BYD、日本で価格戦争を展開 最大50%値下げ、中国式攻勢を仕掛ける

BYDは、日本でついに本格的な価格戦争に踏み切りました。すでに45か所の販売拠点を展開し、4車種の電動モデルを投入してきた同社は、9月いっぱいで前例のない大幅値下げを打ち出しました。対象となるのは、純電動セダン「SEAL(海豹)」、小型EV「DOLPHIN(海豚)」に加え、今年4月に発売されたSUV「SEALION 7(海狮07)」で、値下げ幅は50万~117万円に及びます。具体的には、SEAL四輪駆動版が117万円引き下げられ、改定後の価格は455万円、DOLPHIN標準版は50万円安の249.2万円となりました。さらに政府補助金を加味すれば、一部車種の実質値下げ幅は最大50%に達し、DOLPHINは最安149.2万円と、日本市場で最も安い純電動車となります。
BYDが価格攻勢に出た背景には、販売不振があります。日本進出から2年半以上が経過しましたが、現地消費者の心をつかめず、2023年1月から今年8月までの累計販売台数はわずか6,069台、市場シェアは0.1%未満にとどまっています。45店舗の展開や4モデルの投入、さらに2026年末には電動軽自動車を発売する計画を公表していますが、今年1~8月の平均月間販売台数は272台にとどまり、2024年の199台より73台しか増えておらず、拠点の増加と車種の導入は需要喚起には至っていません。
日本市場でのBYDの値下げは極めて異例です。日本の自動車メーカーは価格競争に頼らないのが通例です。ブルームバーグ・インテリジェンスのシニアアナリストTatsuo Yoshida氏は「割引戦略は中国ではBYDを最も人気のあるEVブランドに押し上げたが、日本では逆効果になる可能性が高い」と指摘しています。初期に購入した顧客が「高値掴み」だと感じる懸念に加え、車両の残存価値を損ない、中古市場への悪影響も予想されます。
BYDが苦戦する根本要因は、日本消費者の強固なブランド忠誠心と、長年ハイブリッド車を支持してきた購買嗜好にあります。トヨタ・プリウスなどのハイブリッド車は長らくベストセラーであり、ホンダやトヨタ、スズキもハイブリッド車の展開を強化中です。ホンダは今月、初の小型EVを発表し、トヨタとスズキは2025年に電動軽自動車を共同投入する計画を明らかにしています。これに対し、海外勢は苦戦が続いています。GMのサターンは早々に撤退し、現代自動車も2009年に一度撤退して以降、再参入を模索しています。テスラでさえ月間数百台規模にとどまり、長年横ばいが続いています。
電動化の進展も鈍い状況です。2025年上半期、日本のEV普及率は上昇したもののわずか3.2%にとどまり、街中で新規の充電インフラを見る機会も少ないのが現状です。
現状、BYDは月間数百台の販売では日本での運営コストを賄えません。しかし同社は布陣を強めており、2025年末までに100店舗体制を整え、順次PHEVや軽自動車を投入する計画を掲げています。専門家は「BYDの狙いは市場制覇ではなく、日本という最も厳しい市場に『足跡』を残すことだ」と指摘しています。世界で最も目の肥えた消費者に認められる経験は、経済的には非効率であっても同社にとって大きな意義を持つかもしれません。
BYD JapanのEVキャンペーン
出典:BYD Japan