10月24日、中国西安市曲江の街中で走行していたポルシェの高級EV「Taycan（タイカン）」が突然炎上し、わずか数分で車体全体が火に包まれ、残ったのはねじ曲がった金属の骨格だけでした。消防が駆けつけて消火にあたりましたが、幸いにもけが人はいませんでした。火災の原因は現在調査中です。

ちょうど先日、Li Autoの純電動ミニバン「MEGA」が走行中に発火したばかりであり、再び「走行中のEV火災」が注目を集めました。しかも今回は、国産高級EVではなく、800万元級の高級輸入電動スポーツカーが炎上したという点で、衝撃はいっそう大きいものでした。

ネット上で拡散した動画には、Taycanの流線型のボディが火に包まれ、黒煙が空高く立ち上る様子が映っていました。テクノロジーとラグジュアリーの象徴が炎に呑み込まれる光景は、人々に新たな問いを突きつけました——「国産車だけでなく、輸入車も同じように危険なのか。これがEVの宿命なのか？」

西安市街で炎上したポルシェ「Taycan」

写真：インタネット

報道によると、この車は衝突などの外的要因はなく、走行中に自然発火したということです。Taycanオーナーの友人は「突然火が出たが、けが人はいない」と語りました。その淡々とした言葉の裏には、偶然の幸運があったことは否めません。もし車内に高齢者や子どもが乗っていたら、結果は違っていたかもしれません。

この火災で思い起こされるのが、2023年にポルシェが「バッテリーの密封不良」を理由に一部の輸入Taycanをリコールした件です。原因は「バッテリーパックのシール栓が規格外で、水分が侵入し短絡のリスクが高まる」というものでした。今回の西安の車両がそのリコール対象に含まれていたかは不明ですが、偶然とは思えず、製造ロット上の欠陥を疑う声も出ています。

注目すべきは、ここ数年で同様の火災が後を絶たないことです。統計によれば、中国国内の新エネルギー車（NEV）はガソリン車に比べて火災発生率が高く、いったん火が出ると燃焼速度は3倍、消火も極めて難しいとされています。専門家によると、現在のところEVバッテリーの発火を完全に消し止める方法は存在しないといいます。現行の消火手段では炎そのものを消すことはできても、電池内部の化学反応を止めることはできず、結果として「焼け落ちて骨組みだけ残る」ケースが頻発しています。

清華大学の張揚軍教授（自動車工学）はこう指摘します。「バッテリーパックはまるでエネルギー爆弾のようなものだ。熱暴走が起こるまでの0.1秒の反応が、生死を分ける」。西安のこの事故でも、ポルシェが誇る「8層のバッテリー保護構造」は悲劇を防げませんでした。

事故発生後、ポルシェのコメントはお決まりのものでした。「当該事案は把握しており、消防当局と協力して調査中。詳細な原因は専門鑑定を待つ必要がある」。一見丁寧な説明のようでいて、その裏には定型的な危機管理対応——先延ばし、曖昧化、そして沈黙——が見え隠れします。

もし今回の火災がリコール対象の不具合と関係しているなら、なぜ該当車両が依然として路上を走っていたのか。無関係であるなら、その旨を早急に説明し、消費者の不安を解消すべきではないでしょうか。しかし現実には、これらの疑問は「調査中」という一言でかき消されてしまいます。技術情報やデータがメーカーの手中にある限り、消費者の「知る権利」はほとんど形骸化しているのが現状です。

業界関係者によると、電動車事故の調査で最も厄介なのは「データのブラックボックス化」です。バッテリー、モーター、電子制御が高度に統合されており、微細なチップやセンサーの不具合でも連鎖的に火災を引き起こす可能性があります。しかし、走行データや温度変化、充放電の履歴といった核心的な情報はすべてメーカーが握っており、「プライバシー保護」を理由に非公開とするケースが多いのです。その結果、事故原因は往々にして企業側の一方的な説明に頼らざるを得ません。

長年、ポルシェは「ドイツ精密工学」や「最高級品質」といったブランドイメージを築き上げてきました。多くの顧客が「高額＝高い安全性」と信じ、その信頼を「安全プレミアム」として支払ってきました。しかし、電気自動車という新たな製品カテゴリーでは、その前提が成立しない可能性があります。

2022年以降、ポルシェは「シートベルトのプリテンショナー不具合」「バッテリー密封問題」「ステアリング系統の欠陥」など、複数のリコールを繰り返してきました。Taycanの火災も今回が初めてではなく、中国国内においても過去に死亡事故を含めて複数回の発火事故がありました。こうした一件一件の炎上が、少しずつではありますが確実に、この高級ブランドへの信頼を蝕んでいます。

ポルシェ高級EV「Taycan」

写真：ポルシェ