GAC AION、IPO断念で社員持株制度が破綻か──従業員出資金の6割失う

GAC AION(広汽埃安)の従業員による社内株購入制度が、同社のIPO(新規株式公開)計画の頓挫によって連鎖的な影響を受け、数百名の従業員が債務危機に陥っていると報じられました。
IPO断念で社員持株制度が破たん
2022年、AIONは混合所有制改革を推進し、従業員による持株制度を実施、「速やかな上場」を約束していました。
多くの従業員はローンや住宅の担保を利用して出資に参加し、資金は5年間ロックされる契約でした。2025年5月までは利息のみの支払いで済み、6月末から元本返済が始まる予定でした。
しかし、その後同社は上場しないことを決定し、当初の配当やリターンの約束はすべて消えました。従業員たちは、自分たちの投資が予定どおりに回収できないどころか、元本まで失う可能性があることに気づいたのです。
以前にも同様の問題が発生した。同じGAC傘下の合創汽車(Hycan)でも、従業員が株を購入した後に業績が振るわず、約束が守られなかったため、「汗水流して稼いだお金を返せ!」と抗議の横断幕を掲げたことがありました。
AIONはなぜ上場を断念したのか?
AIONのIPOは紆余曲折を経ていました。2023年には新エネ資本市場の冷え込みにより最適な上場時期を逃し、2024年にはBYDなどの価格競争の影響で販売が減少(年間販売は前年比21.9%減)、さらに親会社であるGACの業績も悪化(2024年の親会社帰属純損益は43.5億元の赤字)しました。
2024年にGACで経営陣の交代が行われたことにより、戦略の再編が進められ(例:マーケティングや研究開発の集約化)、AION独立性が損なわれ、上場の基盤が崩れてしまいました。
最終的に、2024年末に独立上場を正式に中止する決定が下されました。
情報の隠蔽と従業員の巨額損失
2024年の中頃には経営幹部の間で上場断念が既に決定されていたにもかかわらず、その情報は従業員に共有されず、結果として多数の従業員がローンの利息支払いを滞納(直近では120人以上が未払い)する事態となりました。
会社側は、市場純資産比42%という大幅に目減りした価格での強制買取を提案しています。仮に100万元を出資した場合、3年間で約10万元の利息を支払う必要がある上、58万元もの損失を被ることになります。従業員は大幅な元本割れに加えて、利息の支払いまで求められている状況です。
従業員側は、「全額返金および利息の返還」を求めており、一部の幹部が全額返金や利息補填を受けているという「特別扱い」に対しても強く反発しています。また、上場失敗は経営判断ミスであり、個人リスクとは言えないと主張しています。
会社側は、「上場失敗は個人投資のリスクに帰属する」として、返済を2026年まで延期する、または第三者への株式売却を提案しましたが、現時点で具体的な実現可能性は示されていません。
社内に露呈する深刻な問題
今回の騒動は、AIONに深刻な信頼の危機を持たしています。一部の従業員はすでに退職しており、元本を諦めた人もいます。内部では権利保護のためのチャットグループが立ち上がり、継続的に会社に圧力をかけていますが、会社側はこれまで公的な対応を示していません。このような状況で、従業員が安心して働けるとは到底言えません。
さらに、資本運用リスクも浮き彫りになりました。今回の持株制度はIPOと強く連動していたため、救済措置が存在せず、従業員はマーケットの変動リスクを一方的に背負う形となりました。
2025年5月における広汽埃安の単月販売台数は18,280台で、前年同月比29.91%の減少となり、約3割もの落ち込みを記録しました。2025年1月から5月までの累計販売台数は88,791台で、前年同期比11.77%の減少です。今回の騒動で、従業員のモチベーションがさらに低下し、AIONの業績回復にマイナス影響を与えかねません。
AIONは社員持株制度に関する「破たん」報道に対して否定声明を出していますが、IPO断念、販売不振、社内信頼関係の崩壊という現実は否定し ようがありません。これらの問題は、同社の資本戦略、ガバナンス、ブランド方針といった多方面における課題を浮き彫りにしています。新エネルギー車市場の競争が激化する中、早急に信頼回復と再成長への道筋を示すことが求められています。