シャオミYU7、初日で24万台超の予約爆発──マーケティングの奇跡とその背後にある現実的な懸念

6月26日午後10時、シャオミ(Xiaomi)は中大型電動SUV「YU7」の予約販売を正式に開始しました。開始3分で申込台数が20万台を突破し、1時間で29万台に迫る勢いで、発注確定率は60%以上に達しています。これは、SU7に続くシャオミの「第2の爆売れモデル」となりました。

「仕組まれた奇跡」──目を見張る販売データの急伸

シャオミの公式発表および複数のメディアによると、6月27日正午の時点で、YU7の正式発注台数は24万台を超えました。転売目的の予約も一部含まれているものの、それでも中国の自動車市場においては前例のない「爆売れ」現象となっています。

「感性価値」を軸にした製品戦略

シャオミYU7のサイズは、全長4,999mm、全幅1,996mm、全高1,600mm、ホイールベースは3メートルです。価格はスタンダード版が25万3,500元、PRO版が27万9,900元、Max版が32万9,900元となっています。

YU7が短期間で爆発的な人気を集めた背景には、単なるコストパフォーマンスだけでなく、「感性に訴える価値」が大きく関わっています。実際、同価格帯の競合車種と比べると、装備面で特に優れているわけではなく、一部の自動車系インフルエンサーからは「20万~30万元クラスでコスパが最も低いSUV」とも指摘されています。

それでもYU7は、「ラグジュアリー感」や「細部へのこだわり」、「ブランドへの信頼感」を巧みに融合させることで、以下のような付加価値を提供しています。

    • デザイン:フェラーリの「Purosangue(プーロサングエ)」をほぼ模したシルエットで、本物のフェラーリを知らない中国ユーザーに「偽物感」ではなく「高級車」としての印象を与えています。
    • 内装:家電製品のような快適装備やゼログラビティシート、天井一体型スクリーンなどを採用し、若い世代に未来的な体験を提供しています。
    • ターゲット層:35歳以下の若年層にフォーカスし、デザインやテクノロジー、ブランド感度の高いユーザーを狙っています。
    • シャオミエコシステム:スマホや家電で築いたブランド忠誠心の強い「米粉(シャオミファン)」を自然に囲い込んでいます。

このように「ユーザー体験を重視する」製品哲学は、従来の「性能や仕様重視」の自動車づくりとは一線を画すアプローチとして注目されています。

マーケティング戦略:飢餓感から「演出型ブーム」へ

YU7発売初日には、オンラインのみならずオフラインでも周到に設計されたプロモーション活動が展開されました。

    • 店舗の総動員:複数の販売店でスタッフが「早く予約すれば早く納車できる!」と声を上げ、現場の熱気を演出。
    • 電話攻勢:複数の端末を使って音声通話やメッセージによる予約促進を実施。
    • 希少性の演出:「準現車が少ない。今逃すと数カ月待ちます」との訴求で即決を促進。
    • 乗り換え誘導:SU7 Ultraの予約者は期間限定でYU7へ切替可能とし、需要をさらに掘り起こしました。

しかし、このような「飢餓マーケティング」には批判の声もあります。「自動車は高額な買い物であり、衝動的な判断は避けるべき」とする慎重派ユーザーの意見や、試乗機会の乏しさ、キャンセル時のトラブルなど、過去のSU7販売で見られた課題が再燃するのではないかとの懸念も出ています。

生産体制と納期対応──現実的なボトルネック

YU7の急激な受注増は、シャオミの生産体制にとって大きな試練となっています。現在、YU7の初期生産は第一工場で行われており、同工場は既にSU7の月間2.8万台の生産でフル稼働中です。第二工場は完成済みですが、本格稼働は7月以降と見られており、安定した供給体制の確立にはなお時間がかかる見通しです。

SU7では最大で「納車まで32〜40週」かかるケースも報告されており、YU7も同様あるいはそれ以上の納期となる可能性があります。一部ユーザーが納車の遅さに失望してキャンセルや他社車両への乗り換えを選ぶ可能性も否定できません。

市場への影響──ライバルの動きと共食いのリスク

中国汽車工業協会(CAAM)の統計によれば、2024年の20万〜30万元のNEV(新エネルギー車)販売台数は約136万台で、NEV全体の約24%を占めます。今回のYU7の予約台数が約30万台に迫ることから、この価格帯市場のおよそ5分の1を1車種が占めることになります。

この影響を受け、テスラやZEEKR(極氪)、AITO(問界)などの競合他社が、価格引き下げや新型投入などの「迎撃策」に打って出る可能性があります。

また今回の予約状況では、SU7 Ultraを予約していたユーザーの一部がYU7に切り替える動きも見られます。乗り換えた人数は推計12万人以上とされ、これがSU7の販売を圧迫するだけでなく、両モデル間の「共食い」を引き起こすリスクも指摘されています。この点は、シャオミの製品戦略上、ある種のジレンマとも言える状況です。

爆売れはスタートライン、本当の勝負は「期待への応答」

YU7の驚異的な受注は、シャオミがユーザー心理、ブランド運営、販売チャネルにおいて優れた戦略眼を持っていることを証明しました。しかし、この熱狂を真の顧客体験に転換し、ブランド価値として定着させるには、今後の生産体制、納車対応、アフターサービスを含めた全方位で「本物の自動車メーカー」としての実力が問われることになります。

熱烈な支持を得たシャオミに、次に求められるのは「その期待に、誠実に応える力」です。

シャオミYU7

写真:シャオミ

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