シャオミの電気自動車SU7やYU7の発売以降、さまざまな消費トラブルが相次いで発生しています。たとえば、多くの消費者がYU7の初日予約時にシステムエラーに遭遇し、画面には「初回オーナーは8月から納車予定」と表示されていたにもかかわらず、正式にロックした後の実際の納車時期が30〜50週間にも及ぶことが判明しました。「年内に納車できると言われ、急いでロックしたのに、いまだに車の影すら見えない」と話すユーザーもいます。また、廃車補助金の申請期限に間に合わなくなったケースや、手付金を諦めて他ブランドに乗り換える消費者も現れており、別ブランドがシャオミの手付金損失を補填すると申し出た例もあります。一方、SU7 Ultra「穴開き版」をめぐる表示トラブルも続いており、2万元の手付金を支払ったユーザーがYU7へ切り替えた際、シャオミ側がそのうち1.5万元を自動的に車両代金に充当したことに対する不満も高まっています。

しかし、こうした消費トラブルが一度司法手続きに入ると、全国どこで発生した案件であっても、実質審理に進む段階でシャオミが必ずと言ってよいほど「管轄権異議」を申し立てるという共通した傾向が見られます。この主張は、シャオミが消費者の訴訟に対応する際の中核的な戦略となっており、全国で繰り返し用いられています。

メディア取材によると、一部の消費者は「多くの裁判所が立件したのに、審理に入るとシャオミが管轄権異議を出し、裁判所が異議を退けても、その後の手続きが進まなくなる」と語っています。SU7 Ultra「穴開き版」をめぐる訴訟に関わる別の消費者も、「立件されていても、審理段階で必ず管轄権異議が出て、結局前に進まない」と同様の声を上げています。

管轄権異議が提出されると、裁判は予定どおり開廷できず、まず裁判所が異議の判断を下す必要があります。仮に異議が退けられても、シャオミ側には再度不服を申し立てる権利があり、訴訟期間はさらに延びます。このため多くの案件が停滞し、本来は契約関係の実体審理によって解決されるべき争いが、長期にわたる手続き上の攻防へと姿を変えてしまっています。

シャオミがこうした異議を頻繁に提出できる背景には、同社が意図的に構築した多層的で分断された組織構造があります。シャオミの自動車事業は単一の法人が担うのではなく、複数の機能会社に細かく分割されています。研究開発はシャオミ自動車有限公司およびシャオミ自動車科技有限公司が担当し、販売・契約締結・手付金受領は「シャオミ景明科技有限公司」および全国各地の子会社が担い、製造関連の資産や工場はさらに別の関連会社が保有しています。車両が「生産—販売—引き渡し」の各段階を進むたびに関与する主体が切り替わるため、消費者が訴訟を提起する際、「誰が契約当事者で、誰に責任を問うべきか」が非常に分かりにくい構造になっています。

この多重構造を前提に、シャオミは訴訟の場で異なる管轄権論理を切り替えることが可能になっています。消費者が北京の法人を訴えると、「実際の契約関係は地方の引き渡し会社にあり、地方法院が管轄すべきだ」と主張し、逆に地方法人を訴えると「主要な権利義務は北京本社が負っているため、北京の裁判所が管轄だ」と論点を変えます。このように主張の方向を自在に切り替えることで、消費者は「誰を訴えても正解にたどりつけない」状況に陥り、多くの訴訟が実体審理に入れないまま停滞する事態が続いています。

もともと管轄権異議制度は、地方的な保護の排除や手続的公正の確保を目的とするものです。しかし、複雑な組織構造と頻繁な異議申立てが組み合わさると、司法手続きにおいて事実上の「迷路」のような状況を生み出し、訴訟の長期化と原告側負担の増大という結果をもたらします。

シャオミにとって、これは確かに「巧妙な戦術」と言えるのかもしれません。あらゆる手段を駆使して原告側に負担を課し、訴訟コストを引き上げることは企業法務としては珍しくなく、時間とリソースを十分に持つ企業側は、訴訟を消耗戦に持ち込むことができます。一方で、個人がこれに対抗するのは難しく、数回の異議応酬で心身ともに疲弊し、最終的に放棄や和解を選ばざるを得ないケースも少なくありません。

しかし、戦術としては「勝ち」があっても、戦略としては明らかな「敗北」に近いとも指摘されています。受注が殺到する状況の中で、シャオミ社内には顧客を軽視する風潮が生まれ、ブランドの信頼価値やユーザー感情への配慮が薄れているとの見方もあります。社会的影響力の大きい企業にとって、信頼は事業の基盤であり、短期的な訴訟戦術の成功によってその基盤が揺らぐのであれば、長期的には大きな代償を伴う可能性があります。