中国、「高金利・高還元」型の自動車ローンを全面禁止──価格・流通現場に大きな転換

約5年間にわたり続いてきた「高金利・高還元」型の自動車ローン商品について、5月末に中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が整理・停止に動くとの情報が流れ、市場は数週間にわたり混乱しました。そして6月24日、ついにこの制度は全面的に廃止されました。工業情報化部が次々と「過去最も厳しい」とされる規制措置を打ち出し、その後、中国人民銀行を含む6省庁が連名で「消費拡大を支援するための金融政策に関する指導意見」を発表。地方の銀行業協会に対して自主的なガイドラインの策定を促し、「高金利・高還元」といった不適切な金融慣行を明確に禁止しました。
この「高金利・高還元」型ローンは、長年にわたり自動車消費市場で利用されてきた金融モデルであり、2022年に広く知られるようになりました。では、なぜこの仕組みは全面的に禁止されるに至ったのでしょうか?
三方得のはずが、銀行の一人負けに
このモデルの本来の狙いは、銀行・ディーラー・消費者の三者すべてに利益をもたらすものでした。銀行は自社のローン商品を販売するためにディーラーへ高額な販売奨励金(リベート)を提供し、ディーラーはその80〜90%を車両価格の割引として顧客に還元、販売促進につなげていました。これにより、ローン購入の方が現金一括購入よりも割引率が高いという、逆転現象が生まれていたのです。
この仕組みによって、銀行は融資額を拡大し、ディーラーは販売台数を増やし、消費者は実質的な値引きを受けるという「三方得」の構図が成立していました。しかし、この一見理にかなったモデルがなぜ全面禁止となったのでしょうか。
理由①:ディーラーが「金融頼み」へと傾斜
「4S店(正規ディーラー)は車を売っても儲からず、収益は金融商品とアフターサービスに依存している」という言葉は、すでに業界の常識と化しています。多くの場合、現金一括で購入する顧客に対しても販売員は販売に応じますが、営業成績がローン販売に紐付けられているケースでは、ローン契約を誘導するためにさまざまなハードルが設定されます。
たとえば「現金購入だと対応できないが、ローンなら柔軟に対応可能」「現金購入は在庫がないが、ローン購入なら即納可能」といった営業トークが使われ、消費者の自由な選択が損なわれていました。
特に近年は、在庫車両の積み上がりや自動車メーカー間の価格競争(いわゆる「内巻」)が激化し、ディーラーの利益が一段と圧迫される中で、「高金利・高還元」型ローンによる手数料収入への依存が強まっていたのです。
理由②:銀行は「赤字融資」を強いられる構造に
この制度における銀行の前提は、「ローン期間は5年、完済も5年後」というものでした。そのため、多くの高還元型ローンでは「前半2年間は無利息」といったプロモーションが容認されてきました。銀行としては「無利息期間中に完済されることはない」と見込んでいたのです。
しかし実際には、消費者の多くが2〜3年で返済を終えるというサイクルで動いており、銀行がディーラーに支払った高額な奨励金は回収できず、利息収入もほとんど得られず、実質的に「赤字融資」となっていました。
この傾向の背景には、特に若年層の「お得志向」の高まりがあります。618(6月18日)やダブルイレブン(11月11日)などの大型セールに鍛えられ、DSアプリやSNSを駆使して「どのタイミングで返済すれば最も得か」を把握する消費者が増加しています。
さらに、2025年1〜5月の全国における住宅・消費者ローンの新規貸出額はわずか6000億元未満で、全体の信用供与に占める割合は過去最低の5.4%にとどまりました。かつてのピーク時の2割にも達していません。今年初めには個人ローンの金利が一時3%を下回る局面もあり、「現金で買えるが、とりあえず2年無利息ローンを利用して途中で一括返済する」または「低金利の消費者ローンで高利の自動車ローンを相殺する」といった戦略を取る消費者が増えました。
その結果、ディーラーが奨励金で潤い、消費者が割引を享受する一方で、銀行だけが「資金をばらまく」構図となっていたのです。
ディーラー側の過度な営業姿勢と、銀行の収益悪化という二重苦により、「高金利・高還元」モデルは現在の経済環境にそぐわないものと判断され、銀行とディーラーの長期的かつ安定的な協力関係の構築にも支障をきたすとされました。
制度の見直しに伴い、銀行がディーラーに支払うリベートは、従来の15%から4%以下にまで圧縮され、ローンの年利も6.5%から3.2%へと引き下げられています。さらに、繰上げ返済への制限も一段と厳格化されています。
影響①:車両価格の一時的な上昇
7月に入り、全国各地で「高金利・高還元」型ローンの禁止が正式に施行されたことを受け、一部の自動車メーカーは迅速に価格の見直しに踏み切りました。
たとえば、レクサスはES300hをはじめとする主力モデルで最大4万元(約80万円)以上の値上げを実施。アウディA4Lのエントリーモデルも、かつての16万元前後から一気に19万元超へと価格が戻されました。BMWはディーラー向けに3%の補助金を支給して価格維持を図っているものの、それでもかつての高還元型ローンを利用した際と比べると、消費者の実質負担は1〜2万元(約20〜40万円)増加しています。メルセデス・ベンツも同様に現金値引きを維持してはいるものの、全体として価格上昇の傾向は否めません。
一部の中国自主ブランドでは、より巧妙な形で「駆け込み需要」を刺激する手法が見られています。たとえば、「現在の割引は間もなく終了予定」といった文言が記載された広告ポスターがSNSなどに拡散されていますが、ブランドの公式アカウントでは正式な価格改定は公表されておらず、ディーラー主導の販促活動と見られています。
専門家の間では、「こうした価格の上昇は一時的なもので、ある程度は事前に想定されていた」との見方が大勢を占めています。現在のところ、銀行側から「高還元型ローン」に代わる新たな金融商品は提示されておらず、自動車メーカーも年間の販売戦略をにらんで慎重な動きを見せており、無理な価格競争には踏み込まない構えです。
影響②:ディーラーの経営悪化
今回の「高金利・高還元」型ローンの全面禁止により、これまで金融手数料に大きく依存してきたディーラーは、販売奨励金の大幅な縮小、あるいは完全な消失に直面しています。
販売奨励金がなくなれば、車両価格の割引余地も狭まり、消費者の購買意欲を直接的に抑制することになります。その結果、もともと課題とされていた在庫過多やキャッシュフローの断絶といった問題に、さらに拍車がかかることとなりました。
こうした環境のなかで、販売奨励金に依存してきた一部のディーラーは、いまや「販売不振 → 利益急減 → サービス品質の低下 → 顧客離れ」という負のスパイラルに陥っています。
市場は、最も厳しい方法で再編を進めています。過度に金融手数料に依存してきたディーラーの多くは、債務トラブルの末に閉店を余儀なくされるか、あるいは大量の在庫を抱えたまま撤退のタイミングを待つという状態に追い込まれています。