一回のテストで時価総額400億元が蒸発 「i8」の「衝突騒動」、Li AutoのEV戦略に暗雲

7月29日、Li Auto(理想汽車)は北京国家会議センターで新製品発表会を開催し、初の純電動SUV「i8」を公開しました。CEOの李想氏が「過去10年で最も重要なモデル」と位置づけたこの車は、同社のEV転換への決意を象徴するものであり、同時に、会場で公開された「乗用車と大型トラックの正面衝突テスト映像」が大きな波紋を呼びました。

Li Autoの純電動SUV「i8」

写真:Li Auto

「乗用車が大型トラックに勝った」衝撃映像が世論を騒がす

議論を巻き起こした映像では、2.6トンのLi Autoの「i8」が時速100kmで、8トンの「乗龍(Chenglong)」ブランドのトラックと正面衝突しました。その結果、トラックのキャビンは宙に舞い、i8の車体構造はほぼ無傷のままでした。

この衝撃的な映像はSNS上で瞬く間に拡散され、翌日には「乗龍トラック」の「斗音(Douyin)」(TikTok中国版)のコメント欄が、「もう買えない」「後輪まで吹き飛んだ」「目覚めたら世界が変わっていた」などの否定的なコメントであふれました。

Li Autoはこの「視覚的インパクトのある安全テスト」によって、自社を神格化することに成功したと同時に、他社の製品を「安全性に劣る存在」として印象づけるかように見えました。しかし、完璧に見えたこのマーケティングパフォーマンスは、わずか72時間で大規模の資本市場の災難へと転じました。

Li Auto i8と乗龍トラックの衝突テスト

写真:インタネット

東風柳汽が反撃、三つの「原罪」を指摘

乗龍ブランドの親会社である東風柳州汽車有限公司は、ただちに反撃に出ました。まず、Li Autoが不正競争防止法、広告法、民法典に違反しているとして厳重な声明を発表し、さらにこのテストにおける三つの重大な問題点を指摘しました。

東風柳汽の大株主は、東風汽車集団(75%)と広西柳州産業投資発展集団(25%)であり、いずれも国有資本です。

株式市場へ波及、Li Autoの株価が連日下落

騒動はすぐに資本市場にも波及しました。7月30日以降、Li Autoの香港株は下落を続け、7月30日には12.84%の大幅下落、7月31日は0.67%の微減、8月1日には3.18%下落し、時価総額は約400億元蒸発しました。

同時に空売り株数は、330万株から2316万株へと急増し、香港上場の自動車株の中で最も空売りされた企業となりました。

米国市場でも2営業日で累計9%以上下落し、Li Auto時価総額は200億元以上消失しました。

また、A株市場の自動車セクター全体でも一時4.3%を超える下落を記録し、NIO、Xpeng、LeapMotorなどの新興EVメーカーの多くが値を下げました。市場は、こうした「他社を貶めるようなマーケティング手法」が業界全体の評価を引き下げ、資金調達コストの上昇や法的リスクの増大につながることを懸念しています。

もし東風柳汽が訴訟で勝訴すれば、不正競争防止法に基づき、Li Autoは最大で売上高の30%に相当する賠償責任を負う可能性があり、ブランド価値の毀損を含めた損失は50億元を超えるおそれがあります。

成長失速、i8に託される「起死回生」の希望

販売データによれば、Li Autoはすでに調整局面に入った模様です。2025年6月は前年同月比で24%の減少、7月はさらに39.74%減と、近年ではまれに見る大幅な下落となりました。主力のLシリーズは勢いを失い、MEGA(純電動MPV)は期待外れに終わり、i8はまだ納車前で市場の反応は不透明です。

2025年Q1の決算では、売上高が259億元で前年比1%増にとどまり、利息収入などの非営業項目を除けば、純利益は20%以上減少しました。1台あたりの純利益は1.78万元から0.7万元未満に減少し、収益力の低下が鮮明になっています。

この状況を受けて、年間販売目標は70万台から64万台へと下方修正されました。上半期の達成率はわずか3分の1にとどまっています。特にファーウェイ、シャオミ、テスラといった強力な競合が次々に新型車を投入するなかで、i8はEV転換における「希望の星」として大きな期待を背負っています。

「スペック合戦」から「AI勝負」へ、Li Autoの転換への焦り

i8は6人乗りの大型純電動SUVで、価格は32.18万元〜36.98万元。すべての車種に二重チャンバーエアサスペンションを標準装備し、MPVの空間性、SUVの走破性、セダンの操縦性を融合させることを目指しています。

しかし、NIOやシャオミが車内収納や前トランクといった新たなトレンドを牽引するなか、i8では前トランクが廃止されており、「時代遅れだ」との指摘もあります。

Li AutoはAIを活用して差別化を図ろうとしており、発表会ではVLA運転大モデルとMindGPTインテリジェントアシスタントを重点的に紹介しました。EV+AI領域での競争力強化を狙っていますが、現時点では市場も投資家もこの戦略に熱狂していない状況です。

投資家の売却と内部不安

i8の発表直前には、経営陣および主要株主による株式売却が相次ぎました。美団(Meituan)のCEOである王興氏は4日間で570万株以上を売却し、現金化額は6億香港ドルを超えました。副社長の邹良軍氏とCTOの謝炎氏も続けて株式を売却しています。

さらに、Lシリーズ車種におけるステアリングからの異音問題に対するオーナーからの苦情が相次ぎ、1か月の関連苦情件数は200件を超え、ブランドイメージへの打撃となっています。

結び:失敗の許されない「i8逆転劇」

MEGAが失敗に終わった今、i8はLi Autoにとって「絶対に負けられない戦い」となっています。同社は純電動モデルの年間販売目標を5万台から12万台へと引き上げ、9月には新型i6の投入も予定しており、高級EV市場への総攻撃に出る構えです。

しかし、製品力、技術力、充電インフラ、ブランド信頼、投資家信認といった複数の課題を抱える中で、i8の成否は今後1〜2年にわたるLi Autoの命運を左右するだけでなく、同社の長期的な戦略にも大きな影響を与えることになるでしょう。

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