トヨタ、中国でRCE制度を導入:開発主導権を中国エンジニアに移管

今年の上海モーターショーにおいて、トヨタは正式に「中国チーフエンジニア(RCE)制度」の導入を発表し、併せて「ONE R&D(ワン・アールアンドディー)」という統合型研究開発体制の推進を表明しました。これは、同社の開発体制が「本社主導」から「中国定義」へとシフトすることを示す重要な一歩であり、トヨタが中国に進出して以来、研究開発分野において最も大胆かつローカライズされた改革だと評価されています。
RCE(Regional Chief Engineer:中国チーフエンジニア)制度とは、従来のトヨタのCE(チーフエンジニア)制度を中国市場向けにローカライズした進化形です。RCEは、商品企画、技術開発、生産支援、販売支援といった車両開発の中核機能を1人のエンジニアに集約し、その人材には中国市場に対する深い理解を持つ中国人エンジニアが選ばれます。
このRCE制度の円滑な運用を支えるため、トヨタは組織体制も「ONE R&D」戦略に沿って再編しています。これまで一汽トヨタ、広汽トヨタ、BYDトヨタに分散していた研究開発リソースを、常熟にある「トヨタ・スマートEV開発センター(中国)」に統合しました。同センターは、トヨタにとって世界最大の海外開発拠点でもあります。
実際、この制度の成果はすでに市場で表れています。2025年3月に発売されたばかりの広汽トヨタ「bZ Sport Crossover(中国語名:铂智3X)」は、RCE制度の下で誕生した初の代表的なモデルです。このモデルは、広汽トヨタの中国人エンジニアである柳文斌氏が開発を主導し、発表直後から大きな反響を呼びました。――発売1時間で1万台の予約を獲得し、生産はすでに6月分まで埋まっている状況です。
この「铂智3X(bZ Sport Crossover)」が「バカ売れ」した理由は、中国の消費者ニーズを的確に捉えた点にあります。高度な自動運転機能を備えた上位モデルの価格は13.98万元からで、同クラスで唯一LiDARを搭載しているほか、NVIDIAのOrin-XチップやMomenta 5.0自動運転システムも採用しています。デザインの美学、内装の雰囲気、装備オプションなど、どれを取っても中国の新興EVブランドの基準に近い内容です。
これらの製品特性と価格戦略は、日本の本社では考えにくいほど「現地目線」に立脚しており、まさにRCE制度により中国人エンジニアが製品定義の主導権を握っていることの証明です。
4月23日に開催された「トヨタ・テクニカルスペース(トヨタ技術空間)」イベントでは、「铂智3X」以外にも中国人エンジニアが主導開発した新型車が多数紹介されました。
なかでも「铂智7」は葉志輝氏が主導し、広汽グループ・広汽トヨタ・トヨタが共同で開発したBEVのフラッグシップモデルです。ファーウェイのHarmonyOSベースのインフォテインメントシステムを初搭載し、運転支援システムも大幅に強化。中国の高級EV市場をターゲットとした重要な戦略モデルとなっています。
また、bZ CrossoverのRCE(中国チーフエンジニア)には王君華氏が就任し、次世代カローラの中国向けローカライズ開発は許天龍氏が担当しています。世界的に象徴的な存在であるカローラでさえ、そのデザインや機能を中国人エンジニアが定義する時代に入ったことを意味しており、中国市場における製品開発が、単なる「関与」から「主導」へと大きく変化したことを象徴しています。
Toyota 铂智3X(bZ Sport Crossover)
写真:トヨタ中国