JD（京東）とGAC AION（広汽埃安）、CATL（寧徳時代）が共同開発した初の「国民好車」AION UT Super は、中国ECの大型セール「ダブル11」（11月11日）期間中に、電池レンタル込みで4.99万元という価格で登場し、次の価格競争を引き起こす存在として大きな注目を集めました。ところが、初回納車が始まるとすぐに、本来ならJDの自動車事業にとって節目となるはずだったこのモデルが、急速に予約キャンセルと返金の申し出が相次ぐ事態へと発展し、話題は「コスパ最強モデル」から一転して「出だしでつまずいた新車」へと変わってしまいました。

最初に問題となったのは装備面です。複数の購入者によれば、JDの事前の宣伝画像にはサンルーフが付いており、カスタマーサービスも「サンルーフあり」と回答していたものの、実際の納車時にはその装備が全くなく、オプションとして追加することもできませんでした。さらに、各地の実店舗でも説明が統一されておらず、「サンルーフのあるタイプとないタイプがある」と説明する店員もいれば、「全グレードがサンルーフなし」と言い切る販売員もおり、ユーザーの不信感を一層高める結果となりました。

電池レンタルプランも大きな問題となりました。JDが推す月額399元の「家庭パック」には、実際には「月間3000キロまで」という走行上限がありました。この条件を試乗時にはじめて知ったユーザーも多く、毎日長距離通勤する人にとっては決して余裕のある設定とは言えません。さらに、このプランには電池管理費やバッテリー保証サービスの年額費用もかかるため、「4.99万元で買える」という見た目のハードルと裏腹に、実際の負担は軽くありませんでした。

ユーザーを驚かせたもう一つの点が「領収書」です。本来であれば納車地の販売店が領収書を発行し、ユーザーは居住地の補助金を申請できます。しかし UT Super の領収書は「広州または上海のみ」とされており、その他の地域のユーザーは地元補助金を受けられません。その結果、「JDが用意した補助よりも地元の補助のほうが有利だったのに、申請すらできない」という状況が生まれました。

こうした不満が重なり、早期に定金を支払い「初回キャンペーン」を狙っていたユーザーの多くが、納車会場でそのままキャンセルを申し出る事態となりました。しかしJD側の対応はスムーズではなく、初期の購入ページには「注文確定後は返金不可」と明記されていたため、返金申請が何度も却下されるケースが相次ぎました。中には1週間以上もやり取りを続け、ようやく返金にこぎつけたユーザーもおり、「サンルーフよりも早く信頼が消えた」といった声まで上がる始末でした。

世論が高まる中、JD・GAC AION・CATLの三社は12月1日にライブ配信形式の「ユーザー懇談会」を開き、それぞれの問題点について説明しました。

サンルーフについては、三社が「内容チェックのミス」であると認め、宣伝画像は旧型UTのものであり、発売後3日で問題を把握してすべて修正したと説明しました。月間3000キロ制限については、「家庭ユーザーの9割の利用実態に基づく設定で、必要な分だけ支払ってもらうため」としたうえで、長距離走行者向けに「50元で1000キロ追加できるプラン」を新たに導入すると発表しました。領収書については、対応可能地域を拡大するため調整を進めており、広州の補助金は来年1月末まで延長されるとし、登録や保険には影響しないと説明しました。

大きな注目を集めた返金規定についても見直しが行われました。三社は、11月9日〜23日に定金を支払ったユーザーについては、最終的なカスタマイズを完了していなければ全額返金するとし、24日以降に即時カスタマイズを選んだユーザーについても、確定後48時間以内であれば返金可能とする新ルールを示しました。問題となっていた「確定後は返金不可」という方針は、事実上大幅に緩和された形です。

一部のユーザーには依然として不満は残るものの、UT Super の納車は続いており、GAC AIONによれば初週の納車台数はすでに1000台を超えたといいます。

今回の「国民好車」をめぐる騒動は、価格設定、宣伝内容の正確さ、ユーザー体験の三つのバランスが崩れた結果だと言えます。4.99万元という強烈な価格訴求は注目を集めますが、情報更新の遅れ、販売前の説明不足、柔軟性のない返金制度が重なれば、どれほど魅力的な価格であっても失われた信頼を取り戻すことはできません。安さは魅力ですが、透明性はそれ以上に重要です。ユーザーが「買う価値がある」と感じるかどうかは、価格だけでなく、「そのブランドを信頼できるかどうか」に左右されるのだと思います。