中国自動車メーカー、香港に集結 「迂回型グローバル進出」の拠点に

6月12日、香港アジアワールドエキスポにおいて、過去最大規模の自動車イベント「2025香港国際自動車およびサプライチェーン博覧会」が開催されました。この展示会には、BYD、Geely(吉利)、Changan(長安)、Xpeng(小鵬)、SAIC(上汽)など中国の主要完成車メーカー11社に加え、CATL(寧徳時代)、Horizon Robotics(地平線)など、40社以上のサプライヤー企業が出展しました。
このモーターショーは明確なトレンドを示しています——中国の自動車産業は、香港という国際都市を足がかりとして、グローバル市場の開拓を進めようとしているのです。
中国自動車メーカーが香港に集まる背景には、グローバル化が行き詰まる中で突破口を探るという切実な現実があります。
1. 香港は「グローバル進出の実験場」
香港の自動車市場は年間販売台数約4万台と小規模ですが、国際都市としての自由貿易体制、右ハンドル仕様、金融インフラの整備などの利点を備え、自動車メーカーにとってはグローバル戦略を試す“縮図市場”となっています。
右ハンドル市場の試験場:東南アジア、オーストラリア、英国などは右ハンドル市場であり、香港で右ハンドル車を少量投入することで、市場適応性をテストし、失敗リスクを最小限に抑えることができます。BYD、Leapmotor(零跑)、Xpengなどはすでに右ハンドルモデルを展開しており、東南アジア市場への布石と見られます。
政策・世論の受容性が高い:他の先進国に比べて、香港は中国企業に対して比較的オープンであり、税制優遇やEV購入補助金といった支援も充実しており、欧米市場よりも協力度が高いのが特徴です。
「国際都市初登場」の看板効果:欧米では認証プロセスに数年かかるのに対し、香港では審査や販促活動のスピードが速く、市場投入も早期に可能です。「国際都市で初公開」というブランディング効果も狙えます。
2. 金融機能の強さ:資金調達・ストーリー構築・上場がしやすい
香港は市場テストだけでなく、資本戦略のプラットフォームとしても機能しており、キャッシュを大量に消費しながら成長を図る現在の中国EVメーカーにとっては、極めて重要な拠点です。
香港証券取引所は「資本の避難港」:欧米では中国自動車メーカーへの制裁や規制が強まっている一方、香港の資本市場は依然として開かれており、10社以上が香港での上場済みまたは申請中です。例えば、奇瑞汽車は15億ドルの調達を計画しており、小鵬や賽力斯(SERES)も上場を準備中です。
「グローバル・ハイテク・スマートEV」という物語が評価されやすい:A株市場は規制が厳しく、米国市場では信頼問題がつきまといますが、香港市場はこれらのストーリーに対して高い評価を与えやすく、より高いバリュエーションでの資金調達が可能です。
3. 国際的な露出の舞台:ブランドの「顔」をつくる場
多くの中国自動車ブランドは欧米での知名度がまだ低いため、香港は比較的参入しやすく、かつメディア露出効果の高い「見せ場」として活用されています。
メディア密集地としての利点:モーターショー、ビクトリア・ハーバーのライトショー、俳優(ルイス・クーや向佐)とのコラボなどにより、香港での露出が他国メディアやSNSを通じて波及しやすくなっています。
「イメージ戦略」で国際的信頼感を構築:BYDがトヨタのシェアを超えた事例や、XpengによるAR-HUD技術の披露など、中国ブランドの実力を「見せる」ことで、海外での信頼を築く手法がとられています。
4. 欧米規制回避のための「迂回進出拠点」
欧州の炭素関税や米国による反補助金調査などの障壁が高まるなか、中国自動車メーカーが直接輸出するのはますます難しくなっており、香港はその「中継地」としての役割を担っています。
物流・港湾ハブとしての機能:香港を経由することで、東南アジア、南アジア、中東、アフリカなどへの再分配が可能になり、政治的リスクや関税障壁の回避に寄与します。
「中立的出自」の演出:香港に子会社を設立したり、「香港製造・組立」といった名義を使うことで、「中国製」というイメージを曖昧にし、敏感な市場への参入障壁を下げることができます。
5. 国内競争過熱と外需鈍化の中、「グローバル戦略」で評価と自信の回復を図る
国内市場は過剰競争に陥り、EVブームの恩恵もピークアウトしつつあります。自動車メーカーは「グローバル展開能力」を示すことで、投資家の信頼を維持し、ブランド価値を高めようとしています。
投資家に「海外展開の可能性」を示す:香港市場自体は小規模ですが、「海外進出の象徴」として強い意義を持ちます。香港モーターショーへの参加、港湾会社の設立、右ハンドル車の投入などの取り組みは、IR資料や目論見書において物語性を持たせる要素となります。
市場反応のテストベッド:BYDの新モデル、ZEEKR 009、Xpeng G6などは、香港での反応を見てから、日本・韓国・欧州市場への展開を図るなど、段階的に進出が行われています。
まとめ
中国メーカーは、香港市場そのものに魅了されているのではなく、それを「国際化の跳躍台」「金融戦略のツール」「ブランドのショーケース」、そして「欧米市場への抜け道」として戦略的に利用しているのです。
香港の地理的優位性、政策の柔軟性、制度的枠組みは、「リスクを抑えて海外進出を試したい」という現在の中国自動車メーカーのニーズに極めて適合しています。
これはまさに「中国式グローバル進出」の典型——中西文化が交差する特異な国や地域を利用し、まずは局地的実績を収め、それを足がかりに世界市場での突破を図るというアプローチです。