Horizon Roboticsの蘇箐氏、自動運転に冷や水──「FSD V12の先にあるのは、耐久力を問われる厳しい時期だ」

12月9日に開かれた「地平線2025技術エコシステム大会」で、Horizon Robotics(地平線)の副総裁兼チーフアーキテクトである蘇箐(Su Qing)氏は登壇するなり、「あまり浮かれすぎない方がいい。これからまた厳しい時期に入ります」と語りました。自動運転が再び熱気を帯びる中、この一言はまさに冷や水のようでした。ただし、彼の見方は悲観ではありません。この10年、自動運転の現場で起こってきたことを見続けてきた立場からの率直な判断です。テスラのFSD V12が大きな話題を呼び、「技術的な転換点が来た」と期待が高まる一方で、蘇氏はむしろその後に続く本当の戦いを見据えていました。技術の方向性が正しいと証明された今こそ、これから数年は「体力勝負・資金勝負・組織力勝負」が続くと強調します。

蘇氏は中国の自動運転分野で長く中心的な役割を担ってきた技術者です。かつてはファーウェイ(Huawei)で自動運転製品ラインの総裁やチーフアーキテクトを務め、同社の「Da Vinci」AIチップアーキテクチャや高機能自動運転システムADSの開発を主導しました(ADSは業界で初めてASIL-D認証を取得したフルスタックの高度自動運転システムです)。2021年にテスラの事故率に関する発言が物議を醸し、翌年に退職。その後CARIAD Chinaを経て、2023年頃にHorizon Roboticsへ合流しました。

技術観として、蘇氏は「自動運転はまだ本当の意味での転換点には達していない」と見ています。安全性が人間を明確に上回って初めて真の価値が生まれるという考えです。

FSD V12については、蘇氏も大きな意味があると評価しています。端から端までデータで動く「エンド・トゥ・エンド方式」が初めて実用レベルで成立し、これまで認識と制御の間に横たわっていた「溝」が埋まったことで、業界が長年抱えてきた「本当にこの方向で良いのか」という迷いに終止符が打たれました。ただし、それでも「0から1ができた」に過ぎず、本格的な普及や信頼性向上まではまだ距離があると指摘します。また、人は技術が一度進歩すると「次もすぐ進む」と思いがちですが、深層学習はすでに限界が近い可能性があり、今後3〜5年で新たな基礎理論が突然現れる可能性は高くないといいます。仮に新しい理論が生まれても、それが実用化されるまでには5〜10年、あるいはそれ以上かかるでしょう。

だからこそ、向こう3年間は「既存の枠組みを徹底的に磨き上げる時期」になると見ています。能力・体験・コストを細かく積み上げ、地道に仕上げていく工程が続くということです。彼がいう「厳しい時期」とは、これまでのように劇的な技術革新で階段を駆け上がる時代が終わり、多くの工程作業を着実に積み重ねることで競争力が決まる段階に入った、という意味です。

その厳しさは主に3つあります。第1は莫大なコストです。「エンド・トゥ・エンド」は可能性が大きい反面、トレーニングや検証にかかる手間が膨大で、1回の実験で数十億元が消えることも珍しくありません。第2は「ロングテール」と呼ばれる膨大なコーナーケースです。人間なら直感的に判断できることほど、コンピュータには難しいという根本問題があり、水たまりの処理や大型車とのすれ違いなど、細かな場面の判断を一つずつ作り込むしかありません。第3は、量産時のコスト壁です。「都市L2」のような高度運転支援を一般的な車種に広げるには、性能を維持したまま徹底的にコストを下げなければなりません。L4を家庭用車に入れるなら、結局は「人間のドライバーに対してコストで勝てるか」という本質的な課題が立ちはだかります。

また蘇氏は、自動運転が難航してきた最大の理由として「難しさが軽く見られてきたこと」を挙げます。外から見ると華やかな技術に見えますが、実際は集中力・体力・精神力を長期的に消耗する「総合格闘技」のような領域です。車は現実世界を走る以上、状況を選べませんし、人間が自然にできる運転判断をコンピュータが再現するのは極めて困難です。FSD V12以前の方式は、認識はAI・判断は「ルールベース」という「半分AI」で、高精度地図への依存も大きく、「人間らしい」運転には程遠いものでした。

転機が訪れたのは2024年です。FSD V12やHorizon RoboticsのHSDが示したのは、「機能を部品のように積み重ねる」やり方ではなく、「大量の実世界データからまとめて学習し、不要な部分を削る」というまったく別のアプローチでした。この方式では、開発者が教えていない動作——たとえば自動で安全に路肩へ寄せる動作——をシステムが自ら身につけることもあり、これがデータ駆動の強みだといいます。

この新しい考え方は、今後の業界の進む道も変えつつあります。蘇氏は、今後の大きな変化として2つを挙げています。1つ目は「都市L2」の急速な普及です。技術が一度形になれば、コピーコストはほとんど増えないため、高級車だけでなく、10万元級の車にも自然に広がっていくと予測します。2つ目はL2とL4の「統合」です。従来のL4は高価なセンサーや高精度地図が必須でしたが、新しい方式では、複雑な都市ひとつを克服すれば、その知識を他の都市へ広く展開できます。これにより、自家用車とロボタクシーの双方で自動運転が普及する未来が現実味を帯びてきます。

こうした状況の中で、次の3年に本当に重要なのは理論そのものではなく、エンジニアリング力・組織力・計算資源の基盤づくりだと蘇氏は見ています。Horizon Roboticsはそのために3つの方針を掲げています。第一に、強力な開発組織——蘇氏の言う「産業の母機」——をつくること。第二に、L2からL4までをひとつの流れとして扱い、ユーザーの運転データを未来の高性能システムに生かせる統一アーキテクチャを維持すること。第三に、「徹底して計算能力を積み上げる」ことです。チップの進歩によって計算能力の単価は下がり続けるため、毎世代10倍の性能向上を目指すべきだという考えです。

そして、これからは機能を足していくのではなく、ひとつの大きなモデルに任せて育てていく「引き算」の発想が重要だといいます。HSDはすでに量産されていますが、蘇氏は「人間のドライバーを置き換える」という最終目標へはまだ距離があると認めます。それでも、その目標を掲げ続けることこそが、自動運転の本質的な価値だと語りました。

彼の視点では、自動運転業界は混乱期を抜け、共通の方向性が見え始めた「成長段階」に入っています。これから3年は劇的なブレイクスルーこそ起こりにくいものの、「企業の総合力が試される本当の勝負どころ」になる時期です。この「厳しい時期」をどう乗り越えるかが、次の技術飛躍につながり、自動運転が本当に生活の一部になる未来への鍵になると、蘇氏は強調しました。

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