テスラ、サプライチェーン脱中国化を加速 米国生産モデルで中国製部品を全面排除、GM・ステランティスに追随

11月15日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、テスラは米国で組み立てる車両について、中国製部品の使用を除外するよう取引先に求めています。ゼネラル・モーターズ(GM)に続き、サプライチェーンの「脱中国化」を進める米国メーカーの一社となります。複数の関係者によれば、この方針は今年初めに社内で決定され、すでに一部の車種で対応が始まっているといいます。
中国製部品の代替が進行、置き換え作業はすでに始動
関係者によると、テスラとその部品サプライヤーは、中国製部品の一部をすでに他地域で生産された部品に切り替えており、今後1~2年のうちに、米国製モデルから残る中国製部品をすべて非中国製に置き換える計画です。報道では、テスラの米国工場では依然として中国サプライヤーに依存している部品があり、とりわけ電池パックや電動制御システムなどの基幹部品の依存度が高いとされています。
新型コロナ以降、中国から米国へのサプライチェーンは度重なる混乱に見舞われ、テスラは早い段階から調達先の分散化を進めていました。さらに、トランプ大統領が中国からの輸入品に高関税を課したことで、この動きは今年加速しました。
米中摩擦と半導体供給の停滞が脱中国化を後押し
報道によれば、米中貿易戦争の過程で関税が頻繁に変動したことが、テスラにとって安定した価格戦略の策定を難しくし、サプライチェーンのコストやリスクの不確実性を高めました。
加えて、最近では中国とオランダの間でNexperia(安世半導体)の経営権を巡る対立が起き、同社製チップの供給が滞ったことで車載半導体の不足が再燃しました。この事態は、テスラ社内でサプライチェーンの見直しを加速させる必要性を巡る議論を強めたとされています。供給の安定確保や地政学リスクへの警戒が、方針転換の背景にあります。
WSJは、テスラが非中国の代替サプライヤーを探すだけでなく、一部の中国系サプライヤーに対しても、生産拠点をメキシコなど他地域へ移すよう促していると報じています。これは米国の高関税を回避する狙いがあるとされています。
GMやステランティスも同調、米自動車各社がサプライチェーン再編へ
テスラの動きは単独ではありません。ロイター通信(11月12日)は、GMがサプライヤーに対し、中国以外での原材料・部品の調達先を確保するよう指示したと報じました。一部のサプライヤーには、2027年までに中国からの調達を終了する期限が設けられています。ステランティスも今年初めから同様の措置を取り、トランプ政権の関税強化に対応しています。
米国メーカー各社が足並みをそろえて「脱中国化」を進める背景には、強まる貿易政策の制約と政治的要因があるとみられます。
中国は依然としてテスラの最重要生産・調達拠点
一方、今回の方針はテスラの上海ギガファクトリーには影響しません。中国はテスラにとって米国に次ぐ第2の市場であると同時に、世界最大の生産・調達拠点でもあります。
テスラ幹部はこれまで、上海ギガファクトリーで使用される部品の95%以上が中国国内調達であると繰り返し説明してきました。上海証券報(2024年11月26日)によれば、テスラは中国国内で400社以上の一次サプライヤーと契約し、そのうち60社以上がテスラのグローバルサプライチェーンに組み込まれています。
中国のサプライチェーンは規模、コスト、成熟度の点で依然として代替が難しく、「脱中国化」の対象は主として米国生産モデルに限られます。
欧州関税や中国市場の競争激化も圧力要因に
サプライチェーンの見直しの背景には、世界市場環境の変化もあります。欧州連合(EU)は今年7月、中国製EVに暫定的な反補助金関税を課し、上海ギガファクトリーから欧州市場への輸出にも影響が及びました。
中国汽車流通協会(CADA)のデータでは、テスラの10月の中国製EV販売台数は前年比9.9%減の61,497台となり、とくに欧州やインドなどへの輸出分を含むモデルは前月比で30%以上落ち込みました。
まとめ:地政学リスクが米国モデルの脱中国化を推進、2年以内に完了の見通し
これらの状況を踏まえると、テスラがサプライチェーンを見直す主因は、中米間の貿易摩擦による関税リスクの増大、パンデミックや国際的な対立による供給網の寸断、米国政府の対中規制の強化、そしてGMやステランティスに代表される業界全体の動きにあるといえます。
テスラは今後2年以内に、米国生産モデルから中国製部品を完全に排除する計画ですが、中国工場は従来どおり中国サプライチェーンに依存します。結果として、テスラは今後、中国向けと米国向けで供給網を二重に持つ形となる可能性が高いです。効率性の面では課題があるものの、同社にとってはリスク分散を図るうえで最も安全な体制だと考えられます。