BYDブラジル工場建設現場での発覚した「奴隷労働者」事件と中国の「低人権コスト優位性」

BYDがブラジルに工場を建設する際、中国人労働者が奴隷のような扱いを受けたという事件について、最近、国際社会で大きな関心を呼んでいます。ネット上では、この件に関するさまざまな意見が飛び交っています。

中国国内では、一部の人々は「ブラジルの労働条件は中国国内の工事現場と比べて特に悪いわけではない」と主張しています。中国国内では長時間労働が一般的で、「996(朝9時から夜9時まで、週6日勤務)」がむしろ幸せだとする考え方も存在するという意見もあります。また、中国企業が海外で労働者のパスポートや給与を管理するのは一般的な慣行であり、目的は労働者の逃亡を防ぐためだとする見方もあります。

中国政府は、ブラジルからの輸入牛肉を調査するなどの報復措置をちらつかせたり、当事者であるBYD幹部が「反中勢力による意図的な誹謗中傷」に反論したり、金匠グループが労働者たちに「奴隷ではない」との共同声明を発表させたりして、強気の姿勢を示しています。しかし、それは主に中国国内向けの広報活動に焦点を当てています。一方、ブラジルの労働当局やブラジルのメディアでは、調査を受け入れ、過ちを認めて罰則を受け入れる姿勢が示されています。

この事件の背後には、「国際社会が中国の競争優位性の一つと考える低い人権コスト」という現象が存在していることが指摘されています。

ブラジルがBYD工場を調査した経緯

BYDがブラジル北東部バイーア州に建設中の工場は、建設開始直後から地元労働者の不満を引き起こしました。

今年4月、工場建設が始まってからわずか1ヶ月で、地元の建設労働組合(SINDTICCC)は労働条件に関する最初の苦情を受けました。その内容は以下の通りです:

    • 建設現場の衛生設備が不十分であること。
    • 食堂が設置されていないこと。
    • 飲料水や食品保存設備が欠如していること。

4月23日、SINDTICCCはBYDの代表者と面会し、これらの問題を改善するよう要求しました。5月1日には組合が現場を視察し、新設された仮設食堂について、風への耐性が低く安全リスクがあるとして解体を求めました。

中国人労働者に対する暴力事件

9月30日、ブラジル公共労働省は匿名の苦情を受けました。その内容は、建設現場で中国人の「管理者」が中国人労働者を暴行しているというもので、映像が添付されていました。この映像はあまりにも暴力的であるため、公開は適切でないとされました。

10月から調査が開始されました。BYD側はこの「管理者」を解雇し、帰国させたと回答しました。しかし調査が進むにつれ、工事現場の安全管理上の問題が次々と明らかになりました。11月には4件の労働災害が報告され、12月1日には中国人労働者1人が重傷を負いました。その後も労働災害が頻発しました。

調査で明らかになった労働環境

ブラジル労働省の調査結果によると、以下の問題が発覚しました:

    • 中国籍労働者は毎日12時間働く必要があり、一部の労働者は週7日フルタイムで働くよう求められ、年次休暇も残業手当もないと訴えています。
    • 工場では労働者に十分な個人保護具(EPI)が提供されず、高リスクの生産環境で作業を行う際に重大な安全リスクに直面しています。また、すべての中国籍労働者に明らかな日焼けの症状が見られました。
    • 清潔な飲用水源が不足しており、一部の労働者は遠方の井戸から水を汲むか、直接水道水を飲むしかなく、健康と安全に大きな影響を与えています。
    • 工場で提供される食事は非常に質素で、野菜スープ1品のみです。
    • ベッドにはマットレスがなく、厚さ3センチの毛布しかありません。一部のベッドには毛布さえありません。
    • 宿舎には労働者が個人の持ち物を保管する収納棚がなく、持ち物は空いたベッドフレームに置くしかありません。
    • 600人の労働者がいる工事現場には、性別を区別しないシャワーが8つしか用意されておらず、洗濯場がないため、労働者たちはシャワー室洗濯をしなければならず、シャワーの利用がさらに混雑しています。
    • 労働者31人につき1つのトイレしかなく、トイレットペーパーも提供されていません。トイレが不足しているため、労働者たちは午前4時にきてトイレに並ばなければならず、5時30分には作業に向かわなければなりません。
    • トイレは宿舎からの距離が近すぎ、シャワー室とキッチンも近すぎるため、現地の規定で求められる最小距離基準を満たしていません。検査員は、宿舎でトイレからの臭いがはっきりと感じられると報告しています。
    • キッチンには食品を保管するための十分な収納棚がなく、多くの食品が露天で保管されています。
    • 南米の熱帯地域の夏であるにもかかわらず、食品を保存するための冷蔵庫が用意されていません。
    • 食品保管場所がシャワー室に隣接しており、衛生規定に違反しています。
    • 賃金は40%しか支払われず、残りの60%は契約終了後に支払われる仕組みになっています。ブラジル当局はこれを「債務による奴隷労働」と見なしています。
    • 施工業者は少なくとも107人の中国籍労働者のパスポートを押収し、労働者が宿舎を離れるには許可が必要です。BYD側は、労働者が無断で出国したり管理から離れたりするのを防ぐためにパスポートを「代わりに保管している」だけだと説明しました。しかし、ブラジルの労働局はこの行為を「事実上の不法監禁」とみなし、特に「人格を侮辱する」という厳しい表現を用いて批判しています。

ブラジル政府の判断

ブラジル政府の報告によれば、金匠建設グループ有限公司はブラジル国内で470名のブラジル人労働者を雇用していましたが、これらのブラジル人労働者の生活環境、労働強度、契約条件は中国人労働者とは完全に異なっていました。具体的には、8時間労働制や35日の年次休暇制度が厳格に遵守されており、残業には適切な手当が支払われ、労働基準を満たした環境が提供されていました。この点が中国人労働者の待遇と鮮明に対比され、故意によるものと認定されました。

さらに、ブラジル労働検察官事務所は「刑事分野で措置を取る可能性がある」と表明しました。

また、この事件を契機に、ブラジル労働省は他の2つの中国系サプライヤーでも中国人労働者の待遇が基準に合致していないことを発見しました。1社目は上海欧本鋼構有限公司(Open Steel)で、BYDの工場向けに建設資材を提供していました。もう1社は中国機械工業グループ有限公司傘下の中国汽車工業工程有限公司(AE Corp)で、工場内の自動車生産ラインの設置と調整を担当していました。ただし、これら2社の問題は金匠グループほど深刻ではありませんでした。

BYD公式の反応とブラジルの労働法事情

BYDの公式声明では、同社は常に現地の法令を厳守し、従業員の合法的な権利を尊重してきたと強調しています。今回の事件については、外部委託業者の管理不行き届きが原因であり、関係する業者との契約を打ち切るとともに、委託労働者の労働条件と生活環境の全面的な改善を約束しました。同様の問題が再発しないよう努めるとしています。

ブラジル検察官は、2025年1月7日にBYDおよび金匠グループの代表と再度会談し、調停案を提示する予定です。この調停案により、労働検察官の調査を免れる可能性はありますが、それでも労働監察官や連邦検察官による審査や証拠共有の対象となる可能性があります。

公表された株式情報によれば、金匠グループはBYDの子会社であり、海外建設プロジェクト専用に設立された企業と見られています。

中国企業の海外進出における課題と教訓

ブラジルは1943年に「統一労働法」を制定しており、労働管理は非常に細かく人道的で、罰則も厳しいことで知られています。

かつて韓国がブラジルに工場を設立した際にも、従業員管理の問題で罰則を受けたことがありました。サムスンは当時、ブラジルの工場で総額1.2億ドルの罰金を科されました。2013年の初めての罰則は以下の原因によるものでした。韓国のサムスン工場が26日間連続で残業を行わせ(残業代は支払っていた)、品質検査の担当者に椅子を用意せず立ったまま作業させ、生産ラインのペースが速すぎて従業員が疲労したことです。

極端な例として、ある中国の会社でも、ブラジル法人が罰則を受けたことがあります。その原因は、従業員にノートパソコンを支給し、帰宅後も仕事を続けさせながら残業代を支払わなかったことです。このため、後に同社のブラジル法人では、従業員が退勤後にノートパソコンを持ち帰ることを禁止し、全て一括して保管するルールを設けました。

歴史を振り返ると、かつてアメリカで中国人移民排斥法が制定された背景には、同じ労働階層である移民との賃金競争がありました。現代でも、中国企業が海外で労働条件を改善せずに低コスト競争を続けると、同様の対立が再燃するリスクがあります。結局のところ、現地での持続可能な成長には、労働者に満足感を提供することが必要不可欠です。

このように、中国企業が海外で競争力を維持するためには、現地の法律を遵守しなければならないことが明らかです。中国国内では「低人権コスト」と呼ばれる競争優位性が存在しますが、海外進出ではこれが逆に弱点となる可能性があります。

 

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