中国、高エネルギー密度リチウム電池を輸出規制の対象に――新エネ競争が新局面へ

10月9日、中国商務部と税関総署は共同で公告を発表し、2025年11月8日から一部のリチウム電池、主要な正極・負極材料、ならびにそれらの製造設備・技術を輸出規制の対象とする方針を明らかにしました。政府は、この措置について「国家の安全と利益を守り、国際的な拡散防止義務を履行するためのもの」であると説明しています。

サプライチェーンの重要領域を網羅する規制

公告によりますと、今回の輸出規制はリチウム電池産業チェーンの主要工程をカバーしています。完成品の電池では、エネルギー密度が300Wh/kg以上の高性能リチウムイオン二次電池セルおよび電池パックが対象となります。上流の製造設備では、巻回機、積層機、注液機、化成分容システムなどもリストに含まれています。

正極材料では、高圧実密度・高グラム容量のリン酸鉄リチウム材料、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物およびその前駆体、リチウムリッチマンガン系正極材料などが規制対象となり、これらの製造に用いられるロータリーキルン、高速混合機、サンドミルといった主要設備も制限されます。

負極材料の分野では、人工黒鉛および人工・天然黒鉛の複合負極材料が対象となり、造粒、黒鉛化、被膜改質といった重要工程設備も含まれます。また、連続黒鉛化技術などの重要製造プロセスも輸出制限の対象となりました。

規定によれば、企業がこれらの物品を輸出する場合は「中華人民共和国輸出規制法」および「両用物項輸出規制条例」に基づき、商務部に対して許可を申請する必要があります。通関時には、管制対象物であるかどうかを明確に記載し、関連技術パラメータを報告しなければなりません。申告内容に疑義がある場合、税関は貨物の通関を一時的に停止することができます。

規制基準は300Wh/kg――主流品と先端技術を線引き

市場分析によると、300Wh/kgという基準値は、現行の主流製品と先端技術の間に明確な境界を設けるものとみられます。現在、市場で主流となっているEV用三元系リチウム電池のエネルギー密度は250〜290Wh/kg、リン酸鉄リチウム電池は200Wh/kg以下が一般的です。したがって、現行の多くのEVや蓄電用途の製品は直接的な影響を受けず、規制の焦点は次世代EV向けの超高エネルギー密度電池に絞られています。

専門家によれば、高エネルギー密度電池が現在の輸出総量に占める割合は小さいため、短期的には国内産業への影響は限定的とみられます。しかし、長期的には世界の高性能電池サプライチェーンの構造に大きな変化をもたらす可能性があり、とくに欧米自動車メーカーの高級車生産に影響が及ぶとの見方も出ています。

中国のリチウム電池産業の位置づけ

中国は世界最大のリチウム電池生産国です。工業情報化部のデータによりますと、2024年の全国リチウム電池総生産量は1170GWh(前年比24%増)に達し、総産出額は1.2兆人民元を突破しました。そのうち動力用電池は826GWh(全体の7割超)で、新エネルギー車向けが中心となっています。蓄電用は260GWh、民生用は84GWhとなっています。

また、中国は世界の新エネルギー車用電池の主要供給国でもあり、世界全体の電池材料の約70%、動力電池の60%以上を供給しています。福建省や広東省など6省市で全国輸出額の8割以上を占め、主要輸出先はドイツと米国で、いずれも動力電池および蓄電電池の最大市場となっています。新規制の施行後は、欧米メーカーが高エネルギー密度電池や高級材料を輸入する際の制約が強まり、一部高級モデルでは納車の遅延が生じる可能性もあります。

コスト上昇と供給網再編の兆し

人工黒鉛負極材料の輸出規制は国際市場での価格上昇を招き、結果的に電池製造コストを押し上げるとみられます。試算によれば、負極材料価格が10%上昇した場合、動力電池のコストは約3〜5%増加するとされています。

供給リスクを分散するため、欧州や東南アジアでは自国生産能力の強化が進む見通しです。特に今回規制対象となった巻回機や連続黒鉛化技術は、電池性能を左右する重要装備であり、多国籍企業は自主開発投資を拡大せざるを得ない状況にあります。これにより、世界のリチウム電池産業は新たな技術競争と産業再編の局面に突入するとみられます。

蓄電分野への波及も

2025年上半期、中国の蓄電用電池輸出は前年同期比174.6%増と急伸し、最も成長の速い分野となりました。今回の管制措置は、こうした蓄電サプライチェーンにも連鎖的な影響を及ぼすとみられます。

今回のリチウム電池および関連材料の輸出規制は、中国が新エネルギー分野における戦略的主導権を強化する一方で、世界的なサプライチェーン再構築と技術競争の新たな段階の到来を示す出来事となりました。

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