情報サービス大手のHERE Technologiesと戦略的提携を結んだと発表しました。
Autonavi、海外展開を本格始動
AutoSDKは、Autonaviが自動車メーカー向けに提供する開発ツールキットで、位置情報、検索、地図描画、経路探索、基本ナビゲーションなどの機能を統合しています。さらに、オフラインナビゲーションやインテリジェント速度制限情報(ISA)の音声案内にも対応しており、主要19言語をサポートしています。
HEREの地図および位置情報サービスは、世界200以上の国と地域をカバーしており、すでに2億2200万台を超える車両にHEREのサービスが搭載されています。同社は、ソフトウェア定義自動車(SDV)のグローバル展開に必要なスケール、精度、信頼性を備えています。
AutoSDKのアーキテクチャは「レゴブロック」のように柔軟で、コアエンジンを再構築することなく、地域ごとに異なるデータソースを接続することが可能です。また、ヨーロッパと東南アジアにローカルサーバーを構築し、HEREの地図データとAutonaviのクラウドエンジンを組み合わせることで、国内版と国際版は同一の基盤を共有しており、機能の更新サイクルも同期しています。
今回の協業により、Autonaviは中国の自動車ブランドに対し、現地化された地図およびナビゲーションソリューションを提供する体制を構築しました。サービス範囲は世界170以上の国と地域に及び、Autonaviのグローバル展開が本格的に始動したことを意味します。
中国自動車メーカーの海外展開を支える基盤へ
近年、中国の自動車メーカーは急速に国際化を進めています。中国自動車工業協会(CAAM)によると、2025年の第3四半期までに中国の自動車輸出台数は495万台に達し、前年同期比14.8%増となりました。そのうち新エネルギー車(NEV)の輸出は89.4%という高い伸びを記録しています。こうした状況の中で、Autonaviは「いまこそ出海(海外進出)のタイミングだ」と判断したのです。
この判断の背景について、メディア「晚点(LatePost)」はAutonavi自動車事業センター総経理の江睿(ジャン・ルイ)氏にインタビューを行っています。以下はその要点です。
「時期尚早」から「その時が来た」へ──Autonaviが踏み出したグローバル化
3年前、新興メーカーXpeng(小鵬)の何小鵬会長が江睿氏に「Autonaviはなぜ海外に出ないのか」と問いかけました。当時の江氏の答えは「時期尚早」でした。しかし今では、「その時が来た」と考えているといいます。
江氏によれば、中国国内の自動車市場はまだ完全に飽和してはいないものの、競争の激化により各メーカーが海外市場へと活路を求めざるを得なくなっています。一方、海外市場には依然として多くの「ブルーオーシャン」(競争が少ない未開拓市場)が存在し、中国企業は製品の改良速度や開発効率において優位性を持ち始めています。こうした状況の中で、製品と技術が成熟段階に達すれば、「海外進出は自然な選択」になるということです。
ただし、その道は決して平坦ではありません。江氏は「海外展開には4つのハードルがある」と語ります。すなわち、①政策や文化・安全基準などの環境的不確実性、②市場やユーザー理解における認知の差異、③既存技術の転用が難しい技術的課題、④競争環境のグローバル化、の4点です。
AutoSDK──Autonaviの差別化戦略の中核
今回発表された「AutoSDK国際版」は、Autonaviの海外戦略の中心を担う存在です。江氏によると、AutoSDKは自動車メーカー向けの開発ツールキットであり、豊富なAPIや端末側の制御ロジックを組み込み、クラウドサービスと連携することで多様な機能モジュールを構成できます。メーカーはこの基盤をもとに、自社に合わせたカスタマイズ開発を行い、独自のインテリジェントコックピットや自動運転体験を構築することができます。
AutoSDKの機能構成は三層構造となっています。
- 第一層:ルート案内、検索、位置特定、誘導などの基本ナビゲーション機能
- 第二層:車線レベルのナビゲーションや3D高精度レンダリングなど、ユーザー体験を高める拡張機能
- 第三層:信号機カウントダウン表示や盲点警告といった動的サービス機能
この仕組みは、Autonaviの長年にわたる進化の成果です。2016年前後、Autonaviの車載ナビ製品は「AMAP AUTO」と呼ばれる固定ロジック型アプリにすぎませんでした。しかしメーカーの差別化ニーズが高まるにつれ、Autonaviはコア機能を抽象化し、再利用可能なソフトウェアパッケージ化を進めました。2019年にはこのアーキテクチャが完成し、今日のAutoSDKへと発展。ソフトウェアだけでなく、教育体系、開発ツール群、テスト・監視機能を備えた総合エコシステムへと進化しました。
江氏はこう説明します。「AutoSDKは単なる開発ツールではなく、エンジニアリングシステムそのものの拡張です。お客様には、まるでレゴを組み立てるように、同一プラットフォーム上で国内外双方の開発・運用を迅速に行ってもらいたいのです。」
HEREとの提携と海外での課題
Autonaviは、HERE と提携し、HERE が提供する合法かつコンプライアンスに適合した地図データを利用し、Autonaviは、海外で地図データ収集を行いません。次に、ターゲット地域で現地法人を設立します。そして、HERE の地図データとAutonaviのクラウドエンジンを現地サーバーに展開し、車載端末にはパッケージ化された AutoSDK を搭載して、現地サーバーとの相互接続を行うことで、「現地コンプライアンス+グローバル同期」という運用方式を実現しています。
「海外で独自に地図を構築する計画は今のところありません。それは膨大なリソースを要する仕事だからです。」
また、中国メーカーが海外進出で直面する共通の課題として、
- GoogleやAppleのナビに比べて体験品質に差があること、
- BOMコストおよび現地適応コストの高さ、
- 国ごとの法規制に伴うコンプライアンスコストの増大、の3点を挙げています。
それに対し、Autonaviの強みは次の4点にあります。
- 多数の国内メーカーとの協業で培われた成熟したプロダクト力
- 研究開発から納入・運用までを網羅するエンジニアリング体系
- プラットフォームを共通化したレゴ型アーキテクチャによる低コスト化
- 世界規模の大規模シミュレーション能力
江氏は次のような例を挙げています。「たとえば、ドイツの12万本の道路を仮想的に再現し、ETA(到着予測時間)の誤差を検証したことがあります。原因がデータ、アルゴリズム、エンジンのどこにあるのかを即座に特定できる。こうした能力がグローバル展開の信頼性を支えているのです。」
「自動車には必ず地図が必要」
インテリジェントコックピットや自動運転システムにおいて、地図は依然として不可欠な基盤です。江氏は「地図企業の価値は『視界の先を見通す情報』を提供することにある」と強調します。
「私たちが解決しているのは遠距離かつ動的な問題です。たとえば、広東省梅大高速道路の崩落事故では、車線レベルの安全警報機能が多くの命を救いました。」
江氏は2022年の時点で「最終的にHDマップ(高精度地図)が不要になるとしても、車には必ず地図が必要」との考えを示していました。「『マップレス』とは、実際には『HDマップ依存からの脱却』を意味する」と説明し、地図の価値は『運転を可能にする』段階から『より快適にする』段階へと進化していると述べています。
Autonaviはこれまで、10センチ精度のHDマップから、50センチ〜1メートル精度のHQ地図、さらにナビ地図とHQ地図の中間に位置するSD Proへと進化を遂げてきました。精度は相対的に低下しましたが、カバー範囲と更新頻度は大幅に向上しています。
「地図の鮮度はすでに『日次更新』が可能で、交通情報は30秒単位で更新されています。」その裏には、AIを活用したマルチソースデータの融合があります。「従来の測量車だけでは、信号機カウントダウンのようなリアルタイム情報を実現することはできません。」
変化する自動車産業とAutonaviの役割
江氏によると、ここ数年の自動車産業の変化は三点に集約されます。
- 電動化が政策主導から市場主導へ移行したこと。
- スマート化が「スマートコックピット+自動運転」から、AIと演算力を軸とした「移動する生活空間」へと進化したこと。
- グローバル化が加速し、「国内生産・海外販売」から「海外生産・海外販売」へと発展したこと。
こうした構造変化の中で、AutonaviはAutoSDKを通じて世界の自動車メーカーと長期的な技術パートナーシップを築き、エンジニアリング能力とエコシステムによって、安全かつ差別化されたスマートモビリティ体験を提供していく考えです。
江氏は最後にこう語りました。「地図産業の終着点は『マップレス』ではなく、『生きた地図(ライブマップ)』です。それはリアルタイムに進化し、クルマのためだけでなく、人々の移動全体を支える存在になるでしょう。」