SAIC、ファーウェイと60億元を投じ「尚界」を始動:失地回復を賭けた背水の協業

4月16日、HarmonyOS智行の発表会の最後に、ファーウェイは新たな第5のブランド「尚界」を正式に発表。かねてから噂されていたSAICとファーウェイの提携が、ついに実を結びました。

SAIC総裁の賈健旭氏は発表会で、「実は昨年から(ファーウェイとの)『恋愛関係』が始まっていた」と明かしました。この「関係」が1年間続き、ようやく正式な形となったのです。

報道によると、SAICは「尚界」の立ち上げのために、すでに60億元を投じ、5000人規模のチームを結成し、上海に専用の工場を建設中です。

SAICがここまで背水の陣を敷く理由

2024年、SAICは6年連続で販売台数が減少し、通年の販売は401.3万台と、近年最低の水準にまで落ち込みました。純利益も厳しく、親会社に帰属する純利益は15〜19億元と、前年同期比で87〜90%の大幅減少。非経常項目を除いた純利益では、なんと41〜60億元の赤字にまで転落しました。これは近年最悪の成績です。

かつて年700万台以上を販売し、「中国自動車業界の王者」とまで言われたSAICにとって、これはまさに衝撃的な現実です。2018年、中国の自動車市場が初めて総需要の減少に直面した際も、SAICは最高記録を打ち立てました。しかし今や、電動化の加速、新興メーカーの台頭、内燃機関車需要の減少により、かつての王者の優位性は失われつつあります。

実はSAICは2014年に「CASE」戦略を打ち出し、アリババやバイドゥと組んでスマート化の布石を打ってきました。しかし、蔚小理(NIO、Xpeng、Li Auto)をはじめとする新興メーカーは急成長し、BYDは急速に存在感を増し、ファーウェイの「問界」ブランドは快進撃を続け、シャオミも強力に参戦する一方で、SAICの電動化ブランド「智己(IM Motor)」や「飛凡(Feifan)」はいまだに隙間市場で苦戦を強いられています。

2024年には陳虹氏が董事長を退任し、王暁秋氏と賈健旭氏にバトンを渡しました。この新たな経営コンビには、「ファーウェイとの提携」で初陣を飾ることが急務です。

敵がパートナーに、かつての「魂の論理」は過去のものに

2021年に話を戻すと、当時の董事長である陳虹氏が提起した「魂の論理」により、SAICとファーウェイの関係は一時決裂しました。彼は「ファーウェイにソリューションを全面的に委ねれば、自社の『魂』を失う」と強く主張。この発言は業界で広く語られる伝説となりました。

当時、ファーウェイと提携する自動車メーカーは「魂を売った」と揶揄されました。しかし現実は、ファーウェイが「弱小メーカー」を「成功企業」へと成長させる力を持っていることを証明しました。

2021年、ファーウェイは弱小メーカーの小康股份と提携し「SERES SF5」を発表。わずか数年で、SERESの時価総額は2200億元にまで急騰し、問界シリーズは販売記録を次々と更新。2024年には売上高1451.8億元、純利益59.5億元、粗利率26.2%と、業界平均を大きく上回りました。

この成功により、ファーウェイは自動車メーカーの「最注目パートナー」となり、Chery(奇瑞)、BAIC(北汽)、JAC(江淮汽車)などが次々と「HarmonyOS智行」陣営に加わり、「智界」「享界」「尊界」が続々と登場。

そして「尚界」は、5番目の「界」になりました。SAICがついに過去のこだわりを捨て、ファーウェイと手を組んだのです。

2025年2月21日、SAICとファーウェイは上海で深度協業契約を締結。製品企画、製造、サプライチェーン、販売・サービスなどの主要領域をカバーする「智選」方式での協力を正式にスタートしました。「尚界」の第1弾モデルは2024年第4四半期に発表予定で、価格帯は17〜25万元、ターゲットは若年層です。

ファーウェイの悩み:ブランド内競合とリソースの限界

ファーウェイの「HarmonyOS智行」は勢いに乗る一方で、パートナー企業の増加に伴い「兄弟喧嘩」も増えています。問界と智界の価格帯が重なり、内部競合の様相を呈しています。

たとえば「智界R7」と「問界M7」はどちらも24〜34万元、「智界S7」と「問界M5」も同価格帯で競合しています。これによりリソースが分散し、販売にも影響が出始めています。R7の納車以降、M7の販売は下落し続け、2025年1月には1万台を下回る水準に。

このため「HarmonyOS智行」には新たな突破口が必要であり、資源が豊富で安定した基盤を持つSAICとの提携は、「足元を固める」ための重要な鍵となりそうです。

SAICとファーウェイ:互いを支える運命共同体

今のSAICとファーウェイは、もはや「魂を奪い合う関係」ではなく、運命を共にするパートナーです。

ファーウェイは成熟した製造基盤と安定した大手の支援を必要としており、SAICはファーウェイの技術力とブランド力を活用して再起を図りたい。両者は互いにとって欠かせない存在となり、「尚界」はその象徴です。

「尚界」は単なる新ブランドではなく、SAICが伝統からの再起を目指す「すべてを懸けた希望」であり、ファーウェイにとっても「智選」方式の大規模展開を実現するためのキーストーンとなるかもしれません。

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