中国自動車メーカーがHEVに本格参入 技術蓄積と海外市場を背景に、日本勢の牙城を揺るがすか

最近の中国自動車業界における大きな変化の一つとして、HEV(ハイブリッド車)が再び主要メーカーの注力分野となっていることが挙げられます。Chang’an(長安汽車)、Geely(吉利汽車)、GWM(長城汽車)、GAC(広汽)、Chery(奇瑞汽車)といった従来型メーカーが相次いでHEV技術の発表や導入を進める一方、これまでBEVやPHEVを中心に展開してきたメーカーも、この市場に関心を示し始めています。長らく日系メーカーが主導してきたHEV分野に、中国メーカーの参入が一段と広がってきました。

こうした動きは、業界内外でさまざまな議論を呼んでいます。HEV自体は新しい技術ではありませんが、なぜ今になって再び注目を集めているのか。なぜ中国メーカーはこのタイミングで一斉に参入しているのか。そして、この市場には今後も成長余地があるのか。技術の進化、政策環境の変化、ユーザー需要、そしてグローバル市場という4つの観点から見ると、今回のHEV再評価は偶然ではなく、複数の要因が重なって生じた動きだといえます。

HEVは新しい技術ではないが、市場での役割が変わりつつある

HEVとは、簡単に言えば「外部充電を必要としないハイブリッド車」です。エンジン、モーター、小容量バッテリーを組み合わせた構成で、バッテリーは主にエンジン作動時や回生ブレーキによって充電されます。充電スタンドに依存せず、使い方は従来のガソリン車に近い一方で、燃費や走行の滑らかさでは純粋なガソリン車より優れるケースが一般的です。

歴史的に見ても、HEVは決して新しい存在ではありません。1990年代にはトヨタがプリウスを投入し、その後ホンダやレクサスなどの日系メーカーがこの分野を継続的に深耕してきました。早期からの技術開発と長年にわたる市場実証を背景に、日系メーカーは世界のHEV市場で明確な優位性を築いてきました。

近年はBEVの存在感が急速に高まっていますが、それでもHEVは海外市場で主流の座を失っていません。2025年にはトヨタの世界HEV販売台数が443万台に達し、米国や欧州市場でもHEV販売は引き続き増加しました。これは、この技術が世界的に見てもなお安定した需要を持っていることを示しています。

その意味で、中国メーカーが今HEVへと舵を切っているのは、新たな「成長分野」を見つけたというよりも、新エネルギー車市場が次の段階に入る中で、動力戦略を現実に即して見直している動きと捉えるべきでしょう。

なぜ今なのか PHEVの蓄積がHEV拡大の土台になるか

中国メーカーがこれまでHEVに本格参入してこなかったのは、単にやる気がなかったからではなく、産業基盤が十分に整っていなかったためです。過去10年間、中国の自動車メーカーは主にBEVとPHEVに経営資源を集中してきました。これは政策誘導の影響もありますし、電池、電動駆動、電制といった主要技術が急速に進展したこととも関係しています。

一方で、HEVは中国の産業政策において、ダブルクレジット制度の影響を受けており、補助金の支援も受けられない位置付けにありました。その後、補助金の縮小や新エネルギー車比率の上昇が進むにつれ、市場における政策主導の色合いは徐々に薄れてきています。

技術面でも、HEVは当初、技術的ハードルが高く、コスト面でも有利とは言えず、中国メーカーにとっては優先順位の低い分野に位置付けられていました。

しかし、ここ数年でPHEV市場が急拡大したことで状況が変わってきました。ハイブリッド専用エンジン、モーター、電制システム、DHT変速機といった主要部品が量産段階に入り、サプライチェーンも徐々に成熟し、コストも大きく低下しています。こうした基盤の上で、バッテリー容量を抑え、制御ロジックを見直せば、より低コストなHEVを構築できるようになったのです。

この意味で、現在の中国製HEVの本格展開は、実際にはPHEV分野で積み重ねてきた技術力と供給網の延長線上にあります。業界では、ここ数年のPHEVへの投資が、結果としてHEVの準備を先に整えていたという見方も出ています。

専門家の見方もほぼ一致しています。天津大学の姚春徳教授は、PHEV市場の急成長によって、エンジン、モーター、電制、ハイブリッド専用トランスミッションといった基幹技術の成熟が早まり、これらがそのままHEVへ転用可能になったと指摘しています。また、北京航空航天大学の徐向陽教授は、この流れを「智能電動技術の波及効果」と表現し、中国メーカーがBEVやPHEVで培った技術優位が、HEV分野にも広がり始めていると分析しています。

中国HEVと従来の日系HEVの違いは、「安い」ことだけではない

今回のHEV参入において、中国メーカーは単純に日系メーカーの旧来技術をなぞっているわけではありません。従来の日系HEVは、長年にわたり遊星ギヤ(プラネタリーギヤ)を用いた動力伝達システムを中心に技術体系を構築してきましたが、中国メーカーはむしろ電動駆動技術の発展を土台にしたシリーズ・パラレル型のハイブリッド構成を採用するケースが多くなっています。PHEV時代に育てた電動系ユニットを活かしながら、HEV向けにバッテリー容量やエネルギーマネジメントを再設計している点が大きな特徴です。

この技術パラダイムの違いにより、いくつかの可能性が生まれています。

まず、各社の公表値ベースでは、性能や燃費の改善が見られます。たとえば、Geelyのi-HEVではエンジン熱効率が48.41%に達し、帝豪i-HEVの実測燃費は100kmあたり2.22Lとされています。また、Chang’an(長安)の「藍鯨超擎HEV」も、市街地条件で100kmあたり2.98Lという燃費を示しています。これらの数値が今後どこまで広範な市場環境で再現されるかは見極めが必要ですが、少なくとも中国メーカーが日系とは異なる技術路線でHEVの効率向上を図っていることは確かです。

ただし、こうした指標については冷静に見る必要もあります。清華大学の帅石金教授は、熱効率のような数値は確かに技術進歩を反映しているものの、実際の使用環境から切り離され、実験室や限定条件下の数値だけが強調されると、その意味が過大評価される恐れがあると指摘しています。HEVシステムの先進性を判断するうえでは、量産条件のもとで効率、コスト、信頼性のバランスが取れているかどうかがより重要だといえます。

次に、コスト構造の改善も重要な変化です。中国メーカーは電池、モーター、電制分野で自社開発力と地場サプライチェーンの整備を進めており、HEVシステムのコストは従来より大幅に下がっています。業界内では、自主ブランドの主要部品コストは日系メーカーの体系より15~20%低い可能性があるとの見方もあります。さらにHEVはPHEVほど大型バッテリーを必要としないため、同クラスのガソリン車に近い、あるいは同等の価格帯に収めやすいという利点もあります。

さらに、商品としてのHEVの位置付け自体も変わりつつあります。これまで多くの消費者にとってHEVは、「燃費はいいが、装備は控えめで、スマート化も弱い」という印象がありました。しかし最近の中国製HEVでは、バッテリー容量が概ね3~5kWh程度まで引き上げられ、PHEVに近い電子電気アーキテクチャも採用されるようになっています。その結果、OTA、スマートコックピット、一部の運転支援機能、駐車中のエアコン利用、外部給電といった機能にも対応し始めています。つまり、中国メーカーのHEVは単なる「省エネ型ガソリン車」ではなく、低燃費とスマート体験を両立する新しいハイブリッド車へと変化しつつあるのです。

姚春徳氏もこの点に触れ、初期の日系HEVでは1~2kWh前後のニッケル水素電池が広く使われていたのに対し、中国ブランドではすでにエネルギー密度の高いリチウムイオン電池への切り替えが進み、容量も適度に引き上げられていると述べています。これにより、車両全体の応答性、給電能力、機能拡張性により大きな余地が生まれているといいます。

なぜ需要が立ち上がるのか HEVはBEVとガソリン車の隙間を埋めている

HEV市場の活発化は、供給側の動きだけで説明できるものではなく、需要面にも現実的な空白があることと深く関係しています。

中国では新エネルギー車の普及率がすでに50%を超えていますが、それでもなお相当数の消費者はBEVやPHEVへ移行していません。これは単なる意識の問題ではなく、実際の使用条件に制約があるためです。固定充電設備を持たない家庭は60%を超え、県や郷レベルの地域では充電インフラの整備もなお不十分です。さらに、寒冷地では冬場のBEV航続距離低下が利用意欲に影響を与えています。こうした層にとって、BEVやPHEVが必ずしも最適解とは限りません。

HEVの利点は、まさにこの点にあります。充電が不要で、使い方はガソリン車とほぼ同じでありながら、燃費はガソリン車よりおおむね30~40%低く抑えられます。ユーザーの使い方を変えずに、長期的な使用コストを下げられる点は大きな魅力です。たとえばChang’an(長安)の公表値ベースでは、同社第4世代「逸動 藍鯨超擎HEV」は、市街地実測燃費が2.98Lで、同クラスのガソリン車が約6L程度であることを考えると、年間1.5万km走行する場合、長期コスト差は無視できない水準になります。

市場データにもこうした需要の兆しが表れています。2025年の中国国内HEV販売はすでに120万台を突破しており、業界では2026年に180万~200万台に達し、普及率もさらに上昇するとの見方が一般的です。中国メーカーにとってHEVは、「まだ完全には電動化していないユーザー層」を受け止めるための重要な商品カテゴリーになりつつあります。

HEVの意義は国内だけにとどまらず、海外市場でも大きい

中国市場だけを見れば、HEVは充電条件に恵まれないユーザー向けの補完策といえます。しかし、視野を世界に広げると、その戦略的重要性はさらに大きくなります。

現在も世界には巨大なガソリン車市場が残っており、東南アジア、中東、中南米、アフリカでは、充電インフラが十分に整っていない地域が多くあります。家庭充電の習慣も定着していないため、BEVやPHEVの普及には一定の制約があります。その点、HEVは充電設備に依存せず、給油だけで利用できるうえ、燃費改善効果も大きいため、こうした市場では受け入れられやすいのです。

欧米市場のデータも、HEVの現実的な競争力を裏付けています。2025年の欧州HEV販売は456.7万台に達し、前年比で約20%増、市場シェアは約35%となりました。米国でもHEV販売は200万台に達し、前年比26.6%増となっており、依然として成長している数少ないカテゴリーの一つです。輸出規模の拡大を目指す中国メーカーにとって、HEVは決して周辺的な選択肢ではなく、従来型自動車市場へ入り込むための現実的な手段といえます。

徐向陽氏も、中国の自動車輸出は急成長しているものの、輸出構成に占めるHEVの比率は依然として低く、一方で海外市場でのHEV需要は決して弱くないと指摘しています。中国メーカーが真にグローバル競争力を高めようとするなら、HEVは避けて通れない分野だというわけです。

HEV市場は今後も伸びるのか 問われるのは一時のブームではなく、長期的な実力

現在の動向を見る限り、HEV市場は短期的にさらに活発化する可能性が高いと考えられます。ただし、それは参入したすべてのメーカーが最終的に勝ち残ることを意味するものではありません。

まず、中国製HEVは現時点では、効率、コスト、スマート化の面で進展が見られますが、HEVの本質的な競争力は単なる燃費性能だけで評価できるものではありません。信頼性や耐久性、さらには長期的な維持コストこそが重要な評価軸となります。日系HEVが長年にわたり優位性を維持してきた背景には、先行優位だけでなく、長期にわたる市場での実績と信頼の蓄積があります。こうした評価は、単一の技術指標で代替できるものではなく、最終的には実際の長期使用を通じて判断されるものです。

また、価格競争は短期的には市場拡大に寄与する可能性がありますが、過度な競争に陥れば、かえって技術投資や品質向上を阻害する恐れがあります。HEVが持続的な市場として定着するためには、単なる価格やマーケティングの勢いではなく、総合的な事業運営力が問われることになります。

さらに、海外市場には大きな成長余地がありますが、中国メーカーにとっての課題は製品力にとどまりません。販売網の整備やアフターサービス体制の構築、ブランド信頼の確立なども不可欠です。世界のHEV市場で長年実績を積み重ねてきたトヨタなどと比べると、中国ブランドは依然として追い上げの段階にあります。

その上で、今後の鍵となるのは、中国メーカーが現在の技術的な進展を、安定性・信頼性・持続性を備えた製品力へと着実に転換できるかどうかです。加えて、海外市場においても競争力を確立できれば、日本メーカーにとって本格的な脅威となる可能性があります。

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