中国の高級EVが直面する苦境──国内で売れぬIM Motor、MGにリブランドして欧州で「奇跡」に賭ける

イギリスのメディア「Autocar」は6月24日、SAIC(上汽)傘下のMGブランドが、7月10日に開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」において、新しい電動SUVを発表する予定であると報じました。MGが公開したティザー画像や車体のシルエットから判断すると、この新型SUVはIM Motor(智己汽車)のLS6(海外名:IM6)であると見られております。つまり、IM Motorは100年以上の歴史を持つイギリス発祥の老舗ブランドMGの名前を用い、ロゴを差し替える形で、MGの「本拠地」ともいえるイギリス市場への参入を目指しているということになります。
実際、今年1月にはSAICがオーストラリア市場に右ハンドル仕様のIM Motorの車両をMGブランドで投入することを正式に発表しており、英連邦諸国への展開に向けた布石を打っておりました。SAICは以前より、MGが築いてきた国際的な販売網と顧客基盤を活用し、IM Motorブランドの海外展開を推進していく方針を明確にしております。
LS6だけでなく、IM MotorはLS7、L6、L7といった主力の4車種すべてをMGブランドにリブランドし、欧州、オーストラリア、南米など複数の海外市場に展開する計画です。この戦略はすでに2024年初頭に策定されており、同年のジュネーブ・モーターショーでは「IM+MG」のダブルネームで初の海外展示も行われました。現在、MGは世界100以上の国と地域で2,000カ所を超える販売拠点を持っており、IM Motorは新たな販売網を構築するための多大なコストを抑えることが可能となっております。
SAICがIM Motorを海外展開の主軸に据える背景には、二つの理由があります。一つは、MGブランドが近年、従来の「コストパフォーマンス重視」から脱却し、高級EV市場へとシフトしている点です。すでにCyberster(サイバースター)電動スポーツカーやCyber Xコンセプトカー、新型S5 EVなど、最新技術を投入したモデルが次々と登場しており、IM MotorのLS6はMGの高級化戦略を補完する存在として適しています。
もう一つの理由は、IM Motorブランドが中国国内市場で期待通りの成果を上げられていないという現実です。製品性能に優れていても、LS6をはじめとするIM Motorの車両は例外なく「新車は発売から3カ月がピーク」という「魔の減衰パターン」に陥っております。
IM Motor LS6は、高性能と先進技術を両立させた中型クロスオーバーSUVで、2023年10月12日に発売されました。発売直後の11月と12月には販売が好調で、一時はIM Motorブランド再起の兆しとも言われましたが、その勢いは長く続きませんでした。12月の販売台数9,878台から翌1月には4,612台とほぼ半減し、今年5月にはわずか483台と、ピーク時から90%以上の落ち込みとなっております。この「出だし好調、すぐに失速」という減衰パターンはLS7やL7でも繰り返されており、インターネット上では「IM Motorの3カ月ルール」と揶揄されている状況です。
一部では、前衛的なデザインによる「ニッチな美的感覚」や、ブランド認知度の低さが販売不振の主因であると指摘されております。
つまり、IM Motorが海外展開を急ぐ最大の理由は、「国内で売れないから」という点に尽きると言えます。これまでにも、NETA(哪吒)、AIWAYS(愛馳)などのブランドが、国内市場で苦戦し、海外への活路を模索したケースがありました。SAICの経営陣も、「国内で知名度が足りず売れないのであれば、MGという『顔』を使って海外市場に挑むしかない」と判断したのでしょう。欧米の消費者にとっては、MGブランドのほうが馴染みがあり、IM Motorの製品力も受け入れられやすい可能性があります。
もっとも、後発ブランドが海外市場で成功を収めるのは決して容易なことではありません。NIO(蔚来)やXpeng(小鵬)などの中国高級EVブランドも、2020年前後からいち早く海外進出を進めてきましたが、2023年時点でも欧州市場での販売台数は振るわない状況が続いております。たとえば、2023年のNIOの欧州販売台数は2,370台、Xpengは2,074台にとどまっております。フォルクスワーゲン(VW)グループのオリバー・ブルーメCEOも「欧州の高級EV市場はすでに飽和状態にあり、今後の需要見通しは下方修正されている」とコメントしています。
また、中国乗用車市場情報連席会(乗連会)の崔東樹幹事長も「海外の消費者も非常に現実的であり、高価格な電気自動車に対しては慎重な姿勢を示している」と指摘しております。
IM Motorが「中国では売れないが、欧米では売れる」という「奇跡」を起こすことができるのか──その行方に注目が集まっております。
IM Mortor LS6(海外名:IM6)
写真:IM Motor