テスラ、FSDの中国市場導入を断念?代替品提供で競争リスク対応

ブルームバーグは2月24日、関係者の話として、テスラが中国の顧客向けに、米国の「完全自動運転(FSD)」に類似した運転支援機能を提供するソフトウェアアップデートを準備していると報じました。

報道によると、この機能は、テスラが「FSD」と呼ぶサービスに64,000元を支払った顧客に提供される予定です。また、自動運転機能のアップデートにより、テスラのオーナーは市街地の道路でも運転支援機能を利用できるようになるといいます。この機能は一部の車種で導入され、段階的に拡大される見込みです。

テスラが誇る自動運転技術であるFSDの中国導入は、長らく市場の注目を集めてきました。しかし、過去1年間、イーロン・マスク本人の発言やテスラ関係者のリークを受け、「FSDが間もなく中国で認可される」との噂が相次いだものの、いずれも実現には至っていません。

FSDの中国市場導入が何度も延期されている主な要因は、中国の国家安全保障に関わるデータ収集の規制にあります。中国政府はデータの海外流出を認めておらず、国内での保存を義務付けています。また、データのトレーニングセンターも米国とは分離し、中国の国有クラウドサービス上にホスティングする必要があります。一方、テスラは技術流出を懸念しており、さらに米国政府もテスラが中国でデータをトレーニングすることを認めていません。このような板挟みの状況が、FSDの中国導入を遅らせているのです。

そのため、FSDが中国市場に正式導入されるための前提条件として、まずは中国国内にトレーニングセンターを設立すること、そして工業情報化省(MIIT)からFSDの国内道路テストナンバーを取得し、実際にテストを開始することが挙げられます。これらの動向が明確にならない限り、FSDの中国導入時期に関する予測は不確実なままです。

FSDの中国導入をめぐる焦りの背景には、テスラの存続そのものに関わる問題があります。

第一に、イーロン・マスクの政治的スタンスが、テスラの販売に不確実性をもたらしています。公開データによると、2024年のテスラの世界販売台数は178.92万台で、前年比1.1%減少しました。これは10年以上ぶりの販売減少です。マスクの政界への影響力が拡大するにつれ、2025年の販売減少はさらに深刻化すると予想されます。一方、中国市場では2024年の販売台数が65.7万台を超え、前年比8.8%増となり、テスラにとって唯一の希望となっています。

もう一つの理由は、中国市場における自動運転技術競争の激化です。最近、中国の自動車メーカー各社が「全民智能驾驶(誰もが使える自動運転)」を次々と打ち出しており、特に最近BYDが「天神の眼」という新しい自動運転システムを発表したほか、Geely(吉利)やChrey(奇瑞)も3月にスマート化技術に関する発表を予定していると報じられています。

FSDの中国導入が遅れることで、一部の消費者のテスラ購入意欲が低下し、中国ブランドとの競争で不利な立場に置かれる可能性があります。これは中国市場でのテスラの販売に影響を及ぼすでしょう。現在のテスラの時価総額のうち、少なくとも半分は中国市場の影響を受けているとされており、FSDの中国導入が認可されるかどうかが、テスラの将来を左右する重要な要素となる可能性が高いです。

もしブルームバーグの情報が正しければ、中国のユーザーに提供されるソフトウェアは何でしょうか?テスラの中国市場での有料運転支援機能には2種類があります。ひとつは64,000元のFSD(完全自動運転)、もうひとつは32,000元のEAP(Enhanced Autopilot、強化版運転支援機能)です。現在、FSDは利用できませんが、EAPには問題はありません。

EAPには、基本的な運転支援機能(Autopilot)に加え、ナビゲーション支援運転、車線変更支援、自動駐車、基本的な召喚機能や高度な召喚機能が含まれています。これらの情報を総合すると、テスラが64,000元を支払った中国の顧客に提供する「FSDに似た」ソフトウェアは、FSDの代替版、つまりEAPのアップグレード版である可能性が高いですが、FSDそのものではないと考えられます。

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