恒大汽車、広州政府資本が引き継ぎへ 「過剰設備の延命」懸念も

長く債務危機に陥っていた恒大汽車に、転機となる動きがありました。11月21日、複数のメディアによれば、「恒大智能汽車(広東)有限公司」と「恒大新能源汽車(広東)有限公司」の登記情報に大きな変更が行われ、これまでの株主である「恒大新能源汽車投資控股集団有限公司」が離脱し、新たに広州市国有資産監督管理委員会(以下、広州政府資本)傘下の「広州聚力現代産業発展有限公司(以下、広州聚力)」が全額出資の株主として加わりました。
今回の株主変更により、広州政府資本は恒大汽車の広東における子会社2社を正式に引き継ぎ、唯一の株主となりました。両社の登録資本金はそれぞれ25億元と50億元、合わせて75億元に達し、恒大汽車の華南地域における主要事業体を構成しています。
国家企業信用情報公示システム、「企査査」、「天眼査」の各データによれば、「恒大智能汽車(広東)有限公司」は2018年に、「恒大新能源汽車(広東)有限公司」は2019年に設立され、前者はスマートカーの研究開発、後者は新エネルギー車の製造を担い、恒大の華南事業において中核的役割を果たしてきました。
今回の受け皿となる広州聚力は、2024年10月に設立された恒大資産の引き受けを目的とした新会社とみられます。広州産業投資控股集団、広州南沙開発建設集団をはじめとする6つの国有企業が出資し、登録資本金は26.4億元となっています。広州政府資本の一員として、同社は広州市が推進する「現代産業体系」と密接に結びつき、スマートモビリティおよび新エネルギー車産業クラスターの強化を担う位置付けにあります。
こうした国家資本による受け皿化については、単なる個別企業の救済にとどまらず、広州が戦略産業クラスターの構築を進める上での布石であり、主要資産の流出防止やサプライチェーンの安定化、さらには将来的な産業再編を見据えた措置であるとの見方もあります。
しかし、一方で深刻な問題も指摘されています。第一に、納税者の資金で破綻企業の後始末を行えば、他の企業に安易な拡張を助長するおそれがあることです。
第二に、国有資本が新たな株主として入ることで「恒大の影響」を形式上は払拭できるものの、引き継がれた資産は今後、分割・再構成され、広州の自動車産業チェーンに組み込まれる可能性が高い点です。例えばGAC(広汽集団)の委託生産工場に転換されたり、他メーカーに貸し出されたりする可能性があります。しかし、恒大が構築した過剰な生産能力自体が消滅するわけではありません。つまり、恒大汽車という企業は消えても、過剰な設備は形を変えて存続し続けます。国家資本が引き取ることで、本来は淘汰されるべき死んだ設備が再び稼働し、競争が激化する中国の自動車市場にさらなる過剰供給をもたらすという懸念が残ります。