BYDは次の「恒大」になるのか?「隠れた負債」問題でGMT Researchが警鐘
1月20日、ブルームバーグは、BYDの実質的な純負債が3,230億元(約6.6兆円)に達しており、その主な要因がサプライチェーンファイナンスにあると報じました。同報道は、香港のショートセル機関「GMT Research」のレポートを引用し、BYDがサプライチェーンファイナンスに過度に依存していると指摘。GMT Researchは、これに潜在的なリスクがあるとして警鐘を鳴らしています。
GMT Researchの指摘:BYDのサプライチェーンファイナンスと隠れたリスク
1月10日、GMT Researchは報告書を発表し、BYDがサプライチェーンファイナンスを利用して負債を隠していると指摘しました。サプライチェーンファイナンスとは、企業が自社の信用を利用して代金支払いを先送りするなどの手法を通じて、サプライチェーン全般にわたる資金調達を行う広範な貿易金融ソリューションを指します。実際、2023年時点でBYDがサプライヤーに代金を支払うまでの平均期間は257日であり、他の地域の決済周期(45~60日)よりはるかに長い期間となっています。
GMT Researchは、販売の売掛金を負債に組み入れ、90日以上の未払い買掛金も負債として再計算すると、2024年6月30日時点でのBYDの純負債は3,230億元に達すると指摘。一方、BYDの公式発表では純負債は277億元とされています。
この手法により、BYDの財務状況は実態以上に良く見えますが、デフォルトリスク、契約上の負債リスク、流動性リスクを隠しており、投資家がBYDの本当の財務状況を正しく評価するのが困難になっています。その結果、BYDの株価評価は実態とかけ離れ、適正な投資判断を妨げる要因となっています。
GMT Researchとは?
GMT Researchは、香港に拠点を置く独立系リサーチ会社で、特にアジアや中国企業の会計・ガバナンス分析に精通しています。2023年には中国の大手不動産ディベロッパーの恒大(エバーグランデ)についての報告書を発表し、同社が実際には一度も利益を計上していない可能性を指摘しました。この分析は恒大の財務報告と大きく食い違うものでしたが、結果的に恒大の破綻を正確に予測する形となり、大きな反響を呼びました。そのため、今回のBYDに対する警告も業界に衝撃を与えています。
BYDの資金調達手法「Dチェーン」とその影響
近年、BYDの売上は急速に拡大し、それに伴い固定資産投資も増加しています。短期的な巨額資金の需要を、利益の蓄積だけでは賄えず、株式発行による資金調達では時間がかかるため、負債の拡大は避けられない状況にあります。
しかし、BYDは銀行からの借入ではなく、サプライヤーへの未払い金(買掛金)を活用して資金調達を行っています。これは、BYDがサプライチェーンに対して強い信頼関係や強い交渉力を持っていることを示しています。
BYDのサプライチェーンファイナンスには、「迪鏈(Dチェーン)」と呼ばれる独自の金融ツールがあります。これは本質的には電子債権証書の一種で、BYDはサプライヤーとの取引において、この証書を支払い手段として発行します。サプライヤーは、この証書を満期まで保有して現金化することも、前倒しで資金化することも、あるいは他のサプライヤーに譲渡して支払いに充てることも可能です。
Dチェーンの仕組みは商業承兌手形に似ていますが、より高い流動性と便利な資金調達機能を備えています。特に、BYDのプラットフォーム上で直接運用できるため、従来の資金調達プロセスに伴う煩雑な手続きを必要とせず、資金提供者はBYD自身またはその他の金融機関となる場合があります。
BYDに詳しい情報源によると、サプライヤーは製品を納入してから3カ月後に「Dチェーン」を受け取り、その後、実際に現金を受け取るまでにさらに6〜9カ月かかるため、支払いサイクルは9〜12カ月にも及びます。
資金が必要なサプライヤーは、BYDのサプライチェーン関連会社に対してDチェーンを割引して現金化できますが、その割引率(利率)は8〜10%とされています。これが事実であれば、大きな疑問が生じます。サプライヤーの純利益率が8%以下であれば、利益のすべてがBYDのサプライチェーン関連会社への利息支払いに消えてしまいます。実質的に、サプライヤーはBYDのために無償で働いていることになり、製品の品質維持が可能なのか疑問が残ります。また、高い利息を負担できるサプライヤーは、そもそも利益率が非常に高い企業でなければならず、その点からもBYDの部品品質への懸念が生じます。
BYDの財務リスクと潜在的な問題
Dチェーンという仕組みは、その流動性と価値の安定性を確保するために、最終的にはBYDの信用力と販売能力に依存しています。さらに、BYDの収益は黒字ですが、その返済原資は販売によるキャッシュフローに依存しており、これはかつての中国の不動産ディベロッパーと同じ手法です。つまり、本来サプライヤーに支払うべき資金を流用して負債を返済し、借金を先送りしている状態なのです。
不動産企業の場合、売上成長が鈍化した瞬間に資金繰りが破綻し、経営危機に陥ります。BYDもまた、サプライヤーへの支払いを先延ばしにすることで資金流動性を高めていますが、同時に負債を隠しているため、同じリスクを抱えています。
また、BYDの売上成長が鈍化すれば、サプライヤーへの支払いが滞り、一気に経営危機へと発展する可能性があります。特にBYDの「Dチェーン」は銀行を介さず独自に発行されているため、万が一デフォルトが発生した場合、債権者の保護がまったくないという点で、恒大よりも深刻な事態となります。
考えられるBYDの対策と今後の展開
この状況に対応するため、BYDは以下の3つの対策を講じる必要があると考えられています。
1.ネガティブニュースの抑制
批判的な報道を徹底的に抑え、疑心暗鬼のサプライヤーの不安を払拭します。
2.サプライヤーへの値下げ要求
2024年11月にサプライヤーに対し、10%の値下げを要求する通達を出したと報じられました。
3.海外市場の拡大
国内市場の価格競争と同時に、海外での販売を加速することで売上を維持します。
BYDは、新エネルギー車市場での快進撃により、この危機を乗り越えることができるのでしょうか。