中国、自動車ドアハンドルに新たな強制国家標準案 格納式デザインに終止符か

中国工業情報化部(工信部)は9月24日、「自動車ドアハンドル安全技術要求」に関する強制性国家標準(以下、新国標)および関連する3件の改訂案を公開し、意見募集を開始しました。締め切りは2025年11月22日で、全国自動車標準化技術委員会を通じて産業界や社会から幅広く意見を募ります。
背景:電動・格納式ハンドルの普及と事故リスク
近年、外観の一体感や空力性能の向上といった流行の理屈から、従来の外開き式機械ハンドルは姿を消し、格納式や電動式のドアハンドルが普及してきました。テスラを模倣し、新興メーカーをはじめ多くの自動車メーカーが採用しましたが、低温下で凍結して開かなくなる、衝突後に断電して作動しなくなるなど、深刻な安全リスクも明らかになっています。実際、一部の事故では救助や脱出の遅れにつながった事例も報告されています。
こうした状況にもかかわらず、これまで国家レベルの明確な規制は存在せず、QC/T988-2014やGB 15086-2013といった古い基準が形骸化し、自動車メーカーごとに独自仕様を策定する状態が続いていました。その結果、同じ項目でも、例えば同じ破氷力(氷結時にドアを開ける力)でも、各社の基準値が90N·mから15N·mまで大きく異なるなど、製品性能にばらつきがありました。
新国標の具体的要求
今回公表された新国標(意見募集稿)では、以下の要件が盛り込まれています。
- 事故後の開放性:不可逆拘束装置の展開やバッテリー熱暴走などの事故時、非衝突側のドアを外ハンドルで工具を使わずに開けられること。
- 機械式冗長設計:すべてのドア(テールゲートを除く)に、機械的に解錠できる外ハンドルを配置すること。電動式内ハンドルを採用する場合も、必ず機械式内ハンドルを併設すること。
- 操作スペース:外ハンドルは車体表面との間に、少なくとも60mm×20mm×25mmの手指操作空間を確保すること。
- 安全冗長・強度:断電や衝突時でも確実に操作可能な設計とし、強度、防挟み性能、視認性などに関する試験方法を明確化すること。
影響と業界の動き
この新国標は、デザイン優先で安全性を犠牲にしてきた格納式ハンドルに大きな影響を与えます。業界関係者によれば、「完全格納式」デザインは事実上禁止され、2027年7月以降に発売される新車では機械式冗長装置が必須となります。すでに一部メーカーは方針転換を始めており、ファーウェイ(華為)のSTELATO(享界)S9やフォルクスワーゲン安徽工場の新モデルは半格納式に移行し、テスラも電動式に加えて機械式解錠機構を導入しています。
ネット上では「格納式ハンドルが姿を消す」と話題になり、デザインを重視する層からは惜しむ声が上がる一方で、操作のしづらさや冬場の凍結、事故時のリスクを経験したユーザーからは歓迎する意見が目立っています。
今後の展望
今回の強制性国家標準の見直しは、すでに数年遅れていましたが、繰り返される事故を受けて安全確保のために不可避と判断されました。工信部は「新基準により自動車安全性能を高め、被動安全技術の発展を促進し、国民の生命を守る」と強調しています。
意見募集は2025年11月22日まで受け付けられ、その後正式な強制性国家標準として公布される見込みです。新基準の施行は、デザインやコストに依存してきた自動車業界に大きな影響を及ぼし、同時に消費者にとっても「安全と利便性を両立するドアハンドル」への転換点となります。