BYD vs GWM:財務論争から業界不安まで──「自動車業界の恒大」発言が暴いた真実

最近、中国の自動車業界で前例のないトップ同士の「遠隔対決」が繰り広げられました。GWM(長城汽車)の会長である魏建軍氏が「自動車業界の恒大」という発言を公にし、それに対してBYDブランドの広報担当総裁である李雲飛氏が即座に反応しました。「鐘馗が妖怪を捕まえる」「犬が人を噛む」など意味深な画像と言葉をSNSに投稿し、コメント欄も騒然となりました。ネットでは「最近の車メーカーは漫才芸人になったのか?」と皮肉られています。

論争の火種となったのは、魏建軍氏が5月23日のインタビューで放った衝撃的な発言でした。彼は「自動車業界にはすでに『恒大』が存在している。ただし、破たんは時間の問題だ」と語りました。司会者が「なぜ他人の灯を消そうとするのか」と尋ねると、「(不正や隠ぺいなどのような)『鬼火』は必ず消すべきだ」と強く返しました。この発言はBYDを暗に指していると受け取られ、瞬く間に大きな話題となり、関連動画の再生回数は1000万回を超えました。

5月30日、BYDの李雲飛氏がSNSでさらに反論しました。「自動車業界の恒大」という言い方を否定し、フォード、GM、トヨタ、Geelyなどの国内外の自動車メーカーの資産負債率と有利子負債のデータを提示して、BYDの財務リスク論を一つ一つ反論しました。「総合的に見て、中国の主流自動車メーカーの財務状況は海外メーカーより健全で、『自動車業界の恒大』などという話は全く成り立たない」と主張しました。

財務データを武器に──それでも解決しない問題

李雲飛氏は30日の反論文の中で、メディアの論調操作や業界内の批判に対して5つの問いを投げかけました。彼は、BYDの2023年の有利子負債は286億元で、トヨタやフォードなどよりはるかに低いと説明しました。さらに買掛金の割合や回転日数なども示して、財務の健全性を強調しました。

しかし、こうした「データ」による反論は、逆にさらなる疑念を呼びました。たとえば、買掛金の売上比率は低いですが、支払期間は127日と業界平均を約1か月上回っており、結果としてサプライヤーが「無償の融資」となっていると指摘されました。また、BYDの総負債は5800億元を超えており、有利子負債の割合は低いとはいえ、全体としては軽視できる水準ではありません。

さらに「恒大」と指摘されたのは、財務データでは明らかになっていない巨額の「隠れ債務」である点について、説明がありませんでした。

ネット上では、「BYDの負債比率は70%、恒大が崩壊した時は72%だった。数値だけでリスクがないと言い切れるのか?」という声も上がりました。

「商標兄弟」から「正面衝突」へ──過去の友情の崩壊

この論争には、かつてのBYDとGWMの「兄弟関係」も背景にあります。2016年、BYDは登録していた「魏(WEY)」商標を無償でGWMに譲渡した経緯があり、「王朝シリーズ」と「WEYブランド」での友好的な交流もありました。しかし今や、それらはネット上で「昔話」として笑い話にされています。

実は両者の対立には前兆がありました。2023年、GWMはBYDの燃料タンク設計に問題があると実名で告発しました。ただし、現時点ではまだ明確な結論は出ていません。今回、魏建軍氏が改めて問題を持ち出したのは、政府管理当局への圧力を意図しているとみられています。

また、両社は互いに「サイバー水軍」(注)を使って相手を攻撃していることを批判し合っています。

問題を隠しているのは誰か、論点を逸らしているのは誰か

BYDは2024年の記録的な業績をアピールしています。売上は7771億元、純利益は403億元、現金保有は1549億元と発表しましたが、市場は冷静でした。ここ数日で株価は3%以上下落し、投資家の間では財務の健全性に対する疑問が広がっています。

一方、GWMの魏建軍氏の「業界への警告」は、ある意味で自社の苦境から目を逸らす戦略ともとれます。今年1〜4月の販売台数は前年同期比で大幅減の35.6万台でした。主力ブランド「ORA」は販売台数が半減し、「ハーバルH6」の発表会は「不満大会」となりました。こうした状況の中で、「価格競争は今後6~7年続く」という発言は、業績悪化の「言い訳」と見る意見もあります。

BYDは「秦PLUSを5万元値下げ」でこれに応戦しました。「うちはまだ値下げできる、あなたは?」と挑発しているかのようです。

口論の裏には業界全体に広がる不安の影

今回のBYDとGWMの論争は、単なる企業間のいざこざにとどまりません。急速な産業転換とグローバル競争の中で、中国の自動車業界が直面する構造的な不安を浮き彫りにしています。

北京大学の教授は「中国の自動車産業は不動産に代わる経済の柱になり得る」と指摘しましたが、現在の高いレバレッジ、高投資、低収益という状況下で、それが本当に持続可能かどうかは疑問が残ります。

たとえば、長安汽車の会長である朱華栄氏は5月27日に重慶で開かれた株主総会で「魏会長の発言は業界リスクへの注意喚起だ」と述べましたが、株主からは「次に恒大になるのは我が社ではないか?」という不安の声が上がりました。

勝者なきこの論争は、ついに業界の「目隠し布」を引き裂きました。表面的には言葉の応酬、財務データの比較、感情のぶつけ合いが行われています。しかし本質的には、「熾烈な価格競争」と「外部環境の圧力」の中で、中国の自動車メーカーが資金繰りを持続可能に保てるかどうかという根本的な課題を突きつけており、中国自動車メーカーの急速な拡張の裏にある現実を浮き彫りにしています。

消費者は「もっと安くなるか」しか興味がなく、投資家は株価にしか目を向けず、サプライヤーは支払遅延を心配しています。「誰が正しいか」という議論は、もはや意味をなしていません。

注:中国では、BBSやサイトで「あおりやサクラレビュー」などの書き込みは別名「注水(水増し)」と言われているため、同一人物で複数の登録名を使って「注水」をする人は「サイバー水軍」または「ネット水軍」と称されています。

 

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