度重なるスマート運転事故──システム限界と過信の狭間で、メーカー宣伝の曖昧さが招くリスク

9月30日、GAC(広汽)の新エネルギー車「Hyper GT(昊鉑GT)」が高速走行中に工事車両へ追突する動画が各種ショート動画プラットフォームで拡散し、大きな注目を集めました。映像では、問題の車両がACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を作動させた状態で走行中、路肩のコーン型警告標識をはね飛ばした後、そのまま前方の静止した工事車両に衝突しており、減速の様子は見られませんでした。

確認によると、事故は9月26日午前7時ごろ、広州市番禺区の南大快速道路で発生しました。車両は2023年式のHyper GT 560 後輪駆動版EVで、L2級の「ADiGO」運転支援システムを搭載しています。装備はミリ波レーダー3基、カメラ5基、超音波レーダー3基ですが、ライダー(LiDAR)は搭載していませんでした。運転者の証言によれば、事故当時の走行速度は時速60〜80キロだったということです。

現場の状況から、車両はACC作動中に前方の工事警告表示や停止中の追突防止緩衝車を検知せず、自動緊急ブレーキ(AEB)も作動しなかったため、最終的に追突しました。車両は大破し、運転者は軽傷を負いました。

GAC側は、「本件はシステム認識の限界による事象である」と説明しました。搭載する3基のレーダーでは、追突防止緩衝車など特殊形状の障害物を認識できず、取扱説明書にも「工事車両など異形物は認識対象外」と明記されているとしています。また、同社は「本システムはあくまで運転支援機能であり、運転者が常に周囲を監視し、安全を確保する必要がある」と強調しました。

ただし、映像では衝突直前にAEBが作動した様子は確認できません。これについてメーカー側は「衝突時の速度が80km/hを超えており、AEBの作動上限を超えていた」と説明しました。業界関係者によれば、AEBには静止物体を検知しづらいという共通の課題があり、多くのシステムは時速60km/h以下で最も効果を発揮するということです。

注目すべきは、Hyper GTの「ADiGO」運転支援システムがGACとテンセントの共同開発によるもので、L2からL4までの「智駕」(スマート運転)能力を備えると自称し、2025年3月には「星灵智行」6.0にアップデートされたばかりだという点です。しかし今回の事故は、障害物検知能力の限界と制動機能の不発を露呈し、L2級自動運転の安全性への懸念を再び呼び起こしました。

スマート運転関連の事故が相次ぐ中、中国政府は規制を強化しています。9月17日、工業情報化部(工信部)は「スマートコネクテッドカー向け統合型運転支援システム安全要件」の意見聴取を開始し、初めてL2級運転支援の安全設計と責任範囲を体系的に明確化しました。

同文書では、車両が運転者による運転支援機能の誤使用に有効に対応することを求めています。ハンドルから手を離すと5秒で警告、10秒で警告レベルが引き上げられます。視線逸脱は5秒で注意喚起、さらに3秒で警告、追加の5秒で即時制御警告が発せられます。違反を繰り返した場合、システムは最低30分間停止します。併せてメーカーには、利用説明書の提供と運転者への教育が義務づけられます。

業界では、この安全要件によりL2級運転支援に対する安全基準が一段と引き上げられ、今後のモデルでは認識性能、アルゴリズムの信頼性、ドライバーモニタリングの仕組みがさらに重要になるとみられています。

実際、2025年だけでも「運転支援」や「智駕(スマート運転システム)」に関連する交通事故が多数発生しており、技術的限界やメーカーの誇大宣伝、および運転者の過信が深刻な問題として浮き彫りになっています。

    • 3月5日(福州):Li Auto L7が「智駕」モード中に地図認識の誤りで橋脚に急接近し、重大事故に。後にシステムの論理欠陥が確認されました。
    • 3月16日(武深高速):新エネルギー車が「智駕」作動中に運転者が注意を怠り、車線を逸脱して横転。
    • 3月19日(大広高速・信陽区間):疲労運転中に「智駕」機能を使用し、トンネル出口で車両が逸脱。接管の遅れにより事故が発生。
    • 3月29日(安徽・徳上高速):シャオミSU7がNOA(ナビゲーション式運転支援)作動下で時速116km/h走行中、工事区間の障害物に衝突し、女子大学生3人が死亡。シャオミの地図データ更新の遅延とAEBの欠陥が指摘されました。
    • 5月1日(済青高速):定速巡航で時速144km/h走行中に追突。運転者は「完全に『智駕』システムに依存していた」と証言しました。
    • 9月21日(江西・金渓区間):「智駕」使用中に注意を怠り、工事区のコーンを避けず追突。全責任を負いました。
    • 10月2日(湖北・随県区間):雨天時に「高速ナビ運転支援」作動中、車両が制御を失いトレーラーに衝突。接管の遅れにより運転者が全責任を負いました。

これらの事故はいずれも、L2運転支援システムが特定のシーンで検知能力の限界を抱え、運転者が「自動運転」と誤解して警戒を緩めることが重大な誘因となっていることを示しています。

今回のHyper GT事故動画の拡散は、L2級運転支援技術の現実的限界を改めて浮き彫りにしました。規制の強化や技術の進化が進む一方で、業界が直面している本質的な課題は、単なるアルゴリズムの改善ではなく、「支援」と「自動」の境界をどのように明確にするかという点にあります。

しかし、自動車メーカーがなおも「智駕(スマート運転)」の概念を宣伝し続ける限り、この境界は今後も曖昧なままでしょう。ユーザーに両者の違いを正確に理解してもらうのは難しく、こうした事故は車両の普及拡大とともにさらに頻発する可能性が高いとみられます。

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