中国、世界初のワンペダル国家標準を明文化──ABS義務化とともに安全強化

7月4日、中国工業情報化省は、強制的な国家標準「GB 21670—2025『乗用車の制動システムに関する技術要件および試験方法』」の要点を一目で理解できる図解資料を公開し、新たな国家標準の内容について解説を行いました。発表によれば、この基準は国家市場監督管理総局および国家標準化管理委員会の承認を経て公布され、2026年1月1日から正式に施行される予定です。
新たに追加された技術要件
今回の新標準では、以下の内容が新たに追加されました:
- 電力伝達型制動システム(ETBS)
- 回生ブレーキの要件
- 緊急制動信号に関する要件
- 予備車輪に関する制動/蛇行防止要件
- ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の装着義務化 など。
さらに、パーキング解除機構、ブレーキパッドの摩耗チェック、電動パーキングブレーキの電気系統の故障時対応、電子制御走行ブレーキシステム、制動灯の要件なども改訂されました。
なお、新規定には18か月の移行期間が設定されており、新型車は2026年1月1日からの対応が義務づけられる一方、既存モデルについては2026年12月31日まで猶予(2027年1月1日より施行)が与えられています。
注目点①:ABS搭載の義務化
今回の標準の中で特に注目を集めているのは、新たに販売承認を取得するすべての乗用車に対して、ABSの装着が義務づけられた点です。
統計によると、2018年の時点で市場に出回っていた車種の約90%にABSが搭載されていましたが、2024年の時点でも中国国内の乗用車のABS普及率は約92%にとどまっており、依然として8%程度の低価格モデル(主に8万元以下の車両)には未装備のものが存在しています。今後、こうしたエントリーモデルにもABSの装備が義務づけられることで、自動車メーカーのコスト負担は増加する見通しです。
注目点②:「ワンペダルモード」の明確な規制
もうひとつの注目点かつ議論を呼んでいるのが、いわゆる「ワンペダルモード」に関する明確な規定です。
新たな国家標準は、電力回生式の制動システムを搭載した車両において、アクセルペダルを離すだけで車両を停止まで減速させる操作(ワンペダルモード)を“デフォルト動作”とすることを禁止しています。つまり、今後は必ずブレーキペダルによって完全停止を行うことが求められます。
ただし、このモード自体が全面的に禁止されたわけではありません。新標準では、運転者が自らの判断で手動で起動することを条件に、選択的な使用を認めています。また、使用中は視覚的なインジケーターなどによって、運転者にモード状態を継続的に知らせる必要があります。
加えて、回生減速度が1.3m/s²を超える場合には、自動的に制動灯(ブレーキランプ)を点灯させなければならないという明文規定も設けられています。
この一連の規定は、次の3つのステップで構成されています:
- ワンペダルモードをデフォルト設定にすることを禁止する
- ドライバーが自発的に選択・起動できるようにする(起動時にリセットされる)
- 回生ブレーキと制動信号の連動を義務づけ、減速度が一定値を超えた場合はブレーキ灯を点灯する
ワンペダルモードの便利さと潜在的リスク
ワンペダルモード(A型電力回生ブレーキシステムとも呼ばれます)は、アクセルペダルの操作のみで加減速を行えるのが特徴で、多くの新エネルギー車(NEV)に搭載されています。アクセルを緩めると電動モーターが発電し、同時に制動力が発生するため、頻繁なブレーキ操作が不要になります。これにより電力回収効率が上がり、航続距離の延長にも寄与します。特に渋滞時などには「足を離すだけ」で減速できるため、中国では「渋滞対策の救世主」とも称されることがあります。
しかし一方で、この運転ロジックは、長年にわたり多くのドライバーに染みついた「アクセルで加速、ブレーキで減速」という運転習慣を覆すものであり、特に初心者や高齢ドライバーにとっては緊急時の反応が遅れたり、誤ってアクセルを踏んでしまったりするリスクが高いとされています。
実際、テスラの初期モデルでは回生ブレーキの強度調整ができなかったため、「アクセルを離した瞬間に急減速する」操作に戸惑うユーザーも多く、安全性への懸念が表面化しました。米国国家道路交通安全局(NHTSA)によると、毎年1.6万件以上の事故が「ペダルの踏み間違い」に起因しており、国内でも一部車種がワンペダル制御に関するソフトウェア不具合でリコール対象になった例があります。
まとめ
注目すべきは、今回の標準制定が単にワンペダル機能を否定するものではなく、「明確な使用ルールを設定する」点にあります。しかし、これは単に安全と技術進化を両立させようとする当局の思惑にとどまらず、今回の新国標は世界で初めてワンペダルモードを規定した国家標準であり、当局には世界の電気自動車安全基準にも影響を与えようとする意図があります。そのため、完全に禁止することは避けられています。
とはいえ、今後ワンペダル機能に対する社会的評価が変化すれば、次回の標準改定で全面的に禁止される可能性も否定できません。