上場直後に調達した75億元を資金運用へ──「中国版NVIDIA」モア・スレッドに広がる疑問

12月12日夜、中国版ナスダックとも呼ばれる「科創板」に上場して間もないモア・スレッド(Moore Threads、中国語名:摩尔线程)は、同社および募投プロジェクトを実施する子会社が、最大75億元の未使用の募集資金を対象に、資金運用(キャッシュ・マネジメント)を行う方針であると発表しました。公告によると、運用対象は協定預金、通知預金、定期預金、構造性預金、大口預金証書、収益証書など、安全性が高く、流動性にも配慮した元本確保型の商品が中心で、定められた金額および期間の範囲内で繰り返し運用できるとしています。

この発表は市場で瞬く間に大きな反響を呼び、株式掲示板やSNS、経済メディアを中心に議論が急速に広がりました。多くの投資家からは「理解しにくい」との声が上がり、中には「GPU開発の行き着く先は資金運用なのか」と皮肉る意見も見られました。こうした強い反応の背景にあるのは、発表のタイミングと金額の大きさです。モア・スレッドが上場したのは12月5日で、今回の公告はそのわずか1週間後に出されたものでした。

さらに重要なのは、この75億元という金額が、今回のIPOで実際に調達した資金のほぼ全額に相当する点です。公開資料によると、同社のIPOによる募集総額は約75.8億元で、発行費用を差し引いた実際の調達額は約75.76億元でした。つまり、上場してようやく手にした資金の大半が、早くも「余剰資金」と位置づけられたことになります。

一方、目論見書では、調達資金は主に次世代AI訓練・推論一体型チップ、グラフィックチップ、AI SoCチップといった新世代半導体の研究開発に充てると明記されていました。そのため、当初掲げていた資金使途と、実際の運用方針との間に生じたギャップが、世論の疑問や批判を集める結果となりました。

モア・スレッドは、元NVIDIA(エヌビディア)のグローバル副社長であり、中国大陸地域の総経理を務めた張建中氏が、2020年10月に設立したGPU専業のスタートアップ企業です。一般の投資家にとっては必ずしも知名度が高いとは言えないものの、資本市場では「中国初のGPU専業上場企業」「中国版NVIDIA」といった呼び名で注目を集めてきました。AIの学習・推論、グラフィック処理、高性能計算などをカバーするGPUを主力とし、技術的にはエヌビディアの中核事業を強く意識した構成となっています。中国の株式市場ではGPUを主軸とする企業が極めて少ないこともあり、「国産代替」という文脈と相まって、上場初期から高い注目度と評価プレミアムを得ていました。

もっとも、こうした注目の裏で、同社は依然として典型的な研究開発を優先する投資フェーズにあります。財務面を見ると、モア・スレッドはいまだ黒字化しておらず、ここ数年は連続して十数億元の赤字を計上しています。目論見書でも、短期的な利益確保は不透明で、早くとも2027年以降にならない可能性があると明示されています。GPU開発は多額の投資と長い時間を要する分野であり、こうした状況自体は業界では珍しいものではありません。そのため、市場では今回の上場による資金調達を、「研究開発を加速し、技術的な時間との勝負に出るための一手」と受け止める向きが強くありました。

公告の前後で、株価も大きく動きました。科創板の新規上場銘柄として、上場直後は株価が急騰し、時価総額も急速に膨らみましたが、理財に関する公告が注目を集めると、株価は一時20%近く急落し、最終的に13%安で取引を終え、時価総額は約600億元減少しました。市場心理の変化は、投資家が同社の今後の成長ペースや戦略を見直し始めたことを示しています。

制度面から見れば、上場企業が未使用の募集資金を低リスクの商品で運用すること自体は珍しいことではなく、今回のモア・スレッドの対応も、明確に規則に反するものではありません。ただ、株主が抱いている不安は「違法かどうか」という点ではなく、「今この段階で、本当に資金を急いで使う必要はないのか」という疑問にあります。GPUのように競争が激しく、技術の進化も非常に速い分野では、投資家が期待しているのは、調達した資金ができるだけ早く研究開発や製品化に振り向けられることです。資金を集めたうえで、それを運用に回す姿勢に疑問の声が上がるのも、決して不自然なことではないでしょう。

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