新たな中央企業「中国長安汽車集団」が発足 東風汽車との合併計画は白紙に

7月27日、新たな中央企業である中国長安汽車集団有限公司(以下「新長安」)が、正式に商業登記を完了しました。登録資本金は200億元、法定代表人は現・長安汽車董事長の朱華栄氏、登録住所は重慶市江北区建新東路260号です。この重大な動きは、中国兵器装備集団傘下の自動車事業における大規模な再編が一区切りを迎えたことを意味します。
公開されている企業情報によると、新長安の事業範囲には、自動車の販売、新エネルギー車の完成車販売、自動車部品の研究開発などが含まれています。また、すでに微博(Weibo)、WeChat公式アカウント、動画チャンネルなどのSNSアカウントが開設されており、ブランドの広報活動が始まっています。
この新会社の設立は、国務院が中国兵器装備集団に対して戦略的再編を承認したことによるものであり、同集団の自動車事業が分離・独立し、新たに中国長安汽車集団有限公司として中央企業化されたものです。新長安は国務院国有資産監督管理委員会(国資委)の直接管理下に置かれ、その目的は、軍需事業と民間自動車事業との明確な線引きを行うことにあります。
新長安は7月30日にメディア向けブリーフィングを開催し、各自動車ブランドの2025年上半期の業績や、今後の成長戦略について発表する予定です。
かつて市場では、長安汽車と東風汽車が合併し、「スーパー自動車メーカー」が誕生するとの憶測が飛び交いましたが、最終的にこの合併案は白紙撤回されました。複数のメディア分析によれば、その背景には以下のような要因があるとされています。
- 主導権争い:東風汽車は合併後の主導的立場を望んでいましたが、市場での実績が高く、柔軟な経営体制を持つ長安汽車は、従属的なポジションを拒否しました。
- 戦略の不一致:東風は水素エネルギー商用車への投資を重視している一方、長安は固体電池への転換を進めており、技術と資源配分の方針が大きく異なります。
- ブランドと組織の重複:両社の自社ブランド(長安のDeepal(深藍)やAVATA(阿維塔)、東風のVoyah(嵐図)や猛士)は市場におけるポジションが似通っており、統合によって社内競合や販売チャネルの衝突が懸念されました。また、企業文化や行政上の格差も大きく、統合のハードルは高いものでした。
- 政策の方向転換:国資委はかつての「物理的な合併」から、「専門化による分離」と「協調による発展」へと方針を変更しました。
- 市場およびリスクへの配慮:統合よりも独立した経営のほうが、新エネルギーへの転換に柔軟に対応できるほか、大規模統合に伴うリスク(リストラや工場閉鎖など)も回避できます。
こうした経緯を経て、長安汽車は兵装集団から正式に独立し、第一汽車、東風汽車に続く国務院直属の3番目の自動車系「副国級」中央企業へと昇格しました。
一方で、東風汽車はこれまでの体制を維持し、合併計画は白紙となっています。