中国が新ステアリング国家標準を公布──機械式連結の必須要件を撤廃し、ワイヤー制御時代へ本格移行

中国工業情報化部は12月2日、国家標準 GB17675-2025「自動車のステアリング系 基本要件」を公布し、2026年7月1日から現行の GB17675-2021 を正式に置き換えると発表しました。自動運転やワイヤー制御シャシー技術の発展が加速するなか、今回の改定では業界の変化に合わせて体系的な見直しが行われました。とりわけ注目されるのは、長年義務付けられてきた機械式連結の必須要件が削除され、ステアバイワイヤ(SBW)や電動パワーステアリング(EPS)といった新技術の本格的な普及に向けた制度面の障壁が取り除かれた点です。
機械的な連結を前提としない、電子制御と電源系に大きく依存する新たな構造に対応するため、新標準では安全性に関する規定が大幅に強化されました。国連の UN R79 最新改訂版を参照し、ステアリング機能が失われた際の冗長性に関する要件が明確にされたほか、機能安全に関する用語および検証体系が導入され、電子制御ステアリングシステムは ISO 26262 の定める安全レベルに適合する必要があります。さらに、全電動ステアリングが蓄電装置からの電力に全面的に依存することを踏まえ、蓄電装置の劣化や性能低下を検知する新たな警報要件が追加され、蓄電装置には状態をリアルタイムで監視・評価し警報を発するエネルギーマネジメントシステムの搭載が義務付けられました。これにより、システム運用の安全マージンが根本から引き上げられます。
併せて、新標準では電源喪失、制御伝達の途絶、エネルギー供給の途絶など、さまざまな故障シナリオにおける車両の安全確保策も具体的に定められました。車両が安全状態を維持できるよう降格運転時の減速開始時点や減速度、警報手段、蓄電レベル、降格後の駐車方式などが細かく規定され、故障時の対応がより明確になっています。また、全電動ステアリングの試験方法も見直され、故障時の操舵力試験の要件が改められたほか、ワイヤー制御技術の特性に合わせた追加試験が新設され、検証体系全体の実効性が高められました。
これらの主要項目に加え、新標準では関連用語の定義が整理され、電子制御ステアリングの機能安全報告書や説明文書の形式・要件も強化されました。監督機関、試験機関、メーカーが共通の技術言語でやりとりできるようにすることで、制度の運用可能性を一段と引き上げています。今回の改定は、中国におけるステアリング技術の電動化・知能化に向けた標準体系の大きなアップグレードを意味します。
標準の策定には、NIO(蔚来)、Xpeng(小鵬)、BYD(比亜迪)、Geely(吉利)、シャオミ(Xiaomi)、ファーウェイ(華為)、Zeekr(極氪)、Chang‘an(長安)、GWM(長城)といった主要メーカー、ならびにトヨタ智能電動車研究開発センター(中国)やメルセデス・ベンツ(中国)投資有限公司などの合弁企業が参加し、中国汽研(CAERI China Automotive Engineering Research Institute Co., Ltd.)や中汽中心(CATARC China Automotive Technology & Research Center)などの試験研究機関も加わりました。
新たな制度環境の整備により、ステアバイワイヤの量産化に向けた条件はすでに整いつつあります。現在、インフィニティ Q50、IM Motor(智己) L6、NIO(蔚来) ET9、テスラ Cybertruck などが同技術を採用しています。Q50 は国内で最初にステアバイワイヤを搭載したモデルで、機械的なバックアップを残していますが、NIO ET9 は国内初の「完全ステアバイワイヤ量産車」として位置付けられます。さらに、BYD 傘下の高級ブランドDENZA(騰勢)も今後発売するスポーツカーに技術採用を予定しており、中国の自動車産業は本格的に「ワイヤー制御時代」へと移行していく見通しです。