NVIDIA、中国向け「H20チップ」販売を米政府が承認──輸出規制と競争環境の狭間で再挑戦

 7月15日、NVIDIA(エヌビディア)の創業者兼CEOであるジェンスン・フアン(黄仁勋)氏は、米国政府が同社による中国市場向けH20チップの販売再開を正式に承認したと発表しました。また、中国市場向けに新たに設計されたGPU製品「RTX Pro」も、今後投入する計画であることを明らかにしました。これにより、トランプ政権下の輸出規制により中断されていたH20の販売が、再び可能になります。

 フアン氏は、中国市場がNVIDIAにとって極めて重要であることを強調しました。その理由として、単に市場規模が大きく活気に満ちているだけでなく、中国には優秀なコンピューターサイエンティストやAI研究者が数多く集まっている点を挙げています。

 H20は、バイデン政権下で輸出規制を回避するために設計された中国向けチップです。しかし、2025年4月にトランプ政府が対中規制を強化し、出荷停止となりました。H20は、一見すると、フラッグシップモデルであるH100をダウングレードした廉価版チップのように見えますが、実際にはそうではありません。あたかも外科手術のように、ワシントンが最も懸念する――すなわち、最先端の軍事用AIモデルの訓練に使われ得る、極端に高いスループット性能を精密に取り除いた設計となっています。最大のポイントは計算能力であり、H100がAIの学習タスクにおいて最大約2000TFLOPSの性能を持つのに対し、H20は300TFLOPS以下に抑えられており、その差は実に85%以上に及びます。この仕様により、最先端AIモデルの訓練には適さず、輸出規制の対象外となったのです。

 ただし、NVIDIAは単に性能を下げただけではありません。H20ではむしろメモリ性能が強化されており、96GBの大容量HBM3メモリと高速な帯域幅を備えています。これは、「AIを育てる」(モデルの訓練)には不向きであっても、「AIに働いてもらう」(すでに訓練されたモデルを用いた推論)には適した構成です。

 たとえば、チャットボットや大規模言語モデル、画像認識といったタスクでは、計算速度よりもむしろメモリ容量や帯域幅のほうが重要となる場合があります。実際、MetaのLlama 70Bのような巨大モデルを動かす際、H20であれば1枚のチップでぎりぎり処理が可能ですが、H100では1枚ではメモリ容量が不足することが多い。そのため、チップ間通信が発生しないH20の方が、場合によっては20%以上高速に動作することもあります。

 このように、H20は単なる「廉価版チップ」ではなく、「特化型チップ」と呼ぶべき製品であり、中国のAIアプリケーション市場、特に推論領域向けに設計されたものです。ユーザーの使用ニーズを満たしつつ、米国の規制ラインも超えないという絶妙なバランスを実現しています。

 H20の再登場は、「一方にファーウェイの台頭、もう一方に米国の規制」という二重の圧力を受ける中で、NVIDIAが下した現実的な選択とも言えます。米国の輸出規制を背景に、低性能ながら需要を拡大させているファーウェイの昇騰910Bチップが急速に台頭する一方で、NVIDIA自身も2025年度だけで約45億ドルの在庫および契約処理費用を計上し、最大150億ドル超の潜在的売上損失が見込まれていました。

 こうした背景のもと、H20の解禁はNVIDIAにとって中国市場での再起のきっかけとなりましたが、同時に競争のルールが変わったことも意味しています。これまで中国のAI企業はNVIDIA一択の状況でしたが、今後は「二者択一」が現実となります。すなわち、「政治的安全性」の高い華為の昇騰910Bを選ぶのか、それともCUDAエコシステムの成熟度と高度なインターコネクト性能を持つNVIDIAのH20を選ぶのかという選択です。

 さらに大局的に見れば、H20の復活は、米中間の技術対立が「全面的なデカップリング」から「管理された接触」へと移行しつつある兆候とも言えます。高度にグローバル化したサプライチェーンの現実を前に、政策立案者たちは一律の禁止よりも、「接触を保ちつつ制限する」という形のほうが効果的であると理解し始めているのです。

 将来的には、H20のような「合法チップ」がさらに増加し、競争は政策と技術が複雑に絡み合う、より繊細で戦略的なゲームへと進化していくことでしょう。

90

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。