BYD横浜中央店の閉店は象徴か──日本市場でEVが根付かない理由

BYDの日本事業に改めて注目が集まっています。12月14日に横浜中央店が正式に営業を終了したためで、同社の日本市場での実勢に対する議論が一気に広がりました。

横浜中央店は 2023 年 4 月に開業し、山下公園や中華街、神奈川県庁にも近い横浜市中区の一等地に構えていました。本来であれば自然に集客が期待できる立地でしたが、開業以降、販売が安定せず、月間販売はおおむね 10 台前後にとどまっていたと言われます。損益分岐点には程遠く、今回の閉店は特例ではありません。群馬県でもすでにBYDの販売店が静かに撤退しており、同様の問題が繰り返されている状況がうかがえます。

現在、BYDは日本国内で約66店舗を展開していますが、年間販売台数は8000台に満たず、単純計算で1店舗あたり年間120台ほどです。この規模感では、店舗運営に必要なコストを賄うのは容易ではなく、販売店側が経営を維持するのは極めて難しくなります。

横浜中央店の閉店理由は、一見すると販売不振によるものですが、根底にはBYDの販売網の仕組みと日本の商習慣の相性の悪さがあります。中国国内と同じように販売店に一定の在庫を持たせる運営スタイルを踏襲していたものの、日本ではBYDのブランド認知がまだ十分に浸透していません。そのため販売が計画どおり進まず、在庫負担がそのまま資金繰りの悪化につながりやすい状況にありました。中国国内でも、かつて山東省で複数の販売店が資金難により倒産したことがありますが、これらは「販売店側の過度な拡大」という説明にとどまり、構造的な課題がそのまま日本市場にも持ち込まれた形になっています。

一方で、「日本で売れないのは価格が高いからだ」という意見もありますが、これも実態とはやや異なります。確かにBYD車は日本では中国より 8〜10 割ほど高い価格設定になっています。しかし同クラスの国産EVと比べれば、それでも2〜4割程度は割安です。本来なら価格面では競争力があるはずですが、実際にはBYDが日本のEV市場で占めるシェアは2割程度にとどまっています。
この乖離を生んでいるのは価格そのものより、ブランドへの信頼、EVを取り巻く環境、そして日本市場特有の構造です。

日本では電力料金が中国の約2倍と高く、燃費性能に優れる軽自動車やハイブリッド車が広く普及しているため、利用コストの面でEVが優位に立つとは言い切れません。たとえば、BYD「ドルフィン」の日本価格は286万円なのに対し、トヨタ「ヤリス」の上位グレードは約192万円で購入できます。購入時点で大きな差があり、さらにEVはバッテリー劣化が中古車価格に直結するため、残価の予測が難しいという弱点もあります。このような状況では、日本の多くの消費者がハイブリッドやガソリン車を選ぶのは自然な流れと言えます。

さらに、BYDが日本専用ブランド「RACCO」を立ち上げたことで販売が伸びるという楽観論もありますが、新ブランドの投入と販売成績は必ずしも結びつきません。中国では、販売低迷に陥ったメーカーであっても新車を投入する例があり、新ブランドの登場自体が成功を保証するわけではありません。日本のユーザーはブランドの蓄積、販売店のサービス、転売価値、維持費などを総合的に重視する傾向が強く、単に「新しい名前のEV」を投入するだけで市場を掌握できるほど単純ではありません。

このように横浜中央店の閉店は、BYDが日本市場で抱える課題を象徴する出来事と言えます。ブランドへの信頼不足、EVそのものへの慎重姿勢、高い電気代、低い残価、軽やハイブリッド車への根強い支持、販売店運営と商習慣の不一致―こうした要因が複雑に絡み合うことで、中国国内のように急速な店舗拡大と販売増を実現するのは簡単ではありません。BYDは年末までに店舗数を66店から80店に増やす計画を掲げていますが、その歩みは当初より確実に慎重になっており、同社の対外的な発信も「販売拡大」から「日本の電動化推進への貢献」へとトーンが変わりつつあります。

全体的に見れば、BYD横浜中央店の閉店は決して単独の出来事ではありません。世界的に販売好調なテスラでさえ日本では伸び悩み、日本のメーカーが手がけるEVも同様に勢いを欠いています。こうした状況は、より本質的な問題を浮き彫りにしています。つまり、EVの普及率がわずか2〜3%にとどまり、ランニングコストもガソリン車と比べて優位とは言い切れない日本市場では、どのEVブランドであっても簡単には成功しにくいということです。

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