聞泰科技、オランダ命令でNexperia支配権喪失──中米半導体戦争の新局面

10月12日、中国で半導体およびスマート端末製造(ODM)、自動車向け半導体の開発・生産を手がける聞泰科技(Wingtech Technology)は声明文を発表しました。これによると、オランダ経済省は9月30日付で同社の子会社であるNexperia(安世半導体)に対し、今後1年間、資産・知的財産・事業および人員の調整を禁止する命令を出したということです。

それに先駆けて10月7日、オランダ企業法廷は以下のような追加裁定を下しました。

    • 聞泰科技の会長・張学政氏のNexperiaにおけるすべての職務を停止
    • 外国籍の独立取締役を任命し、決定的な議決権を付与
    • Nexperiaの全株式(1株を除く)を第三者に信託

これにより、聞泰科技はNexperiaに対する実質的な支配権を失うこととなりました。

突発的な「クーデター」の背景

声明文によれば、Nexperiaの首席法務官(オランダ籍)、首席財務官および首席執行官(いずれもドイツ籍)の3名が10月1日、オランダ法廷に緊急申請を提出。調査および暫定措置を求めた結果、同日中に裁判所は張氏の職務停止と株式凍結を決定しました。

オランダ紙「NRC」は、この動きが米国商務省産業安全局(BIS)による9月29日の新規定と関連していると報じています。

同規定では、輸出管理対象リスト(エンティティ・リスト)に指定された企業が50%以上を保有する子会社も、同様に制限の対象となると定められています。

聞泰科技は2024年12月にエンティティ・リスト入りしており、その全額出資子会社であるNexperiaも自動的に管制下に入ることになりました。

イスラエルの複数メディアによると、米国の情報機関はフーシ派武装組織が使用する武器部品に中国製品が含まれていたと確認しており、それが聞泰科技製であるかは不明ながら、Nexperia側は「連座リスク」を回避するため、親会社との切り離しを決断したとみられています。こうして、事実上の「社内クーデター」が発生しました。

中国企業によるNexperia買収の経緯と業績の変遷

NexperiaはもともとNXPセミコンダクターズの標準製品部門で、2016年に中国コンソーシアムが27億5000万ドルで買収し、翌2017年に独立企業として発足しました。

聞泰科技は2018年以降、段階的に株式を取得し、最終的に約330億元(約6,500億円)で完全子会社化を実現しました。

聞泰科技によると、Nexperiaが同社傘下に入った後、中国のEV市場拡大と国内での生産能力増強を背景に、業績は大幅に伸長しました。売上高は2015年の88億元、純利益14億元から、2024年には売上147億元、純利益23億元へと成長。聞泰科技は広東省東莞市に数十億元規模のパッケージング・検査ラインを新設し、生産能力を世界トップクラスに引き上げました。

こうした中で、今回のオランダ政府による支配権凍結措置は、中国メディアでは「海賊行為」と非難されています。

しかし、今回の裁定は支配権の一時停止にすぎず、経済的利益権は維持されていると報道されています。つまり、オランダ企業法廷の裁定によって聞泰科技のNexperiaに対する経営支配は一時的に制限されたものの、配当や収益に関する権利には影響が及ばないと、当初の声明文では説明されていました。ただし、この記述は現在の声明文には見当たらず、その後に削除されたとの報道もあります。

今後の見通し

Nexperiaは現在、米国の新たな輸出管理規定に対して異議申し立てを準備中です。もし上訴が認められるか、あるいは中米間で貿易緊張の緩和が進めば、聞泰科技が再び経営権を取り戻す可能性もあります。

一方で、輸出規制が回避できない場合、オランダ側は「自国産業保護」を理由に、聞泰科技に対してNexperia株式の売却を迫る可能性もあります。その場合、聞泰科技は中核資産を失うことになります。

聞泰科技はエンティティ・リスト入り後、すでに複数のODM事業資産を売却し、経営負担の軽減を図っています。しかし、Nexperiaの支配権を失えば、最大の利益源を喪失し、企業としての存続が危ぶまれる状況に陥る恐れがあります。

今回の事件は、中米対立が欧州にまで波及した新たな事例といえます。米国は輸出規制を通じて圧力を強め、欧州各国は自国の利益と同盟関係の間で難しい選択を迫られています。

今後の展開は両陣営の力関係に左右されますが、現時点では、欧米が中国資本による半導体企業買収への体系的な規制を強化していく流れは明白であり、聞泰科技がNexperiaの支配権を失う可能性は極めて高いとみられます。

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