HiPhi(高合汽車)が「復活」?レバノン資本が出資、外資主導の新会社が設立

5月22日、中国江蘇省塩城市 ― かつて破産再建の危機に陥った中国の新興EVメーカー「HiPhi(高合汽車)」が、復活に向けた重要な転換点を迎えました。企業登記情報によると、「江蘇高合汽車有限公司」が5月22日付で正式に設立され、登録資本金は約1億4,300万米ドルとなりました。登記住所は江蘇省塩城市経済技術開発区東環路69号で、旧HiPhiと同一の所在地となっています。

レバノンEVスタートアップが筆頭株主に、新法人が誕生

新会社の筆頭株主は、レバノンの電気自動車スタートアップ「EV Electra Ltd.」であり、出資比率は69.8%に達しました。一方、旧HiPhiの親会社「Human Horizons(華人運通(江蘇)技術有限公司)」は、30.2%の株式を保有しています。注目すべき点は、法定代表人がHiPhi創業者の丁磊氏から、EV Electraの創業者兼CEOであるジハド・モハメド(Jihad Mohammad)氏に変更されたことであり、事実上の経営権が移転したことを示しています。

EV Electraはレバノンに本社を置くEVメーカーで、アラブ世界初の国産EVメーカーとしても知られています。同社の公式サイトでは現在、HiPhiの主力3車種「HiPhi X」「HiPhi Y」「HiPhi Z」がトップページに大きく掲載されており、HiPhiブランドに対する関心の高さがうかがえます。EV Electraは、カナダ、イタリア、ドイツ、トルコ、スウェーデンなど複数の地域で事業を展開しており、グローバル戦略を加速させています。

Human Horizonsの経営難、中東資本が「バトン」を引き継ぐ

HiPhiの「復活」は突如として起きたものではなく、その背後には約1年にわたるHuman Horizonsの再建努力がありました。

2023年8月、Human Horizonsは資産負債比率の大幅な悪化(帳簿上の資産59.83億元に対し、負債は157.81億元)を受けて、破産予備再建を裁判所に申請しました。裁判所の資料によると、関連する52社からの債権申請総額は228億元に達しています。2024年4月には、裁判所がHuman Horizonsとその関連51社の合併再建を認め、中国の新エネルギー車メーカーとして初めて司法手続きを通じた「自己救済」が試みられることとなりました。

一方で、中東資本による関心は以前から示されていました。2023年6月には、中国・アラブ協力フォーラムにおいて、Human Horizonsがサウジアラビア投資省と約210億サウジリヤル(約人民元400億元)規模のEV合弁企業設立に関する協定を締結しました。さらに同年11月には、サウジの政府系ファンドであるPIF(公共投資基金)が、少なくとも2.5億ドルの出資意向を示し、30億ドルの企業評価で株式取得を検討していると報じられました。ただし、これらの協力は現時点では実現に至っていません。

そうした中、EV Electraが一歩先んじて出資を決定し、HiPhi復活の原動力となりました。海外メディアによれば、EV Electraは「EV界のマイバッハ」とも称される中国EVブランドを買収し、今後はイタリアにも進出して地元の有力工場を取得し、欧州における生産体制の強化を目指しています。

新会社設立、アフターサービスも段階的に回復へ

HiPhiは再建期間中も完全に停止していたわけではありません。2024年8月からは、江蘇悦達汽車グループ傘下の「上海悦達智行汽車服務有限公司」がHiPhi車両のアフターパーツ調達業務を担い、既存ユーザーへのサービス提供を継続してきました。同時に、経営危機により未納車分のユーザーへの返金対応や、一部社員の呼び戻しも進められています。ただし、給与は一部調整される見通しです。

塩城市にあるHiPhiの主力工場では再稼働に向けた準備も進んでおり、総投資額1,796万元の工場改修プロジェクトが2025年10月の完成を目指しています。年産15万台体制は維持され、「X」「Y」「Z」の3車種が生産される予定です。

死んでも死ねない――不可解な「再生劇」の舞台裏

HiPhiの復活は、単なる延命措置ではなく、中東市場との戦略的な親和性を背景にした再構築の動きです。HiPhiはもともと高級志向のEVを打ち出しており、特徴的な外観デザインや先進的なインテリアが中東の富裕層向け市場と合致していること、そして投資コストに対するブランド価値の高さが、EV Electraを惹きつけた理由と考えられます。

また、グローバルな視点から見ると、欧米市場が中国製EVに対する規制を強める中で、中東や東欧、南米などの「第三市場」が中国EVメーカーにとって新たな成長領域として注目されています。HiPhiは今回の提携を通じて、「中東合弁」ブランドとしてこれらの市場に再挑戦する可能性を秘めています。

こうした「復活」はHiPhiに限られるものではなく、Weltmeister(威馬)やZhido(知豆)、Letin(雷丁)、Aiways(愛馳)など他の新興EVメーカーも、それぞれ資本再編や外部支援を受けて市場への再参入を図っています。

ただし、「復活」と「再生」は同義ではありません。HiPhiを含むこれらのEVメーカーには、再び信頼を得るための製品力の強化、市場競争への適応、そしてサプライチェーンの再構築といった課題が残されています。中国のEV市場では、BYDやテスラなど大手メーカーによる寡占化が進んでおり、今後の競争はさらに激しさを増すと見られています。

今後、HiPhiが真に再生できるかどうかは、EV Electraとの連携体制が実を結ぶか、次世代製品が市場に受け入れられるか、そして経営陣が多様なリソースを効果的に統合できるかにかかっています。今回の「復活」が一時的な現象で終わるのか、それとも再び業界の舞台に立つための転機となるのかは、これからの市場の反応によって決まります。

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