BYDがブラジルで起訴 強制労働・人身売買の疑いで約65億円の損害賠償請求

5月27日、ブラジル連邦労働検察院は、中国の自動車メーカー・BYDおよびその提携先である中国系建設会社2社を、強制労働および人身売買の容疑で正式に起訴しました。全157ページに及ぶ起訴状の中で、検察は220人の中国人労働者に対する集団的精神的損害賠償として2億5700万ブラジルレアル(約65億円)の支払いを求めるとともに、ブラジル労働法違反に対する損害賠償も請求しています。
この事件は、匿名の通報が発端でした。2024年12月23日、ブラジルの複数の政府機関で構成された特別チームが、建設会社「金匠(Jinjiang Construction)」を急襲し、163人の中国人労働者を救出しました。その後、別の関連会社である「Tecmonta(江苏同和智能装備有限公司の現地法人)」においても、57人の労働者が同様の劣悪な状況に置かれていたことが発覚しました。
問題となっているのは、BYDがバイーア州カマサリ市で建設中の工場プロジェクトです。労働者たちは劣悪で過密な住環境に押し込められ、外出を制限され、パスポートを没収されていました。労働契約には週休なしの長時間労働など、違法な条項が含まれており、ある作業員は過労により指を切断する事故も起きています。
検察によれば、労働者たちは不正な方法で入国し、就労ビザの内容と実際の仕事内容が一致していなかったとのことです。宿舎は最大で31人がトイレ1つを共有するような環境で、寝具も不十分でした。彼らは高額な保証金を支払わされ、給与の最大70%を差し引かれ、契約を途中で解除する場合は高額な違約金に加えて、帰国費用も自己負担させられていました。6か月以内に退職した場合には、ほとんど給与が支払われない仕組みだったとされています。
検察は、裁判所に対して以下の措置を求めています:
- 2億5700万ブラジルレアルの集団的精神的損害賠償の支払い
- 各労働者に対し、21か月分の給与に相当する個別の精神的損害賠償および補償金の支払い
- すべての未払い契約金の支払い
- 労働環境をブラジル労働法に適合させること
一方、中国国内ではまったく異なる反応が見られています。中国のメディア報道によると、当の労働者たちは「虐待されたとは感じていない」「中国国内よりも待遇が良く、給与も高い」と述べており、ブラジル検察の見解には同意していません。
しかし、ブラジル側から見れば、こうした労働・生活環境は「人間として扱っているとは言えない」ものであり、BYDの関連企業によるパスポートの没収といった行為も、人身売買に近いものと受け止められています。中国の政府や国民、さらには当の労働者たちですら、これらの問題を「大したことではない」「ブラジル人は余計なことに首を突っ込むな」とする見方をしているのです。
この事件は、ブラジルにおける正式な起訴と、中国国内の無関心という、対照的な反応を浮き彫りにしています。まるで二つの異なる世界が存在するかのようです。中国やその類似の価値観を持つ国々と、「普遍的な価値観」を重んじる国々との間には、深い溝があることを物語っています。