Geely系企業が動力電池メーカーのサンオーダを提訴――23億元の賠償請求が浮き彫りにする中国電池業界の構造変化

12月26日夜、車載用動力電池メーカーのサンオーダ(Sunwoda、中国語名:欣旺達)は公告を発表し、子会社の欣旺达動力科技股份有限公司(以下、サンオーダ動力)が、12月25日付で浙江省寧波市中級人民法院から民事訴状および応訴通知書の送達を受けたことを明らかにしました。原告は威睿電動汽車技術(寧波)有限公司(以下、威睿動力)で、同裁判所はすでに本件を立件し、受理しています。
登記情報によれば、威睿動力は2017年に設立され、Geely(吉利汽車)グループにおける中核的な電動パワートレイン企業です。株主構成を見ると、Zeekr(極氪汽車)が支配株主で、もう一つの主要株主はGeelyとなっており、典型的なGeely系企業に位置付けられます。
公告によると、威睿動力は、2021年6月から2023年12月にかけてサンオーダ動力から納入された動力電池用セルに品質上の問題があったと主張し、それにより経済的損失を被ったとして、サンオーダ動力に対して損害賠償責任を求めて提訴しました。請求内容には、損害賠償額23.14億元(人民元)およびそれに付随する利息などの費用が含まれています。
サンオーダ動力と威睿動力の取引関係は2021年にさかのぼります。サンオーダが同年4月に開示した公告によれば、当時の全額出資子会社であるサンオーダ電動汽車電池有限公司(現・サンオーダ動力)が、威睿動力からPMAプラットフォーム向け動力電池セルの開発意向書を受領し、指定サプライヤーに選定されました。
PMAプラットフォームは、Geelyとボルボが共同開発した純電動車向けのモジュール型アーキテクチャーで、Zeekr、smart、ボルボ、Geely Geometry(幾何)など、複数ブランドの車両に採用されています。
原告側の主張によれば、2021年6月から2023年12月にかけて納入されたセルには深刻な品質問題が存在しており、これはGeely/Zeekrの社内において当該問題が発見・確認された時期が、少なくとも2023年12月以降であったことを示唆しています。
2024年2月27日には、Zeekr 001(2024年2月モデル)が発売されましたが、このモデルではサンオーダ製セルは採用対象から外されました。これまでGeelyとサンオーダの協力関係が深かったことを踏まえると、この時点での採用中止は、社内ですでにサンオーダ製セルの問題が確認されていた可能性を示しています。
その後、2024年10月7日には、自動車系ブロガーがSNS上で、2022年モデルのZeekr 001の一部オーナーに対し、動力電池パックの交換通知が届いているとの情報を投稿しました。これを受けて、多くのオーナーが実際に交換通知を受け取ったことを相次いで証言しました。対象となった車両は主に2022年モデルのZeekr 001で、いずれもサンオーダ製バッテリーを搭載したWE86仕様でした。また、この時期には、当該車両でいわゆる「電力制限」が行われ、実際の航続距離が大きく低下していたとの指摘も見られました。
2024年12月には、Zeekrが公式に、一部のZeekr 001 WE86車両(サンオーダ製バッテリー搭載)について、充電速度の低下や電池容量の劣化挙動に異常が確認されたと発表しています。
今回の訴訟を巡っては、影響を受ける主体の中でも、特に損失の大きい「敗者」に注目が集まっています。まず、Geely/Zeekrへの影響は大きいものの、その詳細についてはすでに広く議論されています。一方で、市場では「問題を把握していたのであれば、なぜ正式なリコール手続きを取らなかったのか」といった疑問の声も上がっています。
これに対し、サンオーダへの影響はさらに深刻で、場合によっては経営の存続を左右しかねない「正念場」を迎えているといえます。
財務面では、23億元を超える賠償請求額は、サンオーダの2023年および2024年の2年間の親会社帰属純利益合計の約9割に相当します。2025年上半期(前三四半期)の特殊要因を除いた利益も10億元余りにとどまっており、仮に多額の賠償が確定すれば、これまでの利益が一気に失われるだけでなく、キャッシュフローや日常の事業運営、さらには人件費や工場の稼働にも影響が及ぶ可能性があります。
資本市場の観点からも影響は大きく、サンオーダ動力はこれまでIPOによる資金調達で成長資金を確保する構想を描いていましたが、「重大な未決訴訟」の存在により、分社上場の道は事実上閉ざされ、上場への期待は大きく後退しています。
さらに深刻なのが、顧客および市場からの信頼低下です。Geelyはサンオーダにとって重要な顧客の一つであり、純電動車向けの受注が回復する可能性は低いと見られます。加えて、他の自動車メーカーや戦略投資家(SAIC、Li Auto、NIOなど)も、サンオーダ製セルの信頼性を改めて精査することになり、受注流出のリスクは一段と高まっています。
業界評価の面では、今回の争点が「電池パックの組み立て」や「使用環境」ではなく、セルそのものの品質問題にある点が、特に重く受け止められています。これは、サンオーダが2021年から2023年にかけて急速に生産規模を拡大する中で、品質管理体制が成長スピードに追いついていなかったことを浮き彫りにしています。もともと粗利率がCATL(寧徳時代)のおよそ半分程度にとどまる中で、「品質リスク」という評価が加わったことで、中堅電池メーカーとしての立場はさらに厳しくなっています。今後は、上流の材料サプライヤーからの求償が連鎖的に発生する可能性も否定できません。
より広い産業全体の視点では、本件は一つの明確なメッセージを示しています。すなわち、動力電池分野の競争はすでに「生産能力や規模を競う段階」から、「品質と信頼性を競う段階」へと移行しつつあるということです。
中堅電池メーカーにとっては、これまでのような急拡大路線を取れる環境は急速に狭まりつつあります。サンオーダの事例は強い警鐘となり、他のメーカー(EVE Energy(億緯鋰能)、Gotion(国軒高科)など)も品質管理の再点検を迫られ、無理な拡産を控える方向に向かうと見られます。
業界構造の面では、「上位企業が市場を取り込み、下位企業が撤退する」という流れが、今後さらに鮮明になる可能性があります。CATLやBYDといったトップメーカーは優位性を一段と強める一方で、中堅以下の電池メーカーはコストと品質の両面で圧迫されます。同時に、セルの均一性評価や寿命試験など、より厳格な品質基準の導入が進み、業界全体の参入障壁は一段と高まっていくと見られます。