BYD、在庫92万台超か──市場圧力が拡張路線にブレーキ、減産と計画見直しも

ロイター通信が6月25日に独占報道したところによりますと、BYDに近い2人の関係者によれば、同社は最近、生産および拡張のペースを静かに落としつつあるということです。中国国内の一部工場では、夜間シフトを取りやめ、生産量を少なくとも3分の1削減しており、あわせて新たな生産ラインの建設計画も延期されたと報じられています。

このような調整は、BYDがここ数年にわたり急成長を遂げ、テスラを上回って世界最大のEVメーカーとなった後に行われたものであり、大幅な値下げを実施したにもかかわらず、生産能力を十分に消化できず、在庫の積み上がりが深刻化している状況を浮き彫りにしています。関係者の一人は、こうした対応の目的の一つがコスト削減であると述べており、もう一人は、販売実績が期待を下回ったことにより、やむを得ず実施された調整であると説明しています。

BYDはロイターのコメント要請に対して現時点で回答しておらず、ただし同社の生産および販売の鈍化は、各種データにも明確に表れています。

BYD生産販売速報によりますと、2024年4月と5月におけるBYDの乗用車生産台数は、それぞれ37.7万台と34.3万台で、前年同月比でそれぞれ13.38%および0.17%の増加にとどまり、いずれも2024年2月以降で最も低い伸び率となっています。これに対し、同社は2023年および2024年第2四半期には一貫して生産を拡大してきましたが、2025年4月から5月にかけての月平均生産台数は、2024年第4四半期と比べて29%減少しています。

こうした数値は、BYDが生産ペースを明確に縮小しており、拡張計画に対しても慎重な姿勢を取っていることを示しています。ロイターの報道によりますと、現在の減産措置は少なくとも4か所の工場に及んでおり、新たな生産ラインの建設も一部で中止されているとのことです。

BYDは2024年に427万台の自動車を販売しており、2025年の販売目標として前年比約30%増となる550万台を掲げています。しかし、2025年1月から5月までの累計販売台数は176万台にとどまり、そのうち輸出台数は全体の約20%にとどまっています。目標達成までには、依然として大きなギャップが存在しています。

高い年間目標を達成するために、BYDは生産を全開にして在庫を積み上げてきました。最近では、BYDの在庫がすでに90万台から100万台に達しているとの噂も市場で流れています。

これに対して、6月6日にシティバンクのJeff Chung氏が発表したレポートでは、BYDの実際の在庫について詳細に言及しています。報告によれば、5月末時点で中国国内におけるBYDの在庫は60万9,000台であり、これは販売台数の約2.12か月分に相当するとされています。

一方で、6月10日に中国汽車流通協会(CADA)が発表した2024年5月のディーラー在庫係数に関する調査結果によると、業界全体の平均在庫は1.38か月分だったのに対し、BYDのディーラー在庫は平均3.21か月分に達しており、すべてのブランドの中で最も高い水準となっています。つまり、仮に新たな生産を停止したとしても、現在の在庫だけで3か月以上にわたって販売を継続できる水準にあるということです。

2025年5月ディーラー在庫係数トップ3

注:1位はBYDの3.21ヵ月分、2位はジャガー・ランドローバーの2.72か月分、3位はChery(奇瑞汽車)の2.1か月分

出典:CADA「2025年5月の自動車ディーラー在庫係数は1.38に」

シティバンクのレポートとCADAの調査結果を総合すると、5月末時点における(CADAベースの)BYDの在庫は、「60万9,000台 ÷ 2.12か月 × 3.21か月」で算出され、約92万2,000台となり、市場での観測と一致する内容になっています。

現在、BYDは中国国内に約4,500店舗の販売店を展開しており、単純計算では1店舗あたり約200台の在庫を抱えていることになります。確かにBYDの販売実績は堅調ですが、生産能力の拡張ペースがあまりに急であったため、流通チャネル全体に大きな圧力がかかっているのが実情です。2024年5月には、中国東部の山東省にある大手BYDディーラーが営業を停止し、その傘下の少なくとも20店舗が閉鎖あるいは放棄されたと報じられています。

このような在庫の積み上がりに対応する形で、全国工商聯汽車流通商会は6月初旬、自動車メーカー各社に対してディーラーへの過度な「押し込み販売(压货)」を避け、実際の販売実績に即した合理的な生産計画を立てるよう呼びかけました。また、同商会は、過熱する価格競争がディーラーの資金繰りに悪影響を及ぼし、自動車業界全体の収益性を損ねていると警鐘を鳴らしています。

こうした生産と販売の乖離を受け、BYDは今後さらなる値下げやコスト削減を迫られる可能性があります。現在進行中の生産調整や拡張計画の延期も、そうした取り組みの一環であるとみられます。今後、同社が世界最大のEVメーカーとしての地位を維持し続けるためには、抜本的な戦略の見直しが避けられない情勢となっています。

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